第16話 盛大な勘違い
明けましておめでとうございます!
皆様の応援のお陰で年末のジャンル別の日間、週間ランキングの1位を取ることができました!ありがとうございます!
今年も何卒よろしくお願いします!
放課後の教室。
西日が差し込む中、私――愛川リナは一人、机に突っ伏していた。
「……ありえない」
机の上には、真っ赤なインクで『補習対象』と書かれた通知書。
学年順位、268位。
その数字が、私のプライドを粉々にしていた。
「リナちゃーん、まだ帰らないのー?」
教室の入り口から、いつものグループの子たちが声をかけてきた。
その声には、明らかに嘲笑の色が混じっている。
「あ、ごめんごめん。リナちゃん『補習』あるんだっけ? 大変だねー」
「今まで頭そこそこキャラだったのにねー。メッキ剥がれすぎでしょ」
「じゃ、私たちはスタバ寄って帰るからー。頑張ってね」
ひらひらと手を振って去っていく彼女たち。
悔しさで唇を噛む。
あの子たちは、私が100位台だった頃は「リナちゃんすごい!」「ノート見せて!」とちやほやしていたくせに。私が落ちぶれた途端、これだ。
(……別に、私がバカになったわけじゃないもん)
私は心の中で言い訳をする。
今回はたまたま勉強しなかっただけ。長谷川くんとのデートとか、メイクとか、他にやることがいっぱいあったから本気出せなかっただけ。
本気を出せば、私だってやれるはずなんだから。
スマホを取り出し、彼氏である長谷川くんにLIMEを送る。
『ねえ、補習だるい。慰めてー(泣き顔)』
既読はすぐについた。
でも、返ってきたのは冷たい一言。
『俺も部活で忙しいから無理。つーか、お前もっと勉強しろよ。俺の彼女がバカだとカッコつかねーんだわ』
……は?
何それ。自分だって赤点ギリギリのくせに。
今まで私が優しく勉強を教えてあげようとした時は「ダルい」って拒否したくせに。
スマホを机に投げ出す。
画面が暗くなり、そこに映った自分の顔は、酷く惨めで、ブサイクだった。
「……なんで、こうなったの」
一ヶ月前までは、全てが順調だった。
カースト上位の私。成績もそこそこ優秀な私。優しい彼氏(柏木)もいた私。
あの頃は、面倒な課題やテスト対策は、柏木が全部やってくれていた。
私はただ、彼が作ったノートを眺めるだけで、簡単に点数が取れた。
――柏木。
ふと、視線が窓際の席に向く。
そこにはもう、誰もいない。
でも、昼休みの光景が脳裏に焼き付いていた。
『先生、見て! 18位!』
『ああ。よく頑張ったな、如月』
1位の柏木と、18位の如月ことね。
二人は並んで笑っていた。
特に、あの不登校だった如月ことね。あの子があんな高順位を取れたのは、間違いなく柏木の力だ。
(……柏木の指導があれば、不登校の子でも18位になれるんだ)
なら。
元々100位台だった私が彼に教えてもらえれば、もっと上に行けるはずだ。50位、いや、10位だって夢じゃないかもしれない。
そう思ったら、急に長谷川くんのことがどうでもよくなってきた。
顔はいいけど、中身は空っぽで、私を助けてくれない男。
それに比べて柏木は、地味だけどハイスペックで、私に尽くしてくれていた。
「……選択ミスったかな」
ポツリと呟く。
でも、まだ間に合うかもしれない。
だって、私たちは3ヶ月も付き合っていたんだし。あんなポッと出の引きこもり女より、私の方が柏木のことをよく知っている。
今はちょっと、私が酷いこと言ったから拗ねているだけ。
それに、あの子に夢中になってるフリをして、私に焼き餅を焼かせようとしているのかもしれない。
「……そうよね。だって私、可愛いし」
鏡を取り出し、前髪を直す。
大丈夫。私はまだ可愛い。
ちゃんと謝って、「やっぱり柏木くんが一番だった」って泣きつけば、あの優しい彼はきっと許してくれる。
そうすれば、またあの楽で輝かしいポジションに戻れる。
(人は変われるっていうし……私も、素直になれば変われるはずよね)
その言葉の意味を、私は盛大に履き違えていた。
「自分が努力して変わる」のではなく、「相手を変えて(取り戻して)状況を変える」ことしか考えていなかった。
「……夏休み」
もうすぐ夏休みだ。
学校では如月がベッタリだけど、夏休みならチャンスがあるはず。
偶然を装って会って、アピールすれば、イチコロよね。
「待っててよ、柏木。……あんたの隣は、やっぱり私が一番似合うんだから」
私は補習のプリントを雑に鞄に詰め込むと、軽い足取りで教室を出た。
自分が既に、彼にとって「終わったコンテンツ」になっているとも知らずに。
私の、長くて痛い「勘違いの夏」が始まろうとしていた。




