&60.女のカン
「ノームが集まって騒いで……まったく、うるさくて敵わないわ」
また新しいヤツが来た。今度は誰だ……っえぇ!?
「なんの遊びしてるのー?」
「気になって来ちゃったー」
羽を生やしたガキ三人がフワフワ浮いて来た。……浮いて来た。
「うわっ、またうるさいのが……」
レムレムが聞きたくない言葉を漏らす。その情報はいらない。
「……っ、チョットチョットォー!? なんでここにオーク種が居るのよ!?」
私を見て驚愕の表情を浮かべて叫ぶ。うるさい。指差すな。ダメって教わらなかったのか。
「あー、これにはわけが……」
「レムレム、アンタね!? 他の、それもこんなおっさんを入れるなんて信っじらんない!」
よく吠える子犬だな。キャンキャンキャンキャンと、うるさい。つか揃いも揃って私をじじぃ扱いするな。……そんなに年寄りくさいのか?
「言い訳は聞かないわ。アンタがやらないならアタシたちがやってあげる。行くわよ! ポン、タン」
「「え〜」」
「や・る・の!」
「「はあーい」」
うるさいのがリーダーか。他の二人は振り回されて可哀想に……と思ったけど楽しそうに笑ってる。なんだかんだ仲良しなのか。
てかやるってなんだ。何をやるんだ……って、もしかして?
気付いた時には遅かった。すでに三人に囲まれていた。
「かごめかごめ。籠の中の鳥はいついつ出やる」
歌いだした。突然の合唱に理解が追いつかない。しかも遊び歌……あれ? 体が、動かないっ!?
三人は手を繋いで私を囲み、ぐるぐるぐるぐると回る。そして楽しそうに笑いながら歌を歌う。
なにこれ副音声? 笑い声が頭の中で響いてる。
「夜明けの晩に鶴と亀が滑った」
視界が真っ暗になった。何も見えない。
五感を奪われた? いや、音は聞こえる。聞こえるのは三人の歌声と笑い声だけだけど。
「後ろの正面だあれ?」
首が捻れる。グルンと回った。それと同時に視界が戻って目が見えるようになった。
「あん?」
目の前に居たリーダーがオバケを見るような目で私を見ていた。え、なに……?
「ウソ……ウソウソウソ! ありえない……ウソよ!」
混乱したように頭を抱えて後退るリーダーを守るように二人が立ち塞がる。なんだなんだ? 誰か説明を、レムレム!
「「すっごーい!」」
二人は興奮したように目をキラキラさせる。なんか、既視感が……。
「どうして生きてるの?」
「どうして分かったの?」
「「ねぇなんでなんでー!?」」
グイグイと距離を詰めてくる二人に押されて後退る。後ろに下がったはずなのに二人に近付いた。うん?
足下を見る。空を見上げている。はて???
「さめじぃ、顔が後ろに回ってるよ」
顔が後ろ? あぁ、そういう。
よいしょっと頭を半回転させる。これでちゃんと正面……か? なんか首が動かしにくいな。
「逆逆ぅ! 一回転してるから」
むーん。二択で間違えたらしい。えーっと……あれ? さっきどっちに回したんだっけ?
忘れた。分かんなくなっちゃった。もういいや。
頭を挟み上げて首を取る。そのまま下ろしてくっつける。うん。元通り!
「うぇぇ……コワァ」
レムレムが引いている。いやお前、何度も私を殺してたよな。それで興奮してたよな。忘れてないぞ。
その後ろでレズレズがレフレフの首を絞めてガックガックと前後に揺すってる。あれ脳ミソ揺れてキツくね? 勢い強いし……ヤバっ。
「「きゃあああ、スッゴーイ!」」
二人が私の周りをぐるぐる飛び跳ねる。声も動きもうるさい。動いてないと死んじゃうのか?
コイツらもちっちゃいから小鬼族だよな? でも多分、ノーム種ではないだろう。
「ふぁーたしゅ」
なぬっ!? またもやシズクちゃんが教えてくれた。
さすがシズクちゃん! 頼りになる〜。
「そうだよー! アタシはポン」
「アタシはタン。よろしくねー」
ポンとタンが手を振る。その視線の先はシズクちゃんだった。
「お前ら……見えてるのか?」
「「うん!」」
まさかと思って尋ねると、元気のいい返事が返された。マジか。だとしたら種族とか関係ないのか。え、じゃあ私は見えない部類にいるのか。それは……ショックだ。
「はああああああ!?!?」
真横からクソデカい悲鳴が聞こえた。うおっ、いつの間にか隣にレズレズがいた。
レフレフは……事切れたか。惜しい人を亡くした……あっ、力なく手を振ってる。生きてた。
「ウソでしょどういうことよ!? なんでアナタたちは見えてるのよ! なんでアナタたちは聞こえてるのよ! なんでなんで、アタシには見えないの!?」
それは私も気になる。二人の視線を受けたポンとタンが顔を合わせる。それから正面に戻してニヒッと笑う。
「女のカンよ!」
「男にはムリー!」
手でバッテンを作って、イーッと歯を見せる。
「ムッキィイイイイ!!!」
レズレズが悔しそうに地団駄を踏む。暴れ猿……。
私は、胸を抑える。なんとも言えない感情が渦巻いてる。悔しいでも悲しいでもない。でも、形容出来ない。
女のカン……。女の……女の…………。その言葉が頭の中を反芻する。
「分かんない! 分かんない分かんない分かんないわよ! レムレム説明して!」
リーダーが発狂したように叫ぶ。その声に意識が引き戻された。私を指差してレムレムを睨む。
「説明しろってもなー。見ての通り、死なないオーク種だよ」
「さめじぃだ」
見ての通りかは分からないけど、紹介されたからには名乗っておこう。他に言う言葉が思い浮かばなかったし。
「さめじぃ〜」
「さめじぃ〜」
ポンとタンが後に続く。この二人、さてはノリで生きてるな。振り回されて大変なのはリーダーの方か。
「〜〜〜っ、なんでアンタたちも馴染んでるのよ! こんなの、おかしいでしょ!?」
こ、この子……常識人だ。そうだよな。私も受け入れてたけど普通に考えておかしいよな。
「まあまあアン。落ち着いてー」
「ドード〜」
二人がリーダー、アンを宥める。けど、それ……逆効果じゃね?
ああほら、震えてる。怒りでプルプル震えてるよ。
「どおどお?」
シズクちゃーん!? それ追い討ちだからぁ!
首傾げて可愛いけど、今じゃなーい!
「なによなによ……もぉー怒った!! みんなみんな、居なくなっちゃえ!」
噴火した。怒り大爆発。
そうだよね。一体多だもん。味方いないもんね。悲しい。これが常識人のサガか。
アンのそれは完全な八つ当たりだ。怒りに任せて行動している。けど、その心情をバカにする事は出来なかった。
分からない。納得いかない。なのに他のみんなは普通の事のように受け入れている。それが余計に疎外感を感じさせる。味方がいないと悟ってしまうと、どうしようもないほどの不安を掻き立てられる。それこそ、息をするのが苦しいと感じるほどに。
その気持ちは共感できる。けれど私は味方になる事は出来ない。だって私は、その主たる原因だから。
こちらを睨むその眼には涙が溜まっていた。怒りの中に苦しみが見えた。
「オーダー!」
叫んだ後、パキンと何かが砕ける音が聞こえた。その直後にレムレム、ポン、タンの三人が慌て出す。
やめろ。ダメ。待って。それらの静止の声をアンは聞き入れず、大きく息を吸って口を開く。
「通りゃんせ通りゃんせ。ここはどこの細道じゃ。天神さまの細道じゃ」
早口に、叫ぶように歌う。なのに頭に響く笑い声はさっきと変わらず楽しげだ。苦しいほどの怒りと無機質の笑い、その対比がアンの心と体が離れているように感じた。
「っ、ポン!」
「さめじぃ! 絶対、振り返らないで!」
歌の最中でポンとタンが切羽詰まったように言う。止めてもなお歌い続けるアンは止まらないと悟ったのか。
「行きはよいよい帰りはこわい。こわいながらも通りゃんせ通りゃんせ」
歌が終わった。そして、誰も居なくなった。




