地下室
王女であった祖母が祖父と結婚する際に与えられたのが私が現在住んでいる大きな屋敷。地下室も存在し、私はお父様に手を繋がれて階段を下りていた。
「埃っぽい」
「あんまり来ねえんだよ、面倒で」
「何があるの?」
「主に、表にあると都合の悪い魔法書や魔道具」
出入口を滅多に開けないせいで空気は淀み、埃臭さが充満して最悪だ。おやつを食べる前に地下室へ行こうと誘われ、ノコノコ付いて来た私が言うのもなんだけどね。
「調べ物をするために地下へ?」
「うん? ああ、まあな」
お父様にしては珍しい曖昧な返事。ちょっと前からお父様の様子がおかしい。何がおかしいと言われると困るけれど、強いて言うなら過保護に磨きがかかった気がする。元々過保護なのに、更に上に行ってしまってどうするのか。何をするにもお父様が一緒なのは同じだけれど、街へ行った時ずっと抱っこをされていた。もう十一歳だよ? って文句を飛ばしてもお父様は私を離さなかった。
心当たりが私にはなく困惑とした日々を最近送る羽目になっている。片手に乗せている光る玉のお陰で真っ暗な地下室を明るく照らし、私が想像していたよりずっと広い空間がそこにはあった。幾つか部屋がある。一つ、二つ、……五つはある。
「お部屋全部見ていい?」
「駄目。どれも危険な魔法書や魔道具を保管してある」
部屋にはそれぞれ表札がかけられており、A〜Eまでがある。これは危険度を表しているとお父様は私を抱っこした。
「一番危険なのはA?」
「ああ。おれでも入ると戻って来れるかどうか」
「え」
「AとBは、部屋の空間そのものが歪んでる。C〜Eは普通に入れるが、入った途端部屋にある物に襲われる危険がある」
「生き物がいるの?」
「禁術が記されている魔法書や禁忌指定されている魔道具には、物そのものに意思が宿るとされているんだ」
「う、うわあ……」
内心こっそりと忍び込んで何があるか見てみようって画策したのにこれじゃあ危な過ぎて駄目じゃん。私の悪戯計画は一瞬で終わった。
「そうだ、一つ言い忘れていた。お前と第二王子の婚約、白紙にしてやったぜ」
「ほんと!?」
待ちに待った言葉に思わず大声が出てしまう。喜びを露にする私を見つめるお父様も嬉しそうだが、気のせいか若干面倒臭げだ。
「クロウリーは一旦白紙にって感じだったがな」
「一旦じゃないよ、永遠だよ永遠」
「あの馬鹿王子には良い薬になったろう」
どんな内容の話か教えてもらえなかったけれど、四日前お父様は王城に行って陛下や公爵を交えて大事な話をしに行った。サンタピエラ伯爵令嬢を勝手に連れ出し、強行突破をかました殿下やご令嬢の父親である伯爵も強制参加。ご令嬢を王子妃にするつもりのない伯爵は第二王子との婚約だけは出来ないとお父様に額がテーブルにつく勢いで謝り、第二王子の方は片想いしているご令嬢の父親に拒否られた挙句陛下にこてんぱんにされて大層落ち込んでいるそうな。
「ラウゼスもいた」
「神官長も?」
集まった理由が理由だけにサンタピエラ伯爵令嬢の上司たる神官長も呼ばれるか、と納得すると寧ろその後の本題に参加させる為だったとお父様は言う。
この本題が何か聞いても教えてもらえない。昨日お父様を訪ねたモーティマー公爵にこっそり聞いても失敗に終わるし……秘密にされると気になるのが人間である。
私を抱っこしたお父様が入った部屋はDの表札がある方。室内は拍子抜けしたというかなんというか、至って普通の書庫室。私の感覚で言うと八畳くらいの普通の広さ。壁側に二つの本棚が置かれていて、十段はある大き目のサイズ。まばらに仕舞われている本は、全て表では出回らない禁書ばかりで闇取引で売り飛ばしたら平民十年分のお金が貰えるとか。それってとんでもない額なんだけど、お父様からすると大した金額じゃないのがまた……。
本の背表紙を指でなぞるお父様は濃緑の本を手に取った。表紙にタイトルはなく、一目見ただけだと禁書とは思えない。
「ふむ……」
「これが目当てのもの?」
「大体はな」
「何の本?」
「教えねえ」
「ケチ」
意地悪されている訳ではなさそうだけど今日のお父様はいつになく意地悪だ。興味本位で本に触れようとしたら頭にお父様の頬が乗った。
「触るな。本に喰われるぞ」
「え、人喰い本?」
「いいや。お前の強い魔力に反応して目を覚ますんだ」
「お父様が触っても何も起きないのに?」
「防衛魔法を使ってんだよ」
まだまだ魔力操作の練習中である私には到底気付けない。お父様譲りの魔力は思った以上にコントロールが難しく、簡単な魔法も魔力量の調整が下手なせいで暴発してしまう始末。明日、ジョーリィ様が遊びに来た時相談してみよう。
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