&58.簡単なお仕事
輪っかをくぐると森から自然フィールドに変わった。そんなに大きな変化はない。けど違う。空気が変わった。
瞬間移動でもしたみたいだ。みたい、ではなくて実際にしたのか……?
「ここは……?」
「エストファだよ。……え? こんなことも忘れちゃったの?」
カチン。今バカにしたよね。バカにしてるよね。
てかさっき私の事じーさん呼ばわりしたよね。そんなに老いてねーよ。
「まあいっかぁ」
私から距離を取ってホイッスルを鳴らす。うるさーい。
てか忘れてたけどコイツが乗ってるそのバッタはなんだ。乗り物か? にしてはリアルだけど。本物にしてはデカい……って、あぁ。
この世界は人以外がビックリするほどデカイのだろう。それなら地下の敵のデカさも納得がいく。ホントにデカかったもんな。モグラもペリカンもイルカも。暗闇のとこは見てないから知らないけど、きっとデカいだろう。……あれ? なにか忘れてる気が……気のせいか。
むーん。笛のせいかガキどもがわらわらと集まってきた。嫌な予感がするな。
「みんな一つずつ持ったね? それじゃあ順番に行ってみよー!」
「「「はーい!」」」
ノーム種がレッツゴーと拳を振り上げると、集まってきたガキが手をあげて元気よく返事をした。そして、全員が私を見る。
「ドッジボール!」
地面に円形の枠が浮かび上がって私とボールを持ったガキだけを囲む。間に線が引かれてコートのようになった。一体一のドッジボールってどうなの?
投げられたボールを軽々と避ける。そういえば、外野っていなくね? どうするの? と疑問に思って後ろを振り返る。直後、背中にボールが当たった。爆発したみたいに体が砕け散った。
「さいの目切り!」
大きなサイコロを振る。ゴロンゴロンと転がって、出た目は三。ポンッと煙が上がってサイコロが三つの包丁になって浮かぶ。それ夜だけの話じゃねえのか。犯人お前か!?
どの切先も私に向かっている。滑らかなカーブを描いて包丁が飛んでくる。避けても弾いても勢いは衰えず向かってくる。見事な連携? で体を切り刻んだ。
「クラッカー!」
発射口を私に向けて紐を引く。パンっと音が鳴って内の物が飛び出す。直線上から離れようとして、体が動かなかった。そのまま紙ふぶきがスパスパと体を切り裂いていった。
「ねずみ花火!」
「風船!」
そして殺される事十回。集まったガキ十人にそれぞれ殺された。なにあの物騒な道具の数々。どれも殺傷能力高過ぎだろ。まあ、痛くも痒くもないけど。
「い……生きてるー!!!」
スゴーイスゴーイとノーム種が興奮する。集まったヤツらも真似て喜ぶ。
「……オイ」
「十回……いや十一回だね。本当に死なないんだ〜。どうなってるの? 頭が壊れても全身バラバラになっても跡形もなくなっても元通り!」
「オイ!」
「どうして動いてるの!? どうして死なないの!? 何をやったの何があったのなんでなんでなんでー!?」
「聞けっ!!」
グイグイと聞き迫るノーム種の頭に拳骨を落とす。
「イッッッたーい……」
鼻息吐いて腕を組む。全く、好奇心が旺盛過ぎる。暴走列車か。いやコイツの場合は暴走バッタか。……まあ、それはどうでもいいんだ。
「で? まさか、自分だけ満足してはい終わり……なんて、考えてねーよなぁ?」
ヒュっと息が詰まる音が聞こえた。ガタガタと震え出したガキどもを見下ろす。急に大人しくなったな。気圧されたのか、状況を理解出来たのか……まあどっちでもいいけど。
「どうだったよ。アア”!? 随分愉しそうだったなぁ。ほらなんか言ってみろ。さっきまでの威勢はどうした」
「ひ、あ……」
青ざめて身を寄せあって震えて、なんだ私が弱い者イジメをしてるみたいじゃないか。違うよな。
今更怯えて、ちゃんちゃらおかしい。おかしすぎて思わず笑いが零れた。
ゆっくりと瞼を開けて見下す。
笑みを消して、感情を消して、それらを見下ろす。
少しの希望もないと分からせるために、冷酷に映るように立ち塞がる。
「落とし前、つけるよな?」
泣きそうな顔して、高速で顔を縦に振る。あ、いや、泣いてるわ。ボロボロと涙流してる。泣くぐらいなら最初からやるなよ。
「うれしい」
シズクちゃんがノーム種を見つめて呟く。うれしい?
………………っ。思わず吹き出した。
嬉しい……嬉しいって。アッハッハ。ひーっ腹痛い。ふ、ふふ……ダメだ。笑いが込み上げてくる。顔を押さえて堪えてるけど、ヤバイっ。決壊しそう。
………………ふぅ。堪えた。危なかったぜ。体裁は保たれた。
……あん? 泣き止むの早っ。てかなに間抜けな顔してんだ。
そういえばかおの下はどうなってんだろ。手を伸ばすと避けるように仰け反る。ムダな抵抗は気に留めず、そのままペラリと紙をめくる。
「っ……」
そっと下ろした。見なかった事にしよう。そうしよう。私は何も見ていない。見てないぞ。
「あ、あの……?」
ノーム種がおずおずと声を出す。ビクビク怯えて、随分へっぴり腰になったもんだ。だけどさっきよりは和らいでいる。むーん。もう一回威厳を見せるか。上下は最初にハッキリさせないと。
「頭が高い」
「はっ、ハイ!」
バッタから降りて正座する。背筋を伸ばしたら高いままじゃん。まあいいか。
「お前はこれから私の下で働け。拒否権はない」
「ひ、ひゃい! 」
よしよし。完全に服従したな。これで情報源ゲットだぜ。
ただ、露骨に怯え過ぎだろ。なんか悪い気が…….しないな。うん。全然しない。むしろ清々しい。だって殺されそうになったし。あ、実際殺されたわ。
「安心するといい。何も恐れる事はない。ただ私に従う。それだけの簡単なお仕事さ」
「ひ、ヒェ……」
む、安心させるように笑ってやったのに余計に怯えやがった。なぜだ。
「こ、殺さないでぇ……」
頭を抱えて蹲る。酷い言い草だ。先に殺してきたのはそっちじゃないか。
それに、貴重な情報源を無下に殺すわけないじゃないか。しっかり役に立ってもらうんだから。
ため息をついて、ノーム種の頭を軽く叩く。ビクッと体が跳ねたけど気にしない気にしない。
「なに、取って食いやしないさ。湾に沈めたり、小指を切る事もしない。安全で簡単でお前みたいなガキでも出来るお仕事だ」
「ひぎゃあああああ!?!?」
ノーム種の悲痛な叫びが空に木霊する。うるさい。
反射的に力がこもって、頭を地面に押し付けた。少しめり込んだけど静かになったので良し。
気を取り直して。
別の世界うんぬんはややこしいから飛ばして、仕事内容を簡潔に伝える。この世界の事知らないから教えろ。
そしたら物忘れが激しいじーさんのレッテルを貼り付けやがった。ムカついたから殴ってやった。
「あ、そういえば名乗ってなかったな。さめじぃだ。種族はオーク種。よろしく」
「オレはレムレム。ノーム種で……聞いて驚け! オレが悪鬼王だ!」
フフンと得意げに胸を張る。あっきおう……王!?
え、コイツが……? 王……? こんなのが?
マジかノーム種。大丈夫か世界。
「つくもしずくは、のろいすとしゅ!」
ハーイと手を上げてシズクちゃんが名乗る。可愛い。
反応してない視線も向けない。レムレムにはシズクちゃんが見えてないっぽいな。だとしたら、やっぱりノーフォが特別なのか。それとも、同じ種族じゃなければ見えないとか?
「でもさめじぃって本当にオーク種なのか?」
聞かれても知らんけど。ノーフォがそう言ったんだから。ウソをついてる雰囲気はなかったし、わざわざウソをつく必要もないだろう。
「どういう意味?」
「名前がしっくりこないんだよ。種族毎に特徴があるのは知ってるだろ?」
それは知ってる。
「外見だろ」
おい、なにコイツやべぇみたいな顔してるんだ。目頭を押さえるな。手を合わせるな。ナムってなんだ。バカにしてるだろ。
オーク種の観察記録2
悪鬼王と接触後、エストファに転移した模様。その際、一度殺されたのに蘇った。怖かった。




