&59.重い
名前がしっくりこないって言われても、あだ名だからじゃないのか?
そう思ったけど黙っていよう。じゃあ本当の名前を教えてって言われても困るから。
「種族の特徴はなにも外見に限った話じゃないよ。名前のルールや鬼力、性質からして異なるんだ。種族という枠組みがあって、ある程度決まってるから逸脱することはまずありえない」
は、はあ……?
どうしよう。ガキが難しい事言ってる。抽象的な物言いだと思ってたのにめちゃくちゃ理知的だ。王だから?
「例えばオレたちノーム種の場合、名前は音が二回続く。それで言えば小鬼族の名前は分かりやすいよ。正面に書いてあるから」
ほらっと指差したレムレムのお腹には『M』の文字があった。え、それ名前なの?
「ここにはコベルしかいないけど……ほらね?」
かおがあるガキどもはコベルと言ってノームの下位種に当たる。胸に名札があって、ちっこいのも相まって園児みたいだ。トト、カカ、チチ、ハハ、パパ、ママ……うん、確かに二回。いや微妙だな。
「レムレム〜」
遠くからレムレムを呼ぶ声が聞こえた。声の方を見ると誰かが手を振って……えぇ!?
そ、空を飛んでいる。紙飛行機に乗って……空を飛んでる。めっちゃまっすぐ飛んでる。いいなぁ乗りたい。
「おっ来たきた! おーい、こっちだー!」
紙飛行機は緩やかに下降して、安全に着陸した。果たして紙飛行機に操縦という概念はあるのか?
なんにしても乗りたい。言ったら乗してくれないかな。
紙飛行機にはノームが二人とコベルが一人乗っていた。ノームの腹にはそれぞれ『H』と『Z』の文字があった。名前のルールねぇ。
ちなみにコベルの名前はテテだった。
「待ってたぞレフレフ! ……ってなんだ、レズレズも来たのか?」
嬉しそうに手を広げたレムレムは、レフレフに手を上げる。そして、後ろにいるレズレズを見てげんなりと肩を落とした。
「なんだって何よ。失礼ね。アタシが居ちゃマズイ事でもあるの!?」
「いやだって呼んでないし……」
「そーよ! どうしてアタシを呼ばないのよ!? 面白そうな事を独り占めにしようだなんて何様のつもりぃ!?」
「独り占めじゃない! それにっオレは悪鬼王だぞ」
「偉ぶってんじゃないわよ!」
レムレムとレズレズが言い争う。それに我関せずと眺めるだけのレフレフ。
「止めなくていいのか?」
「いつもの事だから」
のほほんとした調子で答える。特徴だなんだと言っても性格は全く違うみたいだ。まあ人間でもそうだし、そんなもんか。
「なあ、私も紙飛行機に乗れる?」
「えっ……乗りたいの? あーでも、これにはムリだね。重量オーバーで飛べないと思うよ」
クソぅ。ダメか〜。てか私は重いのか。動きやすいし、海に浮かぶから軽いと思ってた。それとも紙飛行機は小鬼族専用とか? ガキ三人って結構重いと思うけど……。
いやいっそのこと頭だけ乗せてもらうでもいいな。
「オーク種の鬼力って確か飛翔の能力もあったと思うけど……」
「詳しく」
力がこもってつい強く肩を掴んでしまった。痛そうに顔を歪めて、すぐに手を放した。力が強いのも考えものだな。
「――そうだ。その事でレフレフを呼んだんだった。レフレフ、さめじぃを診てくれ」
「うん? ……ああ、いいよ」
首を傾げて、でもすぐに意味を理解したのか頷く。
レフレフは腹にある『H』の文字の真ん中の線を開くように引っ張る。すると線が動いて体に穴が出来た。その穴に手を突っ込む。
ううぇっ!? なにそれ怖っ。気持ち悪っ。体どうなってんの!? 正気かコイツ。
「ええっと……これ、じゃない。これも違う。うーん……あっ。あったあった」
袋の中をまさぐるように体に開いた穴に入れて手を動かしてる。うわー、引くわー。中がどうなってるかは分からないけど視覚的にアウトだ。ほんと何やってんの?
「じゃじゃーん、なんでも鑑定眼」
体の中から取り出したのは虫眼鏡だった。……えぇー。しかもデカい方の虫眼鏡だ。穴の大きさガン無視じゃん。てかどうなって……塞がってる。塞がってるってより、元通りになってた? 元の文字に戻ってる。
生き物の神秘ってこういう事を言うのだろうか。むーん。違う気がする。
私がレフレフのお腹を見つめてる間に、レフレフは取り出した虫眼鏡で私を診る。
「どうだ?」
「う、う〜ん? さめじぃは確かにオーク種だけど……」
「だけど?」
「名前や鬼力、情報が塗りつぶされて見えな……い…………」
レフレフの言葉が止まる。腹から視線を上げると虫眼鏡越しにレフレフが固まっているのが見えた。なんか探偵っぽいね。こんな探偵いないか。
うん? 視線が私にじゃなくて少し斜め上に……あ、シズクちゃんか。
「ノロイスト種……」
「はあ!? ノロイスト種なんてどこにっ」
「貸して!」
レズレズが虫眼鏡を取り上げて私に向ける。徐々に目が大きく見開いていき、口が戦慄く。
「……っ、きゃああああああああ!!??」
キーンと頭に響くような甲高い悲鳴をあげた。耳が壊れる。思わず耳を塞ぐと、他の連中も同じく耳を塞いでいた。
「なによなによなによぉー!! なんで黙っていたのよ。かんっっっわいぃ〜わぁ〜♡♡♡」
頬に手を添え、腰をくねらせる。ワカメの真似かな?
「こんなに可愛い子が居るなんて聞いてないわ!? え……好き。大好き。なにこの可愛さ。存在していいの!? 全ての可愛いが詰まってるわ。天使かしら? 天使だわ。天使以外に考えられない。それ以外ありえないわ」
うわっ、目が据わってる。微動だにしない。恐っ!
やめろ見るな見るな。シズクちゃんが減る! それにシズクちゃんは天使じゃない。私の可愛い人だ。勝手に人外にするな!
シズクちゃんは目をぱちくり瞬かせて、コテンと首を傾げる。何も分かってないみたい。可愛い。
「んぐぎゃわいぃぃ……。あざとい仕草も最高! かわいすぎー! あーん好き好き好き好き好き」
鼻息荒くして興奮絶叫。いやー、怖ーい。変態かな? 変質者かな?
シズクちゃんはもしかしてダメ人間ホイホイなのか? あっ、人間じゃないか。異常者ホイホイ?
「さめじぃ、たのしいね」
シズクちゃんと目が合って微笑まれる。んぐっ……可愛い。とても可愛い。笑顔の破壊力っ!
騒がしいのはスルーか。大変良いね! 最高だよシズクちゃん。自然と笑顔になる。
「うん、そうだね。……そうだ。シズクちゃん大丈夫? 疲れてない?」
うん、と大きく頷く。シズクちゃんはここに来てからあっちこっちに飛び回っていた。外に興味津々だ。それはもう行ったり来たりと忙しなく動いてたわけだけど、見る限りまだまだ元気が有り余っている模様。うーん可愛い!
「しゃべっ……しゃべれ…………チョット!」
シズクちゃんと微笑み合ってたらレズレズが服を掴んできた。身長差のせいでお腹辺りの布をってそこ腰紐! 引っ張るな揺するなっ、解けるだろ!?
「彼女は何。なんであんなに可愛いの。天使なの? 彼女とどういう関係なの。かわいすぎない? 天使よね。え何、見えるの喋れるの? もしかして触れるの!? なにそれずるいずるいずるい〜!!」
尋問というか自問というか愚痴というか。早口で捲し立てるように言うけどレズレズの視線の先はしっかりシズクちゃんを捉えて逸らさない。器用だな。
てか結局なにが聞きたいんだ? いや答えれるか分からないけど。つか私に聞いてんだよな? 一度も目が合わないけど。
「ちょ……おいっレズレズ!」
レムレムが抑えようとレズレズの肩を後ろから掴む。けれどそれは押しのけて、今度はレフレフの肩を掴み顔を鼻の先がくっつくほど近くまで寄せる。勢い強……。あれは恐いな。良かった。身長差があって。
「レフレフ! すぐにこれを改良しなさい。一刻も早くアタシに彼女の姿を声を肌を! 見て聞いて触れるようにしなさい!」
「そんな無茶な……」
「無茶でもなんでもやるのォ!!!」
どうしよう。スゴイの来ちゃった。ヤバイの現れちゃった。
今すぐにシズクちゃんを隠したくなった。もう、さっさとここを出て行こうかな。逃げるが勝ちで。
オーク種の観察記録3
任務継続のためエストファに移動中。ターゲットを見つけ次第、観察をっ……。




