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&dead.  作者: 猫蓮
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&T13.何者

 竹刀カッケーンを手に入れたタロウはひとまず近くの洞くつに身を隠した。洞くつだと包丁が入ってくるんじゃ?と思ったけど、アイが大丈夫だと言ったからきっと大丈夫だ。


「それで、えっとニノマエリンカ?さんは……」


「リンカでいいよ。クラスメイトなんだから、よそよそしい態度はやめてくれ。あまり話した事はないけど……」


 あ、そうなんだ。でも、そっか。確かにそうだ。おれは学校でもアイとばっかり話してた。みんなが避けていたってのもあるけど。


「それより、タロウは今の状況分かるか? 私は全然分からなくて……」


 シナイが丸く曲がってる。お、落ち込んでる……のかな?


「学校で授業を受けていたのは覚えてる。大きな音がして、それで……気付いたら夜空に浮かんでいて、こんな姿になってて落下したんだ」


「それは……大変だったね」


 起きた先が落ちてる最中とか怖すぎ。想像しただけで身震いする。


「落ちたら落ちたで包丁がビュンビュン飛んでるわ、ぬいぐるみが包丁持って襲ってくるわで怖かった」


 ぬいぐるみが包丁? ぬいぐるみってハリ種の事だよね。包丁なんて持ってなかったけど。


「リンカは、ずっと地面に刺さってたの?」


「いや、何故か分からないけど夜の間なら自由に動けたんだ。だから襲ってくる包丁やぬいぐるみに対抗することが出来た。あれらも同じように夜の間しか現れなかったから」


「そうなんだ」


 夜な夜な包丁とシナイがバトル……想像つかない。どんな感じだったんだろう。


「雨が降っていた日があっただろ?」


「う、うん」


「あの日、通りすがりの子供が私を拾って地面に突き刺したんだ。それで夜になっても自力で地面から抜け出せなくてそのまま……」


「そう、だったんだ」


 子供ってフィト種? でも魔族は雨に濡れることを嫌うってスミさんが言ってた。タレットって症状になって、魔力が使えなくなるからって。

 それじゃあ、鬼族?


「それにしても、どうして私の姿は竹刀なんだ……」


 項垂れてる、のかな。また曲がってる。

 でもそうだよね。不便そう。手も足もないし、ああでも浮いて動けるか。口がないけど会話できてるし……あれ? 問題ない……?


 ううん、そういう問題じゃないよね。おれも違う姿だったらショックだったと思う。


「どうせなら猫になりたかった」


 え、そっち? 人の姿じゃないからイヤだとかじゃないんだ。


「次はタロウの番だ。ほら、話して。私ばっかりは不公平だ」


 岩をバシバシと叩く。洞くつ内に音が響く。


「おれが起きた場所は森の中だった。そこでお母さんに会って、それから魔族の人と知り合って……それで、アイに会えたんだ!」


 色々大変だった。怖い思いをしたし、悲しいこともあった。良い思い出とは言えないけど、でも、忘れたくない記憶だ。忘れちゃいけない過去。


「……え? それで終わり?」


 リンカが驚いたように言う。


「え……うん。ダメ?」


 全部言ったと思うけど。


「あ、当たり前だ。誰かに会った話しかしてないし、省略し過ぎだ。その説明じゃあ何も分からない」


 そんなこと言われたって、他にどう言えばいいの?


「まあ、いいか。お互いの身の上話はこの辺にして、本題に入ろう。タロウ、その人形って何? さっき喋ってたよね?」


「アイだよ。ミサキアイリ」


 運良くアイとはずっと同じクラスだったんだ。同じクラスなら知ってるでしょ。


「…………うっ、ウソだ。そんなはず……ない」


 リンカの言葉にムッとする。なんでそんなこと言うんだ。避けてるだけじゃなくて嫌っていたのか。


「ちがっ、違う。だって……だって彼女はっ……いなかった。あの日、学校を休んでいた」


「……えっ」


 どういう……こと?

 アイは一度も学校を休んだことはなかった。

 リンカは、何を言って……。


「そうだ。そうだよ! 思い出した。タロウ、君は授業中に何か余所事をしていただろう。授業と関係ない箱を持っていたけど、あれはなんだったんだ? ミミちゃんの話は退屈かもしれないけど、それでも授業に関係ない物を持ち込んだらダメじゃないか」


 授業中? ここに来る前の記憶は……あれ? 思い出せない。学校にいた……っけ?


「生物の授業中、(ナカ)島太郎(シマタロウ)が持ち込んだ爆弾が爆発。その場にいた教師生徒全員が即死」


 アイが淡々とした口調で告げる。

 爆弾!? なんでそんなものが学校に?


「やっぱり……って爆弾!? なんでそんなものを学校に……いや、一体どうやってそんな物を手に入れたんだ?」


 それはおれも気になる。じっとアイを見る。


「本人に聞いて」


「タロウ、なんでそんな危険な物を学校に持ってきたんだ?」


「おれに聞かれても……」


 知らないし。アイも言ってるじゃん。本人に聞いてって。


「なんで分からないんだ?」


「おれは中島(ナカジマ)太郎(タロウ)。リンカの思ってるタロウは多分、別の人だよ」


「は……ええぇぇぇぇぇええええええ!?!? そんなことってある!?」


 リンカの叫び声が洞くつの中を反射して何重にも重なって響く。しばらく声が収まることはなかった。


 おれも聞いててビックリした。すっごい偶然。これじゃあ間違えても仕方ない。


「すまないタロウ。人違いとはいえ君に強く当たってしまった。許してくれ」


 頭を下げてる、のかな。ぐにゃんってU字に曲がってる。シナイってそんなに曲がるんだ。ボキッて折れたりしない?


「ううん、おれもちゃんと自己紹介してなかったし、リンカは悪くないよ」


「そう言ってもらえると助かる。――だけど、それなると一つ謎が増えたな」


「なぞ?」


 何か気になること、あったっけ?


「ああ。クラスに中島(ナカジマ)太郎(タロウ)という名前の生徒はいない。君は一体、何者なんだ?」


 リンカの言葉にドクンと心臓が鳴った。


「お、れは……おれは……?」


 何者? 何者っておれは……あれ? 分からない。おれは一体ダレ――


「タロウ」


 アイの声にハッと顔を上げる。


「タロウはタロウ。それで十分」


『家族にとって私は操り人形。私ってなんだろう』


 そう言って泣いていた。涙は出てなかったけど、心は悲しんでいた。泣きそうな顔をしていた。


『アイはアイだろ? それ以外に何か必要なのか?』


 ……そうだ。おれがアイに言った言葉。覚えててくれたんだ。嬉しくて口がニヤける。


 立ち上げってリンカに宣言する。


「おれはタロウ! 魔王になって、アイを助けるんだ!」


 それがおれのやるべきこと。叶えたい願い。


「へ、へー。……ところで、魔王って何?」


 気合いをくじかれてズッコケる。せっかくかっこよく宣言したのに、そこはスルーしてもイイじゃん。






 * * *



 タロウが眠りについた。睡眠を必要としない竹刀が人形に近寄る。


「ミサキさん、ミサキさん……起きてる?」


 リンカはタロウを気遣ってか、小声で話しかける。


「……アイ。カッケーンと呼ばれたくなかったら改めて」


「あ、うん……すまないアイ。だから本当に、その呼び方だけは止めてくれ」


 何度も念を押して懇願する。それほどあの名前は嫌だった。だってカッケーンだよ? なんだよカッケーンって。すごく……ダサい。


「タロウがいた時は誤魔化されたけど、ちゃんと説明して欲しい」


「……説明はさっき終わった」


 タロウが眠る前まで、リンカはアイにこの世界についてあれこれ教えもらっていた。


「この世界じゃなくて地球でのこと。どうしても納得がいかない。ここが仮に死後の世界なら、教室にいなかったアイもタロウも、この場に居ないはずだろう」


「教室に居た教師生徒だけとは言ってない。同じ日同じ時間に死んだ人間もここに入ってきている」


「そ、そうなのか? なら……教室に居た人数よりは多いのか。全員を見つけることは出来るか……?」


「なぜ」


 リンカの呟きに短いけど本当に分からないといった声音でアイが疑問を呈する。


「なぜって、右も左も分からずにこの世界で生きるのは難しいだろう。みんなが力を合わせれば……」


「無駄」


 即答されてリンカはムッとする。そんなのやってみなければ分からないじゃないか。


「どうしてっ!」


「ここは日本ではない。死の概念は違う。危険度も非常に高い。毎日誰かが死ぬのは当たり前。死んで世界を回す。それがこの世界の理」


 生と死が繰り返されることで世界は滞りなく循環する。だから死に嘆く必要はない。時間が経てば、また生まれるのだから。


 もしかしたら何人かはすでに死んでいるのかもしれない。鬼族に生まれても魔族に生まれても関係ない。死はいつだって誰にでも起こりえる事だから。


「それでも、死は悲しいことだ。隣で笑いあった友が次の日には居ないなんて、悲しいじゃないか」


 人形は動かない。眠ったように喋らなくなった。人形だから起きているのか判断がつかない。それでもリンカは喋るのをやめなかった。感情のままに言葉を吐き出す。


「君だってっ……タロウが死んだら悲しいだろう?」


「やめて!」


 アイが叫ぶ。悲痛な声に驚いたリンカが口を噤む。初めてアイが感情を露わにした。場が静まり返る。沈黙を破ったのはアイだった。


「これ以上の会話は不要。(ニノマエ)凜華(リンカ)、タロウと繋がった時点で自由はない。大人しくタロウの夢を叶える助力をして。それと、今後一切タロウの身の上を詮索しないで。自我を失いたくないなら」


「ど、どういうこと!? アイ、アイっ!」


 落ち着きを取り戻したアイは元の感情の感じない声でリンカを脅す。それ以降、タロウが起きるまで何度リンカが呼びかけてもアイが言葉を発することはなかった。



 アイとの会話を諦めたリンカは戦慄した。彼女は自分の知っている御崎彩理(ミサキアイリ)なのだろうか。そう考えて、ため息をつく。考えても分かるはずがなかった。


 なぜならリンカとアイリはクラスメイトと言えどその実、関わり合いがほとんどなかった。いや、リンカだけではない。クラスの全員、アイリと関わる機会がほとんどなかった。それほどに彼女はクラスで孤立していた。だが決して、いじめではない。

 単純にアイリ本人が他人を拒絶していたのだ。話しかけても無視。笑いかけても無視。挨拶しても無視。目と耳が機能してないかのような無視っぷりにいつしかクラスメイトは関わる努力を止めた。委員長をしていたリンカがもしかすると一番会話をしていたのかもしれない。それでもただの業務連絡に留まるが。


 だからこそ、アイリの性格や人となりをリンカは知る由もない。クラスメイトと言っても顔見知り程度で友人未満……いや、もしかしたら顔見知り未満かもしれない。


 リンカはグッスリ心地良さそうに寝ているタロウ、本当に人形のように動かないアイを順に見てからふよふよと浮き上がる。そして疲れたようなヨレヨレの飛行で洞くつの中を進み外に出る。入口付近の岩に立て掛かる。

 星々が輝く夜空を見上げてため息をつく。


 これからどうなるんだろう……。


 リンカは心の中で呟き、また大きなため息をついた。未来には不安しか感じなかった。






こっちのタロウは中島╱太郎

あっちのタロウは中/島太郎

漢字の羅列は同じでも同姓同名ではないんだなー

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