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&dead.  作者: 猫蓮
97/143

&M1.天使

 目の前で子供たちが私に向かって頭を下げています。


「長らくお待ち申しておりました、魔王様。言付けあらばなんなりと申しつけください。どのような命であろうと謹んで仕らせていただきます」


 ど、どどど、どうしてこうなってしまったんでしょう。

 誰か……誰か教えてください〜っ。


 心の中で泣き叫びます。あ、本当に涙が出そうです。

 助けてっ、ミミちゃ〜ん!



 私の名前は最上(モガミ)美海(ミウミ)です。

 高校で生物学の教師を勤めています。


 身長が低いのがコンプレックスですがヒールの靴は苦手なのでシークレットシューズを履いて誤魔化してます。それでも黒板の上の方は届かないくて悲しいです。もっと身長が伸びてもいいと思います。

 生徒の皆さんには恥ずかしながらミミちゃん先生と呼ばれています。気兼ねなく声をかけてくるので慕ってくれていると自惚れています。大変嬉しい限りです。


 家では愛しのミミちゃんがお留守番をしています。紹介しますね。ドワーフホトのミミちゃんです。イエウサギさんです。

 ドワーフホトは全身真っ白の毛並みにアイバンドの毛色が特徴で、もちろんミミちゃんも黒色のアイバンドがあります。あ、アイバントというのは目の周りを覆うアイラインのような模様の事を言います。ミミちゃんはアイバンドも目の色も黒色で、お目目ぱっちりでとっても可愛いんです。

 ドワーフは小型という意味で代表的なのはやはりネザーランドドワーフでしょうか。世界最小級のウサギと呼ばれているのは知っていると思いますが……え、知らないですか? ネザーランドドワーフはカイウサギの一種で丸いお顔と短いお耳が特徴なんです。オランダの小型種という意味で、界隈では一番人気なんです。皆さんも一度は見た事があると思います。絶対!

 ホトはフランスのノルマンディー地方にある町の名前が由来で、ここで交配したブランデホトという品種の特徴を引き継いでいるんです。ちなみにブランデは白という意味があります。ブランデホトの毛色はドワーフホトと同じなので見分けがつきにくいです。小型種のドワーフホトに比べて一回り大きい中型種がブランデホトです。皆さん間違えたらダメですよ。ウサギさんに失礼です。

 ミミちゃんはとても人懐っこい性格でいつも私の膝の上に座りにきてくれるんです。足が痺れるのは我慢するしかありません。嬉しい悲鳴です。ミミちゃんは運動するのも大好きでオモチャの食いつきがとても良いです。ついつい買って帰ってしまうんですがミミちゃんの可愛い姿が見れるなら安い買い物です。あ、うさんぽもしますよ。お散歩です。太陽光を浴びるミミちゃんの神々しさと言ったら言葉で表しきれません!


 ……あっ、すみません。つい熱く語ってしまいました。いつも授業時間の半分ほどを使ってしまうので反省しているのですが、皆さんにミミちゃんの可愛さを知って欲しいと思ったら止まらず……ダメですね。


 あの日は二月二九日でした。うるう年だったので正確に覚えています。

 その時は五限目でした。昼休みに見守りカメラでミミちゃんの様子を見ていたのでこちらも正確です。


 この授業ではカエルの解剖をする予定だったので普段の教室ではなく理科室を使いました。昼のミミちゃんの様子がとても可愛くて、つい語りに熱が入ってしまったのも恥ずかしながら覚えています。クラス委員長のニノマエさんが止めてくれたので何とか解剖の時間は確保出来ました。ここからはしっかり授業をしようと、準備していた道具を皆さんに取りに来てもらおうとした時、それは起きました。


 突然でした。眩い光が見えたと思ったら爆音とともに衝撃に襲われました。痛みと熱を感じたのは一瞬で、多分……即死だったんだと思います。

 驚きました。あれは火薬の匂いでした。薬品の匂いとは異なりますし、独特な匂いなのですぐに分かります。なのでなおさら、分からなくなりました。どうして爆弾があったのでしょうか。どうして爆発したのでしょうか。誰かの恨みがあったのでしょうか。とても怖いです。


 でもそれ以上に哀しくなりました。もうミミちゃんに会う事が出来ないのです。大好きなミミちゃん。もっとたくさん遊びたかったです。もっとたくさん一緒に生きたかったです。

 私が死んでしまったらミミちゃんはどうなるのでしょうか。答えは分かっています。ゲージの中でもう居ない私の帰りをいつまでも待つ事になります。ずっとずっと独りで待つ事になります。お水も無限ではありませんし、何よりご飯を食べる事が出来ません。私は独り身なので代わりに世話をしてくれる人がいません。徐々に憔悴して死んでしまうでしょう。誰もいない部屋で、誰も来ない部屋で、誰にも知られず孤独に死んでしまうでしょう。そんなミミちゃんを想像するだけで胸が張り裂けそうです。ごめんなさいミミちゃん。後悔はつきません。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。


 ミミちゃんに会いたいです。

 もう一度会って、抱き締めて、ごめんなさいと大好きを伝えたいです。

 それが唯一の心残りでした。


 神様はその願いを叶えてくれたんだと思います。アニメやマンガを嗜んでいたので少しですが分かります。私はいわゆる異世界転生をしたのだと思います。だって私は死にましたし、目が覚めた風景は明らかに日本、地球ではありませんでした。


 お人形の世界なんだと思います。ビスクドール……だったと思います。すみません、人形の知識はあまりないので詳しくは分かりません。勉強不足です。私は生き物が好きなので人形には関心が向きませんでした。

 自分の手を見下ろして動かしてみるとカクカクとした動きでグーパーグーパーしました。思い通りには動きますが動きがカクカクしているのは私がまだこの体に慣れていないせいでしょうか。それと、体の中に一本の糸が通っているのを感じます。頭のてっぺんから体を通って手や足まで繋がっているのが分かります。神経みたいなものでしょうか。なんだか不思議な感じがします。


 戸惑いがあったのは最初だけでした。私にはやるべき事があったからです。ミミちゃんに会う。それが私の原動力でした。

 なぜかは分かりませんが私には分かるのです。この世界にミミちゃんがいると、確信がありました。


 満足に動かせるようになるとすぐに外に出ました。ミミちゃんを探すためです。その時は雨が降っていましたが構いませんでした。雨を吸ったのか体の動きが悪く、重くなったように感じましたが、それでも動けたのでそのまま探しに行きました。


 外に出てから一時間も経ってなかったと思いましす。爆発音が聞こえて反射的に頭を抱えてしゃがみました。とても怖かったです。恐怖で体が震えて動けませんでした。多分、トラウマになったんだと思います。

 雨が地面に落ちる音の合間にパチパチと燃え爆ぜる音が聞こえました。それでつい、顔を上げてしまいました。この時なぜ顔を上げたのか今でも分かりません。でも私が顔を上げたのは確かです。喉が詰まったような音が口から漏れました。


 家が燃えていました。雨が降る中、ゴウゴウと炎をあげて燃えていました。怖かったです。動けませんでした。でもそれは恐怖だけではありませんでした。魅入られたように視線が炎から離れませんでした。美しいと思いました。そう感じた自分を恐ろしく思いました。

 やがて火事は雨によって鎮火されました。燃えた家は跡形もなく焼け落ちていました。隣の家に飛び火しなかったのは雨のお陰でしょうか。被害が少なく済んで良かったと他人事のように思いました。


 深呼吸をしてミミちゃん探しに戻ろうと焼けた家を通り過ぎようとした時、何かが光ったのが見えました。周りに人が居ないのを確認して、悪いとは思いつつその光に惹かれて、真っ黒に焼け焦げた家だった場所に足を踏み入れました。

 そこには宝石のようにキラキラ光る棒がありました。肌に馴染むようなやわらかなピンク色。まっすぐ細長くて、二十センチぐらいでしょうか。まるで魔法の杖のようです。ここの家主のお宝なのでしょうか。居ないとはいえ、勝手に持っていくのはダメです。

 そう思って置き戻そうとした時、燃え焦げていた家が跡形も無くなくなっているのに気が付きました。まるで元々、家なんてなかったかのように、ただの空き地になっていたのです。私は怖くなって急いでその場から走り去りました。町の外まで走って、そこで杖を持ってきてしまった事に気が付きました。ですがまたあの場所に戻る気にはなれず、心の中で謝って杖を持ち歩きました。


 町の外は凄かったです! なんとっ、ぬいぐるみが動いているのです! クマやペンギン、カンガルーのぬいぐるみが独りでに歩いています。試しに抱き着いてみましたがフッカフカでした。着ぐるみではなく、本当にぬいぐるみでした。ゆるふわと動くのがとても可愛らしかったです。

 でも夜になると包丁が襲ってくるので怖かったです。ぬいぐるみに包丁が刺さると可愛かったぬいぐるみが凶悪な顔になりました。包丁を手に持って襲いかかってくるのでさらに怖かったです。


 そうして外を彷徨っていると、目の前に天使が現れました。……笑わないでください、本当に天使だったんです!

 天使は子供のような身長で全身を覆い隠すような白いローブを身に纏っていました。顔に「かお」と書かれた紙が貼ってあったのが印象的でした。というか、それにしか目がいきませんでした。なんですか「かお」って。確かに「かお」は顔で間違いありませんが……。


 ではなぜ私が、その子供が天使だと知ったのかというと、これも書いてあったのです。……意味が分かりませんよね。もちろん説明します。

 天使は私に手を差し出してきました。それでようやく「かお」から視線を外す事が出来ました。手に視線を移すとその先にあった名札に目がいきました。その名札に「天使」と書かれていたんです。ねっ、天使でしょう?


 私は天使が差し出した手と顔を交互に見ました。天使の性別は分かりません。判断する材料が全くないので仕方がありません。

 天使は何も言わずにただ手を差し出すだけでした。何度も視線を彷徨わせていると動かない私に焦れったくなったのか、強引に私の手を取りました。思わぬ強引さに驚いて固まっていると天使はもう片方の手をあげました。その手にはいつの間にか鈴が握られていました。最初は確かにありませんでした。四面と頂点にたくさんの鈴がついた物でした。天使が鈴を振るとシャンシャンシャンとクリスマスのような音が鳴りました。


 次の瞬間、空から神々しい光が降り注ぎ、私と天使を照らしました。眩しさで思わず目を瞑りました。少しして、天使の手が離れた感覚がしたので目を開けるとビックリです!

 私は別の場所に居ました。移動した感覚も全く感じませんでした。これが瞬間移動というものでしょうか。


 異世界らしさに感銘を受けているとゴーンという重厚感のある鐘の音が響き渡りました。一度だけではありません。何度も何度も途切れることなく鳴り響きます。

 辺りを見渡すと、そこはギリシャにあるパルテノン神殿のような場所でした。大理石の床に四角く囲うように丸柱が立っています。壁や天井はなく柱を繋ぐように屋根がつけられています。飾りはないので質素に見えますが、厳かで神聖な雰囲気を感じます。そういえば天使の姿が見当たりませんが、どこに行ったのでしょうか?


 空が近いとはこの事を言うのでしょうか。雲一つない広大な青。風も吹いてませんでした。


 ところで、ここはどこなのでしょうか?






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