その日の夜
その日の夜。さっさと寝てしまうのかと思ったイビーは、まだ起きていた。俺と一緒になって空を見上げている。
イビーが降らせた雨は、数時間降り続いて上がった。今広がっているのは、満天の星空だ。
「すごいよなぁ」
旅の間も何度も見た星空だが、何度見ても同じ感想を抱く。日本じゃおそらく、山の上とかに行かないと見られないような……もしくはそれ以上の星空だ。
『うん、ボクもお星さまがたくさんの空、好きだよー。でもねー、お月さまがあったほうがもっと好きー』
「へぇ」
月があると、その輝きに押されて、少しだけど星が見えにくくなる。それでも、日本よりかは全然見えるが。
「月が見れるのは、夏と冬だろ? その時に雨を降らせたら、見えなくなるんじゃないのか?」
日本では一ヶ月で一回り満ち欠けしていた月だが、この世界では三ヶ月で回る。それも春と秋には月は一切昇らず、夏と冬にだけ見られる。逆に言うと、この世界の人たちは月を見て季節を知るのだ。
今は秋だから、空に月はない。どこまでも星が広がっている。
『一ヶ月ずっと降らせるわけじゃないしー。ちょっとお月さま見てから、降らせ始めるからー。終わってからも見てから寝るのー』
最初の一言に突っ込むべきか悩んだが、止めた。イビーが本当に楽しそうな顔をしていたから、そうやって月を見るのが好きなんだろう。
「起こすのは、月が昇ってからでいいのか?」
『うん、そうしてー。でも今夜はキクチが来てくれたばっかりだから、ボクも起きてるー。明日から寝るねー』
「いや、悪いが俺は夜は寝るんだ。もう眠い。寝たい」
『えー!?』
すっごい不満そうだが、構わず俺は横になった。寝られるときに寝る。それが鉄則だ。
『じゃあグラムと話してるー』
『我は嫌だぞ! キクチ、起きろ!』
そんな声が聞こえたが、それに対して何か考えるだけの意識はすでになかった。
※ ※ ※
『キクチー、朝だよー』
元気な声に俺は起こされた。居場所が分からなくなるなんてオチもなく、のぞき込んできたゾウを半目で見る。まだ眠い。
「……おはよう、イビー」
『おはよー! じゃあボク寝るから、あとよろしくー!』
「……ああ」
寝ぼけ頭で、そういえば朝になったら寝ると言ってたな、と思い出す。ここはお休みと言うべきかと悩むうちに、イビーはさっさとゴロンと横になってしまった。そして、気持ちよさそうな寝息が聞こえる。
「早いな」
『昨晩のキクチも、寝入るのが早かったぞ』
頭に響いた、聖剣の声。どことなく恨みがましい。そういえば、イビーがグラムと話すとか言ってたが、どうなったんだろうか。
「ずっとイビーと話してたのか?」
すると、不機嫌ですという雰囲気が強くなった。これはやぶ蛇だったか。
「ああ、ええと、何でもない」
『フン』
やっぱり不機嫌だった。