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序
「オレの言うことに従え…さもないと…、わかってるだろうな…!」
…いいかい。ビテ=ニケ。いつなんどき、神様が君の隣人になるかわからないんだから。誰にでも優しくするんだよ。
それが信心深い祖父の口癖だったから、ニケもそうあるべく努力はしているつもりである。しかしながら首元に刃物を突きたてて、脅してくる相手にこの優しさは通用するのだろうか。こういう特殊な事態の行動を聞いておくべきだったか。こんな相手にも優しさを見せたら、逆上または気味悪がられて殺されるに違いない。死ねということか。
そもそもニケの祖父は出不精で、こんな状況に巻き込まれたことはないのだろうから、しょうがないと言えばそれで終いだが。
現実逃避に近しい事柄に心を飛ばして、ニケは死へのタイムリミットを伸ばした。怠け者の思考は更なる避行へと過去に遡る。