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公爵のお誘い

 


 十二歳になっても夜はお父様と変わらず眠っている。大きくなってきたのだからとテノールさんやヘレンさんが私を一人で寝かせるようお父様に仕向けるが、我が子との触れ合いに重きを置くお父様は一切聞かない。私もちょっと恥ずかしいけど、お父様が大好きで嫌だと思ったことはなく、まだ一緒に寝ていたい。後、単純に隣に誰かがいるとすごく安心する。

 今夜は寝るぞーという時、ベッドで横になった私は同じく横になっているお父様に恐る恐るあることを訊ねた。



「サンタピエラ伯爵家から苦情って来てる?」

「いいや? どうして」

「私が伯爵夫人の招待を断ったでしょう」

「来てねえ。というか、おれの気分って書いた」



 お父様を理由にすれば、殆どの人は諦める。陰で悪口は叩いているだろうが。



「どうして今になって招待状を送って来たんだろうね」

「ある程度は予想できてる」

「どうして?」

「知らねえ」



 今予想できてるって言ったのはどこの誰よ!

 お父様に怒っても可愛いと言われておしまい。私自身、何となく理由を見つけられているけれど、お父様の見解も聞きたいのに。

 結局迫ってもお父様は教えてくれず、さっさと寝ろと言われ仕方なく眠った。私の身体は未だ不意な眠気に襲われる。すぐに眠れるから良いのだけどね……。



 ——翌日。お昼前にお父様を訪ねたモーティマー公爵がサンタピエラ伯爵夫人の招待を断った件に触れた。



「三日前、我が家で夜会を開きましてね。サンタピエラ伯爵夫人に理由を知らないかと聞かれました」



 お断りの理由はお父様に任せた為、詳細を知らない。隣に座るお父様を見上げれば「おれの気分って書いた」と予想通りの返事を貰って脱力した。誰だって別の理由があると思って当然。



「ラウゼスが陛下を通してヴィクター殿下に苦言を呈したように、伯爵夫妻に注意を促しました。ヴィクター殿下はご令嬢に懸想しているがマルティーナ様という婚約者がいると、ね」

「馬鹿なのかあいつは」

「ルチアーノ様やマルティーナ様の観点で見るとそうでしょうね」



 要するに……私の耳に第二王子がサンタピエラ伯爵令嬢に懸想しているという事実が入る前に、伯爵夫人は私に誤解を与えないようにしたかったわけだ。予想を述べると公爵に頷かれてしまった。



「王家やルチアーノ様達以外、殿下とマルティーナ様が不仲だと誰も知りません。ご令嬢がどう思っているにしろ、伯爵夫人はルチアーノ様を敵に回す前に誤解を解きたかったようです」

「知らねえよ。今度会った時言っておけよ。マルティーナと王子の仲は最悪で、おれはとっととお前んとこの娘と婚約しちまえって思ってるってな」

「似た言葉で伝えておきましょう。そうなってしまえば、伯爵夫人は卒倒しかねませんがね」



 それって言っていいやつ?

 五年経っても公爵は全然変わらない。性格がじゃなく、外見の問題。お父様はエルフの血が流れる人なので当たり前だが、普通の人間なら五年という歳月はまあまあ大きい。一切変わらなてくも公爵らしいと思えるのは、何だかんだこうやって付き合いを持てているお陰だ。



「ただ……サンタピエラ伯爵令嬢本人もマルティーナ様にお会いしたい気持ちはあるかと」

「そうなのですか?」

「妻が開くお茶会にサンタピエラ伯爵令嬢も夫人と一緒に参加する時に。ジョーリィによく聞いているのを何度か目にしたことが」



 私自身、サンタピエラ伯爵令嬢に会ってみたい気持ちはあれど、下手に接触をして第二王子殿下に知られると面倒な為、積極的に会いたいという気はない。

「あ」と不意に声を発した公爵がお父様にこんなことを。



「ところでルチアーノ様、近日行われる騎士団の演習をマルティーナ様と見学に来ませんか?」



 演習?



「演習ねえ。あの役立たずな第三部隊も参加するのか?」

「全部隊強制参加です」

「だわな」



 騎士団の第三部隊とは、何処にも行く宛のない、家柄しか取り柄のない令息達を押し込める為だけにある部隊の名前。所属する隊士の家が騎士団に多額の寄付をしているので中々改革の手を入れられずにいる。私やお父様は何度も迷惑な目に遭っている。



「マルティーナ様、興味はありますか?」

「それって公爵も参加しますか?」

「ええ、勿論」



 儚げな美男子の雰囲気のせいで予想もつかないが公爵は騎士団を纏めるとっても偉い人。強い人なのはその地位で証明されているが、実際に剣を握っている場面を一度も見ていないのでイマイチ実感が湧かない。お父様が強いのはよく知っているけどね。



「私やお父様が見学して邪魔にならないのなら、一度見てみたいです!」

「ならねえよ」



 それなら尚のこと見たい。



「演習には王族は参加しないな?」

「参加はしないでしょうが見学をする可能性はあるかと。一番高いのは王太子殿下かと」

「はあ。まあ、離れた場所で見るか」



 あの王太子殿下苦手なんだよね……頭に血が上りやすいのは兄弟揃って同じ。声が大きい。態度も大きい。……うん、全部苦手。



「陛下には、ルチアーノ様とマルティーナ様が見学する旨を伝えておきます。決して王子達と同席させない旨も」

「ああ。あまり期待せず待ってるぜ」

「やれやれ」



 いつも通りなお父様に呆れる公爵を横目に、マグカップを両手に持ちホットミルクをちびちび飲む私は一つ増えた楽しみを喜んだ。




読んでいただきありがとうございます。



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