&57.小鬼族
「なにあれ……なにあれ?」
目の前の光景に目を疑った。それほど信じられない光景だった。何がヤバいって全部としか言いようがない。ツッコミどころ満載で、逆に何も言えない。そんな雰囲気を醸し出している。
それでもなんとか言葉を捻り出して言えば、運動会?
遠い目になって眺めている内に目の前の光景は変わっていく。
「魔族だー」
「逃げろー」
両手をあげて走り回るガキども。それを追うのは着ぐるみっぽいクマ。楽しそうな声をあげて笑っている。
と言うのは冗談で。いや冗談ではないけども。見方によってはそう見えるねって話。明るい感じに脳内変換されてました。はい、現実逃避です。
実際には、包丁を持ったクマがガキを追いかけている。ガキどもは泣き叫びながら捕まらないように逃げている。
なんだこれ。ほんとに……なんだこれ。
もうどこからツッコんでいいのか分からないよね。
遊びなのか本気なのか……このまま見なかった事にしていいかな。
「わっ!?」
ガキの一人が転んだ。クマがそのガキの前で立ち止まって包丁を振り上げる。
あっ、これ……本気のやつだ。
そう思った瞬間、走り出していた。
傍観を決めていた。それはまだ日和見でいたからだ。死なないという事もあって、危機感は全くなかった。
けれども思い出した。ここは地球じゃないという事を。コスプレだとか遊びだとかは地球だった場合の話だ。
物騒なこの世界で、そんな軟弱な思考ではすぐに殺されるだろう。私は死なないけどね。
「ヒーンっ!」
間に合えっ! 届けっ!
その一心で大地を踏み、駆ける。
「ッ!?」
けれど、間に合わなかった。
ヒーンの切っ先は届かなかった。
そして、包丁も届かなかった。
「な……なんだ!?」
爆発したみたいに吹き飛ばされた。
ビーっと大きい音が鳴った。
ガキが何かを取り出した。
その何かは角度的によく見えなかった。けれど、ガキが何かしたのは確実だ。だってガキの姿はなくなって、さっきまで居た場所には焼け焦げた跡が残ってる。
何が起こった。何をやった。分からなかった。見てなかった。注意を向けていたのはクマの方で、ガキじゃないから。
「うわー」
焦ったような声が聞こえて、意識が引き戻された。爆破跡に固定されていた視線を声の方に向ける。すると、すでにクマは他のガキを追いかけていた。
「早く早く!」
二手に分かれて、逃れたガキが叫ぶ。追われているガキが懐から何かを取り出す。
あれは……防犯ブザー?
ヒモを引っ張ると、大きい音が鳴って爆発した。
やっぱり……アレが原因なんだ。手榴弾みたい。ガキに爆弾を持たせるだなんて物騒極まりないな。ガキ死んでんじゃねーか。道連れにも出来てないし。
四人居たガキは半減した。そしてクマはダメージを受けているけど健在だ。まだピンピンしてる。
とりあえず、残ったガキが自爆する前にクマの首を斬り落とす。話を聞くにもゆっくり出来る環境じゃないと安心して話が出来ないだろう。
身を寄せ合ってガタガタしている二人の前に出る。
「怪我はねーか……ってオイッ!?」
二人の手には防犯ブザーが握られていた。止める前にピンッと引っ張られ、二つの爆発が起きた。目の前にいた私は当然のように爆発に巻き込まれて吹き飛ばされた。
「……っはぁー、クソガキが。ちったぁ人の話聞けや」
ため息を吐き、しゃがんで頭を掻き毟る。これだからガキは嫌いなんだ。勝手に行動して、勝手に騒動を起こして、勝手に後戻り出来ないところまで行く。善し悪しを分かっていないから、先に聞いた事を善とする。
本人に悪気がないからなお悪質だ。まあ、悪いと分かってても子供だから許されると高を括ってる事が多いけど。狡賢いマセガキが。
今のは多分、小鬼族と呼ばれる鬼族だろう。六つに分かれる鬼族の中で二つが小鬼族らしい。えーっと、なんだっけ名前。名前……忘れた。ナニカとナニカだ。まあ名前なんてどうでもいいんだ。
一番謎なのは顔だ。なんだかおって。ふざけてるのか?
クマの着ぐるみの変質者にも、包丁を振り回してる事にも驚きはあった。でもそれらは全部かおに持ってかれた。
顔面に『かお』と書かれた紙が貼ってあった。かお……確かにかおだけどさ。なんだよかおって。ふざけてるよね。
種族毎にそれぞれ特徴があって、外見で判別出来るらしい。私はオーク種で、筋骨たくましいがっしりした体格だ。骨ないけど。シズクちゃんはノーフォと同じノロイスト種でとにかく白い。後は忘れた。
はぁー……全っ然覚えてねーや。分からない事だらけでイライラしてきた。やっぱり情報源欲しいわ。ノーフォ戻ってきてくれないかな。
…………………………あぁ、ほんとに説明して欲しい。
「アハハハッ!」
ガキの楽しそうな笑い声が聞こえる。今度はちゃんと楽しそうだよ。てかハイになってない?
なんだあれ……なんだあれ!?
デカいバッタに乗ったガキ。腕が四本あって、身長を超えるぐらい大きなハサミを持っている。着ぐるみを追いかけて、ハサミでちょんぎって何かを回収している。
「えぇー……」
なんか……なんか、スゴイね。とにかく色々スゴイわ。それしか言えない。
あっ、目が合った。
「うわぁーーっ、オーク種だぁ!?!?」
う、うるさっ……。そんな叫ばなくても。両手をあげて仰け反ってるけど大袈裟な反応がすごくウソっぽく見える。
「のーむしゅ」
グルンとシズクちゃんを見る。
えっ……えぇっ!? シズクちゃん、もしかしてノーフォの説明を覚えてるのか!? て、天才か……? いや天才じゃん。
そっか。そうだよね。誰も教えてくれなかったから何も知らないってだけで、頭が悪いのとはわけが違うもんね。私の言葉とか覚えてたから記憶力は良いだろう。
え、じゃあ変な事口走らないようにしないと。言葉遣いも気をつけよう。シズクちゃんの口からクソとかキモいとか聞きたくない。
「ジャジャジャジャーン! デッドボール」
ノーム種が野球ボールを見せびらかすように掲げる。えぇ……? 何やってんだ?
うわっ、こっちに投げてきた。打ち返した方がいいか? あいや、ヒーンだと斬っちゃうか。
剛速球でもなく、少し山なりのキャッチボールぐらいの送球。だから、普通にボールを掴んだ。素手だけど。まあ痛くない……し…………。
は……はぁ!?
何が起きた。何をやった。
どうして私は倒れてるんだ!?
体が動かない。この感覚を、私は知っている。今まで何度も経験してきた。実体験だから確実だ。これは死だ。私が死んだ事を意味している。動けないのは再生までの硬直時間があるから。
だがなぜだ。どうして突然死なんか……いや、ある。一つだけ、可能性がある。
えっ、でもウソだろ?
デッドボールってそういう……?
野球用語のデッドボールじゃなくて、言葉そのままの意味で死球って事?
……なにそれ強過ぎない? 反則じゃん。クソルール過ぎる。
動けるようになって、上体を起こす。
「あービックリした」
「キャアアアアア!?!?」
うるさっ!? え、なにその本気の悲鳴。耳キーンってな……てないけど、うるさ。近所迷惑だぞ考えろ。
「え、なんっ……えぇ? どうして生きてんの!?」
「死なないから☆」
ノーム種の困惑と驚きっぷりに、ピースして笑顔で答える。ドッキリ大成功した気分だ。
「えースッゲェー! ね、ね、どんな攻撃でも死なないの?」
「もちろん」
胸を張って頷く。実際、潰れても溶けても斬っても死ななかったからね。なんなら首着脱出来るし。
ノーム種が目をキラッキラ輝かせる。ふふん。悪い気がしない。敵って感じもしないし、怒る気も失せた。でも注意ぐらいはした方がいいな。急に殺しにかかってきたわけだし。
「じゃあ、じゃあ! ぼくらの領地に来てよ。じーさんが本当に死なないのか、とっても興味があるんだ」
「……うぇ?」
うん? なんか物騒な事言ってない? 聞き間違い? もしかして……結構サイコパス?
「オーダー、フープ! それじゃあ、行っくよー!」
どこからか大きな輪っかを取り出して、自分と私を穴に通した。すると一瞬の浮遊感の後、周りの景色が変わった。
オーク種の観察記録1
小鬼族を助けるような動きを見せた。さらに体内から武器らしき異様な物体を取り出した。気持ち悪かった。




