表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/52

お留守番

 



 魔物の正体は調査隊の報告を待ってからで、それまでは断片的な情報を公爵がお父様と共有。自分で出向くかどうかを考えているお父様の手を引っ張った。



「マルティーナ?」

「お父様が行きたいなら行っていいよ。私はちゃんと屋敷でお留守番してるもん」

「おれが不在なのを狙って王家が何かしでかさないか心配なんだ」



 内緒で出向く、ということもできるけれど、騎士団が動くならお父様が同行していると何れ知られる。



「ルチアーノ様。あくまで仮定の話です」

「個人の能力が高い連中が勢揃いしている第一と第二は、今南方の遠征で不在だろう。どの部隊が出向く」

「第七部隊が適正かと。彼方は魔法を中心とした部隊。物理的に攻撃するよりも、魔法での遠距離戦法を取るのが得策である場合もあります。まあ、どれも仮定の話ですがね」



 一旦話は終わり、調査部隊の編制と出動を指揮する役目を担う公爵は魔導研究所を出て行った。もしもお父様が出向くことになろうと私はきちんとお留守番をするだけだ。

 お父様も魔導研究所の用事を終わらせて屋敷に戻った。




 ——翌日。朝早くにお父様を訪ねた公爵は、昨日編制した調査部隊が今朝全滅の報告を受けたと報せた。全員戦闘経験豊富で魔物に負けたとしても、全滅は有り得ないと相変わらず淡々とした口調で聞いた。



「全滅ね……調査部隊は、何も残してないのか?」

「手掛かりになりそうな記録は壊されていました。意図的に隠滅したと見て良いでしょう」

「高度な知能を持った魔物か、若しくは人間の仕業か」

「両方の可能性もあります。現在、陛下は第一、第二、第三を除いた部隊長を緊急招集し、会議を開いています。ぼくもこの後向かいますがルチアーノ様どうしますか?」

「はあ、仕方ねえ」



 私の頭をポンッと撫でるとお父様は面倒くさげに、でも気のせいか楽し気に腰を上げた。強力な魔法を使える久しぶりの機会かもって昨日公爵に言われたもんね。



「ラナルド」

「はい」

「昨日おれが言ったのを覚えているか?」

「もしもルチアーノ様が出向いた場合、王家がルチアーノ様不在を狙ってマルティーナ様に何かしですかと言っていましたね」

「ああ。魔物退治はおれがしてやる。お前はおれが戻るまで留守番をしてな」

「はいはい」



 きっと話の途中でお父様が何を言い出すか公爵は分かっていたんだろう。留守番を頼まれると驚きも困惑もなく、淡々とした様子であっさりと受け入れた。「マルティーナ」と呼ばれ、改めて留守番を言い付けられた私はニッコリと笑い、抱っこを求めた。お父様に抱き上げられ、太い首に両腕を回し抱き付いた。



「いってらっしゃい、お父様」

「ああ。お土産を持って帰ろう。待っててくれ」

「うん!」



 いってらっしゃいのキスをお父様の頬にしたら、私にもキスをしてくれた。

 私を降ろすとお父様は転移魔法であっという間に姿を消した。残ったのは私とモーティマー公爵。



「ルチアーノ様は」

「へ」



 さて、留守番をするのは良いとして、公爵には何処で待っていてもらおうと考えた矢先、感情の読めない声が不意に発せられる。



「マルティーナ様にとって良き父親であろうとしていますね」

「私が生まれる前のお父様って、スレイさんやテノールさん達には聞いてますが大雑把な生活を送ってたんですね」

「ええ、まあ」



 女性関係は意外と真っ白で、相手をしたくなったら王侯貴族御用達の高級娼館を利用していた。下手に貴族の女性に手を出したら、正妻だの恋人にしろだのと迫られるからと面倒くさそうに話してたっけ。一つの研究に没頭すると生活能力が低下し、食事や睡眠を疎かにし、周りの人が口煩く言ってギリギリのラインを保てていた程。

 公爵の知っているお父様はどんな人なのか気になる。



「公爵の知っているお父様の話が聞きたいです!」

「スレイ殿や屋敷に仕える彼等とそう変わりありませんが」

「人が変わったら、話の印象だって変わりますよ」

「なるほど。分かりました」

「あ、その前に」



 私は呼び鈴を持った。



「お飲み物を持って来させましょう」

「ああ、お構いなく。それより、マルティーナ様に頼みがあります」

「頼み、ですか?」



 何だろう? 訊くと庭に設置されている温室に入ってみたいのだとか。



「少し前にルチアーノ様に屋敷の温室に入る許可は頂いていますが、ぼく一人で入るよりマルティーナ様が同行して下さると心強いです」

「そうですか?」

「ええ」

「分かりました。私もご一緒します」



 絶対一人で行けると思うけどなー……。


 二人で部屋の外に出て、庭へと出た。今日も快晴で気持ちいい。

 庭には庭師が丹精込めて育てている花が沢山花壇に植えられていて、毎朝お父様と庭を散歩するのが赤ちゃんの頃からの日課だ。



「お父様が魔物退治に行ってしまったら、騎士団の方々の面子とか潰れないですか?」

「面子を潰されるのが嫌なら実力と技術を身に付ければいいだけのこと。ただ、今回はイレギュラーが多い。被害を最小限に抑えるという理由なら、ルチアーノ様かぼくが出向くのが得策なんです」



 最も戦闘能力の高い第一、第二部隊が不在の現状尚更。

 私はふと、召集された部隊の名前に第三部隊がなかったことに気付いた。

 多分予想通りなら、使い物にならない為。行っても無駄に犠牲者を増やすだけなら、呼ばない方が良いよね。



「マルティーナ様は植物に造詣は?」

「お父様に習っている最中です。覚えた植物の量が増えたら、魔法薬の作り方を教えてもらう約束なんです!」

「機材も材料も揃っている魔導研究所なら、大抵の魔法薬の作成が可能です。ぼくが温室に来たのは、薬草を分けてもらう為です。此処や魔導研究所になら、態々王都の外に出向かずとも大抵の物が揃っていますから」

「確かに」



 会話をしながら温室に到着。魔導研究所の温室と比べると小規模でも、私の視点では十分大きい。一緒に中に入ろうとした、ら。



「お嬢様! マルティーナお嬢様!」

「テノールさん?」



 大層慌てているテノールさんの声を聞き、こっちだよーと手を振ったら大急ぎで駆け付けた。息を荒く繰り返す様は尋常ではない事態が起きたのだと推測。ものすごく嫌な予感。



「あ……モーティマー公爵。お見苦しいところを」

「前置きは結構。何が起きたかぼくも聞いても?」

「は、はい! 今、騎士団第三部隊が王妃殿下の命を受けてマルティーナ様を迎えに来たと!」

「ええ!?」



 聞いてない聞いてない! お父様がいなくなってすぐにこれ!?



「ルチアーノ様が転移魔法で移動したのは大体二十分近く前。ルチアーノ様不在を絶好の機会だと捉えましたか」

「うわあ……」



 お父様の予想通りじゃん……。



「ぼくがいることは?」

「知らないはずです」

「仕方ない。ぼくが行きましょう。ルチアーノ様に留守番を任せられている身でマルティーナ様を連れて行かれるのは困るので」



 折角温室に入ったばかりなのに。あ、そうだ。



「モーティマー公爵。公爵の探している薬草は見つけるのに時間は掛かりますか?」

「どうでしょう。ぼくは此処の温室は初めてですから、場所については一切把握していません。ルチアーノ様の性格を考えて大体の位置は分かりますが」

「お父様の不在を狙っていきなり押し掛けて来たのは騎士団の方ですし、ちょっとくらい待たせちゃいましょう」

「ふむ。それも良いでしょう。執事殿、ぼくの名前を出してください。マルティーナ様はぼくを温室に案内していて忙しいと言ってくだされば、少しは待ってくれますよ」

「承知致しました!」



 提案しといてなんだけど自分の性格の悪さに戦慄する。

 テノールさんが再び邸内に戻って行ったのを確認後、私達は温室に足を踏み入れた。案内板等はなく、自分で覚えるしかない。お父様の性格云々言っていた公爵は迷いない足取りで目当ての薬草に辿り着いた。



「すごっ」

「この薬草は日当たりの好い場所が育ちやすい。品質を見極める際も長く日光を浴びているか否かで変わる」



 地上を飛び出し真っ直ぐに生えている細い緑色の薬草は、前世の私が感想を言うなら韮に似てる。興味本位で匂いを嗅ぐと韮とは違う独特の葉っぱの匂いがした。器用に薬草を採取する公爵を見ていて、薬草を入れる物がないと気付いた私はそう遠くない位置に設置されている小テーブルへ走り、積み重なって置かれているトレーを一つ公爵に運んだ。これは採取した薬草を入れるトレーだとお父様に教えられた。



「ありがとうございます」



 トレーを公爵に渡して採取した薬草を入れてもらう。



「どんなお薬を?」

「うん? 回復薬ですよ。街でも売られている一般的な回復薬ですが、作り手によって効果は大きく変わります。ぼくは人より少し錬金術、その中でも魔法薬を作るのが得意なだけです」

「公爵のお手製回復薬なんですね。ジョーリィ様に?」

「そんなところです」



 口ではなんだかんだ言いながらちゃんとジョーリィ様のことを気に掛けてあげているんだ。家族はそれぞれの家庭で大きく違う。公爵とジョーリィ様は、この二人なりに親子の関係を築いているんだろう。


 私もお手伝いしたくなり、公爵に見分け方を聞くと丁寧に薬草を採取していった。簡単に見えて難しい。濃い緑は駄目、若緑も駄目。ザ・緑色が一番の良品質で自分で緑ど真ん中と自信を持って渡しても却下された。品質を見極める目も欲しいなあ。欲しいものばかりだ。



「テノールさん大丈夫かな……言い出しっぺの私が言うのもアレですけど」

「ぼくの名前を出したなら、一寸の足止めにはなるでしょう。そろそろトレーが山盛りになります。この辺で採取は終わりましょう」

「はい! あ」



 土弄りをしたのは素手で。先に手を洗って行きましょうと声を掛けるも公爵は山盛りの薬草を入れたトレーを持って温室を出て行ってしまう。え? 良いの? 


 私は駆け足で公爵を追い掛けた。



「公爵。手を洗わないと」

「このままで構いません。マルティーナ様も手はそのままに。薬草の採取を手伝ってもらっていた理由になります」

「納得してくれますかね」

「無理矢理にでもさせますよ。さあ、行きましょう」



 私一人だったら不安で一杯な状況も(多分)味方がいてくれるだけで心強い。玄関ホールが見えると私は唖然とした。



「何時になったらマルティーナ嬢とモーティマー公爵は来るんだ! 此方も暇ではないのだぞ!」



 テノールさんに食って掛かる先頭の人を始め、顔だけしか取り柄がないとお父様達が言っていた言葉がよく分かる。


 全員、大変美形だ。顔面だけなら優秀過ぎる。


 


読んでいただきありがとうございます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
最初は公爵はルチアーノを恋愛的な意味で好きなのかと思っていたけど回を重ねるごとに違うなと思うようになった。好き嫌いでいえば間違いなく好きなんだろうけど。父とか兄に対するもの??恋愛脳だったり単純バカな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ