表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
&dead.  作者: 猫蓮
72/143

&T10.おともだち

 アイに初めて会ったのは小学一年生の頃。クラスが同じだった。彼女はいつも一人で静かに本を読んでいた。


『おはよう。いつも何読んでるの?』


 話しかけても無視された。次の日も次の日も、そのまた次の日も無視された。


 クラスの誰も彼女には話しかけなかった。距離を取っていた。関わるのを避けていた。おれが話しかけに行った後に「やめとけ」とか「関わるな」とか言われた。

 なんでも彼女の家に問題があるらしい。父親がすごいところの社長で、地元じゃ有名の名家。目をつけられたら生活できないと親からそう警告された。だから、今までの生活を送りたいなら関わらない方が身のためだと言われた。


 それでもおれは話しかけた。放っておけなかった。だって、寂しそうな顔をしていたから。

 そんなおれにクラスのみんなは離れていった。それでも良かった。おれは一人でも大丈夫だから。


 話しかけ始めて一ヶ月経った頃、学校終わりに公園で泥だんごを作っているとアイが話しかけてきた。


『何してる』


 急に声をかけられてビックリした。話し掛けて来た人を見て、さらにビックリした。


『うわぁ!? ビッッックリしたー。今ねー、泥だんご作ってんだ! どうだっ、きれーだろ?』


 アイは砂場でしゃがむおれの前に立って、見下ろしていた。だから、しゃがまなくても見えるように頭の上に泥だんごを持ち上げた。


『全然』


 うぐっ、くっそー。めちゃくちゃピッカピカの泥だんごを作って、きれいって言わせてやる。そう心に決めて泥だんごを手のひらで磨く。


『……毎日いるけど帰らないの?』


 この頃は学校が終わってから夕方まで、ずっと公園で泥だんごを作ってた。毎日毎日。雨の日はさすがに図書館に行ってたけど。


『うーん、もう少ししたら帰る」


 時計を見て答える。まだ帰る時間には早い。あまり早く帰っても悪いから。


 アイは帰るかなって思ったら、近くのベンチに座って本を読み出した。帰らないんだ。おれと同じで家に帰りたくないのかな。時間がきて帰るまでお互いしゃべらなかったけど、なんだかいつもより楽しかった。理由は聞かなかったけど、一緒に居てくれた、話しかけてくれたことがとても嬉しかった。


 それからだった。アイと話すようになったのは。

 学校で、公園で、少しだけど毎日話をした。アイは本を読んでて、おれがずっとしゃべってるのがほとんどだった。でもたまに目が合って、返事をしてくれるから楽しかった。

 アイはいつも表情が変わらない。感情が表に出ないと言っていた。だから、いつかアイを笑わせることが目標になっていた。


『でっ……きたぁー! 見てみてアイ。きれいな泥だんご作れた!』


『うん』


 チラッと見ただけでまた本に視線を戻した。でも今、きれいって言った。うなずいたからきれいって思ったってことだよね。


『そうだろきれいだろ。今までで一番うまく作れたんだ。だからこれ、アイにあげる』


『……え?』


 ハンカチで包んでアイに持たせる。これなら汚れない。


『これはきびだんごだ。渡したからな! 今からアイはおれのおともだ。だから、次からはおともだちって言えよ』


 学校でともだちじゃないって言ってたのがたまたま聞こえた。おれだけが仲良しって思ってたみたいで少し悲しかった。


『パワハラ。意味も違う。でも、ありがとう…………タロウ』


『へへっ、おう!』


 初めて笑った顔を見た。初めて名前を呼んでくれた。とても嬉しかった。もう悲しい顔をしてなくて、とても安心した。



 * * *


 夢を見た。なつかしい夢。

 忘れない、忘れたくない記憶。

 アイとの出会い。大切な思い出。


 目が覚めると見知らない天井だった。

 あれ……おれ、なにして……?

 確か……ゲームの世界にいて、それでアイを探して……っ、そうだ!


「アイっ!」


 勢いよく起き上がるとともに叫ぶ。

 すると真ん前のイスに座ったアイと目が合った。


「なに」


 いつも通りの返事をする。変わらない。おれだけがテンション高くて、アイは静かに淡々と言葉を返す。たまにうるさいって言われるけど、少し笑ってるのを知っている。

 今もおれだけが慌ててて少し恥ずかしいけど、それ以上にアイが居ることが嬉しい。


「おはようタロウ」


 窓から日が差し込む。いつの間にか寝ちゃって、朝になってた。


「おはようっアイ! あっ、これアイの布団だろ。ごめん、おれが使って。大丈夫だった? おれは床でも寝れるから良かったのに。……今から寝る?」


 アイが首を横に振る。布団を丁寧にたたんで押し入れにしまう。


「大事な話がある」


「うん」


 アイの前に座って、聞く姿勢になる。

 あっ、そういえば……アイってこの世界のこと、どこまで知ってるんだろう。日本じゃないって知ってるのかな。


「タロウの夢を叶えて。魔王になって欲しい」


「っ! ……ごめんアイ。おれは勇者らしいから、魔王にはなれないって」


「問題ない。鬼族の各領地に神器が隠されている。神器を三つ集めた者が魔王となる資格を得る。たとえ、魔力を持たなくても関係ない」


 めちゃくちゃ知ってた。やっぱりアイは賢い!


「じゃ、じゃあっ、そのジンギ? を集めれば……!」


 前のめりになって聞くと、アイが頷く。

 やった! 魔王になれる。


 魔王に攫われたお姫様を勇者が助けに行くゲームがあった。強くなって魔王を倒す勇者に憧れた。その時は勇者になりたいと思った。


 でも、勇者じゃダメだった。勇者はお姫様を助けても王様に逆らえないと知った。勇者はお姫様を城に連れ返すから自由になれないとわかった。

 魔王じゃないとお姫様を救えない。魔王じゃないとお姫様を守れない。だからおれは魔王になりたいと思うようになった。


「タロウは魔王になれる。魔王になって鬼族の王、六鬼王を倒して」


 倒す……。なんだかほんとに、ゲームの世界みたいだ。


「わかった。でも、倒すっておれにできるかな」


 ケンカとか、したことない。それに倒すって、殺すってことでしょ?

 鬼族は怖かった。とても怖かった。だけど、おれと同じで生きている。仲良しの友達がいて、家族がいるかもって思うと……できない。したくない。


「嫌でもやってもらう。そうじゃないと『アイ』は自由にはなれない」


「どういうこと?」


「この姿は言わば仮の姿。本物の『アイ』は世界に囚われている」


 世界に囚われてるってどうして? アイがなにかしたの? どうしてアイばかりが苦しい目に合わないといけないんだ。


「その六鬼王を倒せば、アイを救える……?」


「違う。倒さないと救えない。だからタロウ、頑張って」


 がっ、頑張る! ……けど――


「おれ一人で……?」


 鬼族を知っている。ここに来る前に見た。とても怖かった。それの王様なんて、きっとアレ以上に強いはず。恐ろしいはずだ。


「神器があれば圧倒できる。魔王になれば魔族が付き従う。加えて、鬼族でもこちら側の者がいる。心配ない。全て上手くいく」


 賢いアイが言うなら、きっと大丈夫だ。


「わかった!」


 ……あれ?


「アイはどうするの?」


「どうする?」


「ここに……一緒に行こ?」


「心配ない。タロウと一緒に居る」


 よかったぁ! せっかく会えたのに、もうさよならはいやだった。


「そうだ! アイ、アイ。この世界でお母さんと会ったんだ。お母さんは味方だろ? 家にはいつ来るんだろう。ちゃんと話せなかったから三人で……アイ?」


 難しい顔してる。これは何か考え事をしてる時だ。


「…………あぁ、島田さん。彼女はこの世界に居ない」


「え? でも、会ったよ。あれはお母さんだった」


 見間違いじゃない。見間違えるはずない。なのに、アイは違うと言う。アイは賢いから、正しいことを言う。不安になっていく。違うの? お母さんじゃないの? じゃあ、あれは誰なの?


「とにかく、その人に会えば自ずと分かるはず。外見の特徴は?」


「特徴って……お母さんはお母さんだよ?」


 あっ、今ガッカリした。言わなくてもわかるからね!?


「……時間の無駄。早く出発」


「うん!」


 アイをだき抱える。一階に降りて右のリビングに入る。そこにはソファで寝ているスミさんがいた。


「スミさん、スミさん! 起きて」


 揺さぶって起こす。寝ぼけたようにゆっくりまばたきをする。後は、タンスの引き出しに地図……これか。前にスミさんに見せてもらった詳しい地図と同じだ。


 スミさんを起こした。アイと地図を持った。

 いざっ、しゅっぱーつ。


 玄関を開ける外は雨が降っていた。魔族は雨に濡れると魔法が使えないらしい。外に出るのは雨が止んでからになった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ