ルチアーノが始末していた
腕の中で抱く小さな身体は健やかな寝息を立てており、同じ色の髪を優しく撫でながら突然の訪問者にルチアーノは「で?」と切り出した。
「ラウゼスはまだ疑っているのか」
「疑っていますね。例の研究員の件も然り」
「あいつはな……」
大聖堂側に極秘の研究を漏らした研究員は病死に見せ掛けてルチアーノが始末した。研究を手伝っていなかったが彼自身信頼に値する人物だった為、研究について話だけはしていた。生命を人工的に創り出とうとするルチアーノに難色は示していたが、まさか外部に情報を漏らすとまではルチアーノも予想外であった。
「彼はなんと?」
「隠している事実に耐えられなくなって話したんだと」
禁忌に手を触れたルチアーノの精神は常に平静を保ち、手を貸してすらいない者の精神は黙っていられなくなり崩壊寸前。これを言うなら実際に研究を手伝ったスレイを始めとする他の研究員はどうなるのだとルチアーノは嘆息した。
「ラウゼスや大聖堂側が自白の魔法を使ったとは?」
「あいつがそんな強引な真似をするかね」
「さて。他はともかく、ラウゼスは規則を守ろうと時に強引な手段を取る場合があります。気付かれぬよう自白の魔法を使った可能性もあるかと」
「今となっては後の祭り。どうだっていい」
調査は既に病死の方向へ行っており、主導しているラナルドがいる限り、殺したのがルチアーノと発覚する心配はない。
「んん……」
身動ぎをしたマルティーナは声を漏らすも、ルチアーノの撫でる手付きにすっかりと安心しており、小さな手で服を握り締めたまま眠り続ける。愛娘の寝顔を見つめるルチアーノの横顔は父親のそれ。前髪を掻き分け、額を晒すとキスを落とした。起きている時にすると恥ずかしがって怒るもののすぐに機嫌は良くなり、最近ではマルティーナがお返しのキスをするようになった。
「パーティー会場の声は拾っていたでしょう。どうでしたか」
「どうもこうもあるか。好き放題言いやがって」
ラナルドがヴィクターに警告したように実際会場の声は全て拾われていた。
「マルティーナを扱き下ろした馬鹿共の家には、今頃おれが届けた『悪戯手紙』が届いているだろうよ」
自分達が会場で口にしたマルティーナへの嘲笑や中傷が自分の声で『悪戯手紙』によって再現され、挙句魔導研究所との関係を長期的に中断する旨の手紙付。顔を青褪め、震える人間は果たして何人に及ぶか。無論この中にはヴィクターも含まれる。ヴィクターは自身の取り巻き等と共にマルティーナへの悪意を散々口にした。
「今頃クロウリーの許に届いている頃だな」
「これでまたヴィクター殿下はマルティーナ様のせいだと決め付け、更に恨みを強くしますよ」
「おれがいる限り下手な真似は出来ねえよ。出来るなら見てみたいものだな」
「やれやれ」
執事のテノールが出したお茶を頂くラナルドは揺れる琥珀色の水面を見つつ、眠るマルティーナを愛おし気に見つめるルチアーノ、父娘の姿をじっと眺めていたのだった。
読んでいただきありがとうございます。
次回かより五年後になります。




