ヴィクターは復讐を誓う
幸いジョーリィは部屋にいた為、父ラナルドがマルティーナに至近距離まで迫ったとは知らない。
知らないが一人見てしまった者がいた。
「あ……あいつ……!」
嫌悪と軽蔑を丸出しにされた挙句、大声を出したマルティーナに追い返され、意気消沈したヴィクターであったがやはり気に食わないと怒りを再熱させた。止めるトリスタンを振り払い屋敷の扉まで戻った。扉は微かに開いており、先ずは中の様子を窺おうとした時だ……ヴィクターは衝撃的な光景を目の当たりにした。
友人ジョーリィの父ラナルドとマルティーナが至近距離で見つめ合っているではないか。
ラナルドは愛しむ眼差しでマルティーナを見つめ、マルティーナも満更ではない様子だ。
ラナルドがルチアーノを慕っているとは王妃である母に聞いた。道理でルチアーノの言いなりになっていると納得した。
先程マルティーナはルチアーノやラナルドのような人が好きだと言った。つまり、そういうことなのだとヴィクターは戦慄し、急いでその場を離れた。馬車に戻ったヴィクターは安堵するトリスタンに構わず、すぐに馬車を出せと命じた。
「マルティーナ、お前の狙いが分かったぞっ。好きにさせてたまるかっ」
ヴィクターを大嫌いだ、婚約を無かったことにすると宣言した本当の理由が知れた。
絶対に許さないと復讐を心に誓う。
「私が好きなのはミエールだ。マルティーナをミエールと思って接すれば、少しはまともに話せるようなる筈だ」
マルティーナとてヴィクターが本気で改心したと知れば心を許す筈。好きな人がマルティーナになったと思わせれば殻の如き固い心も開ける。マルティーナがラナルドではなく、ヴィクターを好きになればジョーリィに被害はいかない。友人の家庭を壊させてたまるか、とヴィクターは冷静な頭で思考を巡らせる。
好きになったところを突き放して捨ててやるのだ。
それがルチアーノの娘だからと好き勝手に振る舞うマルティーナへの罰だ。
この計画は誰にも知られてはならない。母や兄が知れば協力を申し出るだろうがどこで漏れるか分からないなら、自分一人で実行するのみだ。
間違ってもマルティーナを好きになることはない。その自信だけはヴィクターにはある。
「誰が好きになるか、あんなやつ」
「?」
向かいに座るトリスタンに首を傾げられるもヴィクターは気にしない。
——ただ……。
「……」
あの時、ラナルドを見上げていたマルティーナの照れながらも真っ直ぐに見上げていた青の瞳が頭に焼き付いて離れない。
あんな姿で見つめられればヴィクターも……と思った直後頭を横に振ったのだった。
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