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五年が経ちました

 

 


 ——時間が過ぎ去る感覚はとても早く、気付くと五年の月日が流れていた。十二歳になった私の生活は以前と何も変わっていない。


 今朝から庭に出て土弄りをしているお父様の背に飛び付いた。



「お父様!」

「マルティーナ」



 季節は春。王都で最も過ごしやすい快適な時期でもある。お父様の肩越しから見ると素手で土を触れていた。



「今日も絶好調?」

「ああ」



 品種改良を重ねた結果、肥料を使わずとも高品質な作物を育てられる土の作成に成功した。大量生産はまだまだ課題はあれど大本の問題はクリアしたと見ていい。実際に農作業で使えるか分かるのは半年後くらい。

 朝食をまだ食べておらず、私が庭に来たのはお父様を誘う為。一緒に食べようと言うと「そろそろ腹が減ってきていてな。良いタイミングだ」とコツンと頭を頬に当てられた。



「手を洗って来る。お前は先に食堂で待っていてくれ」

「はーい!」



 一旦お父様と別れ、言われた通り一人先に食堂へ向かった。私の専属侍女をしているマリンは現在休暇中だ。マリンの友人が結婚式を挙げると報せが届き、悩むマリンの背を私が押して休ませた。友人の住んでいる場所が馬車を使って半月は掛かり、その間の私のお世話を心配していた。マリンが専属に付く前はお父様がしていたし、テノールさんやヘレンさんがいるから大丈夫だと押し切った。

 テノールさんが引いた椅子に座ってお父様を待つ。


 マリンがいなくて寂しくない訳じゃないが休んでいい時はしっかりと休んでほしい。

 待つなあと思う間もなく手を洗ってついでに着替えも済ませたお父様が食堂に現れた。さっきは黒いズボンに白いシャツ、麦わら帽子を被っていた。今は麦わら帽子は脱ぎ、シャツの上にジャケットを着ている。私の向かいにお父様が座ると次々に朝食が運ばれて来る。私の前に大好きなクロワッサンサンドが置かれた。チーズとハム、旬の野菜が挟まれたクロワッサンが大好きで私がリクエストする為、お父様が朝食の定番にしてくれた。スープとフルーツも忘れない。どれも美味しそうで朝から食欲が唸って仕方ない。共に朝食が揃うと早速食べ始めた。

 最初にスープに手を伸ばすとクロワッサンサンドを食べるお父様にこんな話をされた。



「お前宛に大量のお茶会の招待状が来ているが行くか?」

「行かない」



 私ももう十三歳。相変わらずどこの貴族家とも関わりを持っていない。一応、魔導研究所と関わりの深い貴族家やモーティマー公爵家とは関わりがあるか。ジョーリィ様とは、五年経った現在でも良いお友達として保てている。公爵はよくふらりと訪れてはお父様と会ったり、私にお土産を渡す。地味に公爵のお土産が楽しみだったりする。



「それより、第二王子殿下との婚約をどうにかしたい」

「クロウリーは何が何でもお前と第二王子の婚約を継続させたいんだよ。面倒くせえ」



 お父様の最後の一言には同意しかない。五年経った現在でも、私と殿下の関係は氷点下のまま。五年前、ジョーリィ様の九歳を祝う誕生日パーティーの会場で取り巻き達と揃って私の悪口を言っていたそうだが、会場の声を拾っていたお父様が『悪戯手紙』を使って陛下に報せた。因みに悪口を言っていたのは殿下達だけではない、大半の人が口にしていたそうな。

 以前モーティマー公爵が来た時こんな話を聞かされた。



『ヴィクター殿下から、マルティーナ様に贈り物が届きませんでしたか』

『私は何も知りません』

『だとするとルチアーノ様かな。陛下がマルティーナ様に謝罪するようヴィクター殿下をこっぴどく叱りつけたみたいでして、贈り物を贈ったのに何の返事がないと王妃殿下や王太子殿下等と揃ってご立腹でした』



 ほぼ確実にお父様が私の目に入らないよう処分した。後からやって来たお父様に訊ねれば当たっていて、文句を言う為に王太子殿下と第二王子殿下が来ていた時はお父様が追い払ったのだとか。一切私の耳には入っていない事実ばかり。少しくらい私が知ったってどうも思わないと抗議をしても『可愛いお前に不要なものを入れたくないんだ』と甘やかされれば、私はもう何も言えない。



「私に来てるお茶会の招待状ってどこの貴族が送ってるの?」

「色々だな。好奇心の塊に満ちた連中とだけ言っておいてやる」

「うわあ……」



 未だ私の母親が誰か、とか、私がどんな容姿をしているのだとか、社交界は私への興味を消してくれない。今後も出る気はないので良いけれど。

 会話に夢中になっていたら熱々のスープが冷めてしまうと思い出し、野菜がじっくりと煮込まれたスープを頂いた。美味しいの一言しか出ない。語彙力がないのが悔しい。



「ただ、なあ」

「どうしたの?」



 不意に呟いたお父様の声に反応したら、クロワッサンサンドを完食し、手をナプキンで拭いていた。



「第二王子の態度が変わっているのを気付いていたか?」

「どういうこと?」



 最後に会ったのは何時だったか……確か、陛下が月に一度だけでも良いから会ってほしいとお父様に直談判しに来たのが四年前。即お父様はお断りをしたが陛下はめげずに交渉を続け、お父様の負担になりたくないからと私がお願いして折れてもらった。面倒だが月に一度だけ、第二王子殿下と顔を合わせている。但し本当に顔を合わせているだけ。会ったらすぐに付き添いで来ているお父様の転移魔法で城から屋敷に移動する。偶に屋敷ではなく、他の場所に飛ぶこともある。会うだけでいいと言ったのは陛下な為、会ってすぐに帰るお父様に何も言えない。

 態度が変わったと言われても全く分からない。私を見つめる目の冷たさが増し、表情には憎々しいとありありと書かれ、誰がどう見ても私のことが嫌いなのがまる分かりだ。



「以前の第二王子なら、毎回顔を合わせたらすぐに帰るおれやお前に次に会えば必ず文句を並べていただろう?」

「うん」

「ここ一年、それがない」

「そうだった?」



 駄目だ。思い出しても興味が無さ過ぎて印象が薄い。四年前はお父様が言っていたように文句ばかり言い、途中でお父様が転移魔法を使う為最後まで聞いた試しはなく、よくよく思い出すと先月会った時顔を合わせたら即文句を言っていた第二王子殿下は静かだった。表情や目は変わりないが。



「文句を言ったところで私達がすぐに帰るのは変わらないって分かったとか?」

「若しくは、クロウリーに説教されたか、だな」



 今更感が拭えない。



「この間、ラナルドが来た時に言われたんだがな、ラウゼスが第二王子にサンタピエラ伯爵令嬢に接触するのを控えてくれとクロウリーに苦言を呈したらしい」



 サンタピエラ伯爵令嬢とは、第二王子殿下が片想いをしているご令嬢だ。私は未だに後ろ姿しか見たことがない。この五年で実力を伸ばしたサンタピエラ伯爵令嬢は、若干十三歳ながら大聖堂の神官として正式に認められ、一神官として大聖堂で働いていると聞く。



「サンタピエラ伯爵令嬢にも何かしたの?」

「いや。件の令嬢が正式に神官となってから、第二王子がお忍びで大聖堂へ行っていたんだ」



 中身はどうであれ第二王子殿下は王族で……頻繁にお忍びでやって来る王子を怪訝に感じながらも無下には出来ない。業務の支障が出る前にと先輩神官が神官長に告白し、神官長から国王陛下へ話が行ったのだ。



「仮にも婚約者のいる王子が婚約者のいない令嬢の許へ足繁く通うのは如何なものだって、ラウゼスは大層ご立腹だったようだ。おれも見たかった」

「えー……」



 私は絶対見たくない派。あの神官長怖いもん。未だに見ただけで怖くて堪らない為、ここ五年何度かやって来る神官長を見ては私が逃げるせいでお父様が出禁宣告を出したのだ。



「サンタピエラ伯爵令嬢自身は、あの王子をどう思っているんだろうね」

「さあな。気に掛けられている程度じゃねえか」



 実際の二人のやり取りを見ていない現状、予想しか浮かばず、一旦この話は終わりにしようとなったところでヘレンさんが一通の手紙を持って来た。

 手紙の差出人は、さっきから話題に上がっているサンタピエラ伯爵家。ペーパーナイフと手紙を同時に受け取ったお父様が封を切り中身に目を通していき、読み終わると私に目を向けた。



「サンタピエラ伯爵夫人のご招待だ。ご令嬢をお前に会わせたいとさ」

「うーん」



 悪い人ではなさそうだけど、大聖堂と関わりの深いサンタピエラ伯爵令嬢と関係を持つのも何だかなあ……。仮に会ったとして話を聞き付けた第二王子殿下にどんないちゃもんを付けられるか分かったものじゃない。


 私が出した答えは……。





読んでいただきありがとうございます。



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