神々の会合
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広大な宇宙の片隅に存在する、あらゆる時空を超越した空間。
そこは、神々が世界の均衡を司り、魂の行く末を決める"根源の間"。
光り輝く星屑が舞い、無数の銀河がホログラムとなって瞬くこの空間には、それぞれの世界を司る神々が円卓を囲んで座っていた。
彼らの前には、自身の管理する世界が微細な輝きを放ちながら浮かび上がっている。
その日、根源の間には、通常とは異なる緊張感が漂っていた。
理由は、一際厳かな雰囲気を持つ円卓の一角から放たれた一言だ。
「まったく、またウチの世界から引き抜こうと?」
女神アマテラスの涼やかな声が静かに響き渡る。
彼女の背後には、悠久の時を刻む桜の木が咲き誇る、古式ゆかしい和風の世界『ヤマト』が映し出されている。
「いやいや、そう言いますな、アマテラス殿。今回は緊急案件でしてな…あの世界で大事故がありまして、予定外の空きが出てしまってですな」
対面に座る、威風堂々とした男神ゼウスがデカい図体に似合わず、困ったように眉を下げてしょぼくれる。
彼の視線の先には、青い惑星で発生した大規模な列車事故の映像が流れている。
そこは、魔法が廃れ、科学技術が高度に発展した『テラ』と呼ばれる世界。
高速鉄道が脱線し、多くの魂が予定よりも早く肉体を離れる様が、ゼウスの顔に疲労の色を浮かび上がらせていた。
この未曾有の事態が、彼に重くのしかかっていたのだ。
「緊急案件やろうがなんやろうが、ウチの世界からタマシイをもらっていくなら、代わりにそっちの世界からなんかもらわなあきまへんなぁ。持ちつ持たれつ、やわ」
アマテラスの言葉には、確固たる信念が込められていた。
神々といえども、創造主が定めた根源的な法則には逆らえない。
魂の総量、世界のエネルギーバランス、そして何より質量保存の法則。
これらを無視すれば、いずれ世界は歪み、崩壊へと向かう。
「法則は守ってもらわなあきまへん。質量保存の法則、知ってますやろ?」
アマテラスの問いに、ゼウスは苦々しい顔でたじろいだ。
その言葉が、彼の最も触れてほしくない核心を突いたからだ。
彼の管理するテラは、かつては魔法が満ちた世界だったが、人々の信仰が薄れ、科学が全てを支配するようになって久しい。
それゆえに、目に見えない"魂"の扱いは、彼にとっても悩みの種だった。
「そりゃあ、分かってますけどな……だからこそ、こうして皆さんの知恵をお借りしたく…」
ゼウスが苦し紛れに言うと、凍てつく大地を統べる男神、オーディンが口を開く。
「フン、ならば対価とて相応のものを要求するまでよ。こちらの世界で不慮の死を遂げた者、そちらで英雄として再誕させよ。その魂の輝きこそが、我が世界の糧となろう」
彼の背後には、氷と炎が織りなす峻厳な世界『ミッドガルド』が威容を誇る。
ヴァルハラに迎え入れられるに相応しい勇猛な魂を求める彼は、いつも転生会議では最も強硬な交渉相手だった。
その提案に、ゼウスは顔を顰める。
彼の要求はいつだって過酷だ。
ミッドガルドの英雄は、テラの人々からすれば理解不能なほどの肉体と精神の強靭さを求める。
「英雄とな……? テラの魂は、肉体的な強さよりも精神的な洗練を重んじる者が多いのですがな……」
「軟弱め。だが、その精神の洗練とやらを以て、我が戦士に知恵を与えよ。蛮勇のみでは、ラグナロクは乗り越えられぬ」
そこに穏やかな笑みを浮かべた男神ヴィシュヌが割って入った。
「ほぅ、成る程ねぇ。いいんじゃないか、ゼウス。けれどもそれだけじゃあ等価とは言えないね」
アマテラス嬢に利がない、と笑う彼の背後には、豊かな自然と神秘的な力が満ちる世界『アヴァロン』が揺らめいている。
そこは、人間と精霊、そして多様な神々が共存する、多層的な世界だ。
アマテラスも静かに笑い、頷く。
彼女の瞳は、ホログラムに映る無数の世界を捉えて。
「だから、こうしよう。私の世界に、そちらの技術体系を一部提供していただくというのはいかがか? 科学と魔法、融合すれば新たな可能性が生まれる」
呑んでくれるなら、私の世界から魂を送ろう。
ヴィシュヌの提案は、常に神々の間で革新的な議論を巻き起こす。
彼の世界アヴァロンは、古代の叡智と最先端の魔術が融合しており、その知識は他の世界にとっても計り知れない価値がある。
「それは願ってもないですな! しかし、どの程度の技術を……?」
ゼウスは身を乗り出した。
テラの科学は行き詰まりを見せ始めており、新たな起爆剤を求めていたのだ。
神々の会合は、大きく二つのフェーズに分かれる。
一つは、『廻帰の議』。
これは、各世界で寿命を全うした魂が、次の生へと向かう際に開かれる会議だ。
基本的に各世界の魂の総量に変動はなく、魂の"異動"が中心となる。
魂の質や、その魂が持つポテンシャルに応じ、どの世界へ、どのような生を授けるかが話し合われる。
この会議は、比較的和やかな雰囲気で進み、各神々は自らの世界の力"界力"を増強すべく、優秀な魂の誘致に余念がない。
しかし、『混淆の議』は、常に予期せぬ困難を伴う。
今回のような大規模な事故や災害、あるいは戦争などによって、予定外に大量の魂が肉体を離れてしまう場合に開かれる緊急会議だ。
魂の総量が変動するわけではないが、一つの世界から短期間に大量の魂が放出されると、その世界のエネルギーバランスが崩れる危険がある。
そのため、放出された魂のかわりに別の世界から引き取る形でバランスを保つ必要があるのだが、当然ながら差し出す側は相応の"対価"を求めるのだ。
この混淆の議こそが、神々にとって最も頭を悩ませる場でもある。
「テラの科学技術とアヴァロンの魔術……それは興味深い組み合わせだ。だが、その技術がテラの科学者達に理解出来るのか?」
今度は、砂漠と文明の遺産が眠る『カオス』と呼ばれる荒廃した世界を司る男神ラーが口を開いた。
彼の世界は、かつて高度な文明を誇っていたが、大災厄によって壊滅し、現在はわずかな生存者が廃墟の中で暮らしている。
彼の望みは、カオスを再び繁栄させることだ。
「我の世界に転生させる魂には、遺伝子操作の知識や、環境再生技術に長けた者が望ましい。対価としては、テラの医療技術と、そちらが持つ古代文明の遺物から得られるエネルギーを要求したい」
ラーの提案に、ゼウスは唸った。
テラの医療技術は確かに進歩しているが、カオスのような過酷な環境での再生技術となると、未知数な部分が大きい。
しかも、古代文明の遺物からのエネルギー抽出は、テラではまだ実現出来ていない夢のような技術だった。
「古代文明の遺物……それは、そちらの世界でしか利用出来ないものではないですかな?」
ゼウスの問いに、ラーは静かに首を横に振る。
「否、我らの技術は、そのエネルギーを他の世界の魔力体系と融合させることを可能にする。それゆえ、ヴィシュヌの魔術技術と合わせれば、テラの世界でも新たなエネルギー源として活用できるだろう」
その言葉に、ゼウスの顔に希望の光が灯った。
テラのエネルギー問題は深刻だったのだ。
「なれば、こうしましょう」
パン、と手を打ったアマテラスが、会議の主導権を握るかのように微笑う。
「テラの魂は、その多くが探究心に溢れ、未知の物事を解き明かすことに喜びを感じる性質。ミッドガルドで英雄となる魂は、単なる力だけでなく、その探究心をもって新たな戦術や技術を編み出すことが出来るやろ。オーディン殿の要求する『知恵』と合致するんちゃいますか」
オーディンは腕を組み、不敵な笑みを浮かべた。
「ふむ、悪くない。その魂にヴァルキリーの祝福を与え、戦闘においてその能力を最大限に引き出すことにすれば良い」
「そして、アヴァロンへの転生において、テラの医療技術は、アヴァロンの治療魔術に新たな視点をもたらすやろ。また、ラー殿の世界へ転生する魂には、テラの環境工学や再生医療の知識を付与し、カオスの復興に貢献させます。その対価として、テラはアヴァロンから魔力変換技術を、カオスからは古代のエネルギー結晶のサンプルをそれぞれ供与してもろて」
いかがです?ウチからタマシイを差し出さずとも釣り合いが取れるんちゃいますか?
アマテラスの提案は、それぞれの神々の要求を巧みに織り交ぜ、かつ世界間の等価交換と質量保存の法則を考慮に入れた、まさに神業とも言えるものだった。
ゼウスは目を見開いた。
これほどまでに完璧な提案は、彼の記憶にはなかった。
テラの緊急事態を解決し、さらに未来への展望まで開ける。
「それは……まことに結構な話ですな、アマテラス殿!」
ゼウスは心底安堵した様子で、深々と頭を下げた。
ラーとヴィシュヌも、アマテラスの提案に満足げな表情を浮かべる。
オーディンもまた、不満はない。
「ふむ……ならば、今回の会合は、この条件で締結としよう」
オーディンの言葉で、会議は一旦の終結を見た。
ホログラムに映し出されていたテラの列車事故の映像は消え、代わりにそれぞれの世界へと旅立っていく魂の光の筋が映し出された。
テラから旅立った魂達は、それぞれの世界へと向かっていく。
ある魂は、ミッドガルドの雪深い森の中で、力強く産声を上げた。
彼には、テラで培った論理的な思考力と、物事の本質を見抜く洞察力が与えられた。
やがて彼は、オーディンの命を受けたヴァルキリーに見出され、荒々しい戦士達に新たな戦術を授け、ミッドガルドの歴史に名を刻む軍師となるだろう。
彼の肉体はミッドガルドの質量で構成されるが、その魂が持つ情報の密度と質が、対価としてミッドガルドにもたらされるわけだ。
また別の魂は、アヴァロンの豊かな魔法の森の中で、精霊たちに導かれるように生まれた。
彼女はテラで最先端の医療技術を研究していた科学者だった。
アヴァロンの治療魔術と彼女の持つ科学的な知識が融合することで、これまでにない画期的な治療法が発見され、アヴァロンの医療は飛躍的に発展することになる。
そして、カオスの荒廃した大地に辿り着いたとある魂もまた、一人の赤子として静かに息づいた。
彼はテラで環境再生の専門家として活躍していた。
彼の魂には、古代の英知を解読する才能と、廃墟から生命の息吹を呼び覚ます力が与えられた。
やがて彼は、カオスの残された文明の遺産とテラの環境工学を組み合わせ、失われた緑を取り戻すための壮大なプロジェクトを率いるだろう。
彼の活躍は、テラがカオスから得る古代エネルギー結晶の価値を、何倍にも高めることになるのだ。
アマテラスは、会議室の窓から、無数の光の筋がそれぞれの世界へと降り注いでいく様を静かに見つめていた。
神々の会合の目的は、単なる魂の移動ではない。
異なる世界の知識、技術、そして文化を交換。
それぞれの世界が新たな発展を遂げるための、壮大な規模のシステムなのだ。
質量保存の法則は、物理的な質量だけでなく、情報やエネルギー、そして魂の質といった、目に見えない要素の総量としても機能している。
一つの世界から"引き抜く"ということは、その世界から何らかのエネルギーや情報を"持ち出す"ことに他ならない。
だからこそ、別の世界から相応の"対価"を"差し出す"ことで、全体のバランスを保っているのだ。
「持ちつ持たれつ……それが、この宇宙の摂理」
アマテラスは呟いた。
神々自身もまた、その摂理の一部として、永遠に続く営みを続ける。
次の『廻帰の議』、あるいはまた突然訪れる緊急性のある『混淆の議』。
神々の会合は、これからも様々な世界の魂と知識を紡ぎ、新たな物語を創造していくことだろう。
ご一読いただき、感謝いたします