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すっぽかしていた

 



 ——お茶の時間は無事終わり、アークラント伯爵家を後にした私達は馬車の中にいた。



「どうだった? 初めての他家との交流は」

「緊張したけど、アークラント伯爵家の人達が良い人だったお陰で楽しかったよ」

「なら良かった」



 帰り際、また招待させてほしいという伯爵夫人に私は快諾した。勿論、お父様に了承を取ってね。



「スレイさんの用事って何だったのかな」

「知らん」

「そっか」

「それよりマルティーナ。ラナルドの言っていた友達作りのパーティーについて何だがな」

「う、うん」

「今日のようにおれと繋がりがあり、且つ、良好な関係の輩はいないと思え」

「うん……」



 表向きはモーティマー公爵のご子息の友達作り。実際は私を参加させ、特別ゲストとして招待する第二王子殿下と接触させるのが目的。



「うう……嫌になってきた」

「おれもだ」



 でも、一度くらい折れないと向こうは諦めない。

 鳥肌が止まらない……! お父様に抱き付くと背中を撫でられ、膝の上に乗せられた。



「……やっぱすっぽかすか……」


 


 




 アークラント伯爵夫妻、スレイさんとお茶をした日から暫く。

 二人でのんびりと寛ぐのも暇になってお父様に魔法で簡単に物を修復する練習を見てもらった。



「えい……!」



 両手に込めた魔力を片腕が千切れかけているぬいぐるみに当てた。頭に浮かべるのは元通りのぬいぐるみの姿。イメージを濃く、強く込めて魔力を込めて幾許か。魔力を当てられているぬいぐるみに変化が起きた。



「いいぞ、その調子だ」



 胴体から離れかけていた腕が徐に上がり、千切れた箇所とくっ付いた。



「まだだ、まだそのまま」

「うん……」

「……くっ付いたな。マルティーナ、もういいぞ」



 完全に胴体と腕がくっ付いたのを確認したお父様の声で魔力の注入を止めた私は、ぶわりと額に浮かんだ汗を袖で拭う。集中しながら魔力を両手に込め、脳内に浮かべたイメージ通りに物を修復するにはかなりの体力が必要だ。慣れれば全然大したことないようだけれど初めの内は……ね。



「時間は掛かっているが腕は悪くない。魔法の腕もおれ譲りってとこか」

「疲れちゃった……お父様、外の風に当たって来るね」

「おれも行こう」



 汗を風で冷やして気分転換をしたいのと外の新鮮な空気を吸いたくなり、ソファーを降りてお父様に言えば、付いて行くと手を繋がれ一緒に庭へ出た。



「気持ちいー」



 汗が浮かぶ額に風が当たるとひんやりと冷えて気持ちがいい。度が過ぎれば寒気を感じる行為も束の間の時なら快適そのものとなる。



「私の魔法上手になってる?」

「ああ。これからも練習を怠らなければ、更に上達するだろうよ」

「やった!」



 漫画やアニメ、映画の世界でしか使えない魔法を自分の手で使えるなんて夢みたい。……夢じゃないけど。

 庭には、庭師のお爺さんが丹精込めて育てている植物が育てられ、季節によって咲く花もあれば、お父様の研究を兼ねた温室も存在する。温室で育てられているのは魔法植物といって、魔力によって咲く花を指す。通常の花より触媒や薬草としての価値が高く、また、錬金術の材料として非常に適している。お父様の娘なお陰か、マルティーナである私は記憶力は勿論、勉強に対する意欲も強い。これが前世でもそうだったらなあ……、小学生や中学生の時夏休みの宿題をギリギリまでほったらかして最終日まで一週間を切ると毎年地獄を味わった。高校生になるとちゃんと早めに終わらせた。姉と母の監視下で宿題を夏休み開始と同時にやらされたお陰で。


 そういえば、と私はお父様にあることを訊ねた。



「学校ってあるの?」

「なんだよ突然」

「前世で学生だった時を思い出しちゃって」

「あるぜ。貴族ならほぼ全員通う王立学園が」

「あるんだ」

「平民も特別な条件を満たせば通える」

「特別な条件?」



 それはどんな、と聞いた時だ。テノールさんの「旦那様ー!」とお父様を呼ぶ声が届いた。後ろを振り返ればテノールさんが辺りを見回していた。



「此処にいるぜー」

「!旦那様」



 お父様が呼ぶとテノールさんは駆け足で私達の側までやって来て今モーティマー公爵が来ていると知らされた。



「はあーあ」

「面倒くさそうにしないでください。旦那様、何かしましたね。公爵様、困っていらっしゃるご様子ですよ」

「例の友達作りのパーティーとやらをすっぽかした」



 …………え?



 お父様の爆弾発言に目が点になる私とテノールさん。すっぽかした? 私に第二王子殿下と会う口実の為に開かれるモーティマー公爵令息の友達作りパーティーに? あれ、何時招待状届いていたの? 今日開催されているの?


 聞きたいことは山の如く。


 我に返った私が「お父様」と呼び掛ける直前、愉しそうに喉を鳴らして嗤うお父様に抱っこをされ、現在モーティマー公爵が待っている玄関ホールへと連れて行かれた。

 到着すると困り果てている公爵と目が合う。垂れ目なせいでより困っていると実感させられる。



「ルチアーノ様。出席すると返事をしておきながら、当日来ないなんて」



 穏やかな口調ではあるが声色はお父様を責めている。そりゃあ、そうだよね。



「招待状って何時来てたの?」

「アークラント伯爵夫妻とお茶をした翌日」



 まあまあ前じゃない!



「ドタキャンってすごく嫌われるのに」

「なんだそりゃあ」

「お父様みたいに当日予定をキャンセルする人のこと」

「へえ」



 飲食店なんかで度々問題となる行為。大半は面白感覚でやっているのだろうが、予約を受けた店側は迷惑極まりない。大人数ともなれば尚更。人数分の料理を作る材料や準備が全て無駄となり、店の規模によっては貸し切り状態になるところだってある。


 半眼になってお父様を見ていると愉しそうに頭を撫でられる。面白がってる場合じゃない!



「今すぐ準備……は無理じゃん」

「ああ。アークラント伯爵夫妻とお茶をした時に、やっぱりお前を参加させられないと判断した」

「どうして?」



 もしかして、私のマナーが実は悪かったとか……?

 心の声が聞こえたのか、違うと首を振られ、モーティマー公爵に視線が向けられた。



「ラナルド。お前はよく知っているだろう。子供でも貴族の子供は貴族だと。マルティーナは通常の貴族の子供のような過ごし方はしていない」



 私の一日は大体、お父様と朝食を食べたら庭を散歩し。ジョゼフィーヌ先生が長期休暇に入る前は礼儀作法や淑女としての勉強を受け、現在はお父様に専ら教わっている(淑女教育はお休み中)。昼食も一緒に食べて買い物に行ったり魔法の練習を見てもらったり、夜は夕食を済ませると湯浴みをした後お父様と寝るだけ。寝る前に絵本を読んでもらうのが赤ちゃんの時からの日課である。よくよく考えると貴族の子供の過ごし方って何も知らない。



「子供同士でも話題についていけない。同い年の子供とは、まだ一度も交流させていないもんでな」

「貴方がすっぽかすのは大体予想していましたよ。ぼくより、王太子殿下が憤慨されています」

「王太子?」

「ヴィクター殿下を招待していると言ったでしょう? 王太子殿下は陛下や王妃様の代わりです」



 ある意味行かなくても良かったかも? 王族が二人も揃っているなんて緊張して体が動かなくなっていそうだもん。



「ルチアーノ様がマルティーナ様とヴィクター殿下を会わせる気がなくても、無断で約束を破るのはどうかと、ね」

「はいはい後で謝りに行ってやるよ。お前が態々来たのは、王太子のご機嫌取りか?」

「そんなところです。手ぶらで帰るのもあれですし、ルチアーノ様。マルティーナ様と今からモーティマー家へ来てくださいよ」



 え、と発したのは私。スレイさんのご両親とお会いする時ドレスを発注したが、知らなかったこともあって今回は何も準備していない。普段持っているドレスは他家へ招待されて着ていくにはハードルが高い。断ってほしくてお父様の首に顔を埋めたら「見た通りだ、ラナルド」と私の気持ちを代弁してくれた。次招待状が来たら必ず行きますので今回は勘弁して!



「嫌だってさ」

「ぼくも困ったのですがね。服装を気にしているなら、ルチアーノ様と出掛ける時に使用するものでも構いません。要は、パーティー会場に入らなければ良いのでしょう?」

「入らなかったらお前の目的達成にはならんだろう」

「マルティーナ様はヴィクター殿下を見たことはないでしょう? まずは殿下の姿を一目見ていただき、その上でマルティーナ様が直接会いたくなったら別の席を設けます」



 どうでしょう? と問いかける薄紫の瞳は私に向けられ、返答に困ってお父様を見上げるも同じ問いを投げかけられた。決めるのは私。私がどう決めようとお父様は必ず味方してくれる。

 モーティマー公爵をこれ以上困らせるのも心が痛いもんね……仕方ない。





読んでいただきありがとうございます。



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