&56.心機一転
太陽が昇り、窓から陽が差し込む。明るくなったのに気付いたノーフォが外に目を向ける。
「もうこんな時間……」
それとは反対に机に突っ伏す私。
あ、頭が破裂しそう。ムリ。途中から全然話が頭に入ってこなかった。説明してくれたけど、半分も理解出来てないと思う。これだから勉強は嫌いなんだよ。
「二人ともごめんなさい。時間切れになりました」
「どこ、いくの?」
どこって私はここにいるよ。シズクちゃんと一緒にいるよ。
「騙したようになりますが、元から私はこの場にいません。今は体の主導権を借りているに過ぎず、元に戻るだけです。私はあの場所から離れられませんので……」
なんだ私の事じゃないのか。…………んん!?
え、なにっ、ノーフォが居なくなるの!?
頭を起こすとノーフォは玄関を開けていて、今にも立ち去りそうだった。
「ノーフォ!」
「楽しい時間をありがとうございました。失礼します」
「まっ!? ……て」
慌てて立ち上がって後を追う。けれど外に出た時には、もうどこにもノーフォの姿は見当たらなかった。足速過ぎだろ。
あーくそっ、マジか。一緒に居てくれると思ってたのに、そんなに甘くはないか。目的は果たしたって言ってたし、一緒に行動する必要が向こうにはない。
一晩かけて色々教えてくれたけど、正直ちんぷんかんぷんだった。後半はもう都度教えてもらおうと覚えるのを諦めていたほどだ。
離れるなら最初に言ってくれよ。それならもっとちゃんとマジメに聞いてたのに……いやムリだな。結構早い段階でキャパオーバーだったわ。心構えの問題じゃない。
「さめじぃ?」
「うん……うん。大丈夫」
今までノーフォが居なくてもやってこれたんだ。だからいけるよ。問題ない。……じゃないよなぁ。
私とシズクちゃんが居たのはこことはまた違う場所らしい。ノーフォは多分地下じゃないかと言っていた。
地下……地下ねぇ。地面に潜る力を使えば行く事が出来るのか? まあ、行きたいとは思わないけど。
てか、私の予想が大ハズレだった。ゲームの中でもなければ、極悪趣味の主催者もいない。まあ、それは別にどうでもいいんだけど。誰かも知らない架空の人物相手に怒り恨みは続いてないし。
しかし、これからどうしようかな〜。
心機一転、別の世界で第二の人生を謳歌してくださいってのは違うよね。シズクちゃんに外の世界を見せてあげたいって思ってたけど、こういう意味ではなかった。
もっと普通の、日本内でのスケールだから。スケールが大きくっていうか、別次元にいったし。そこまで望んではない。
出来るなら元の世界、日本に戻りたい。家族に会いたいし、シズクちゃんを紹介したい。
「……決めた。シズクちゃん。私は元の世界に、日本に帰りたい。その方法を探すつもりだ」
「かえる?」
「この世界は、誰かのための世界なんだろ? だったら私たちは余所者だ。いつまでも我が物顔で居座っても、お互い良い思いはしない。それなら余所者らしく出て行こうじゃないか」
シズクちゃんも私と同じ日本生まれなんだろう。日本語喋ってるし。聞いても分からなそうだから言明しないけど。宗教って海外のイメージが強いけど、日本でもない話ではないと思う。寺とか神社が多いし。何より同じ人間だしね。
この世界に家族はいない。シズクちゃんがいるけど、シズクちゃんもこの世界の人間ではない。だから、ここに留まる理由がない。
「その時は、私と一緒に居て……一緒に行こう。会わせたい人がいるんだ。私の大切な家族に会って欲しい。シズクちゃんを家族に紹介したい」
「……うんっ! つくもしずくと、さめじぃは、いっしょ!」
よーし! 目標も決まったし、頑張るぞー。オー!
……と、意気込んだはいいものの、実際問題何をすればいいのだろうか。この世界は創られたって言ってたし、神とかがいるのか?
「やいっ、神ー! 居るなら返事しやがれー!」
空に向かって叫ぶ。声がエコーになって聞こえてくる。むーん。反応なし。
いやこれで返事されてもそれはそれでビックリだけどね。
神に会う方法……神社でお参り?
日本じゃないのに神社はあるのか?
あぁでも、神頼みってイマイチ好かないんだよね。
これはもう出てくるしかない状況をつくるしかないか。カチコミ……は居場所を知らないからムリだろ。こっちからはまずムリと考えて、向こうから接触させるには……?
管理している世界で暴れられたら溜まったもんじゃないよな。この世界をぶっ壊す! ……まではいかなくても収拾つかなくなるぐらいに掻き回せばいずれ止めに出てくるだろ。
うん。あんまり気が乗らない。だってこれ壮大な嫌がらせだもん。仮に私が同じ立場でやられたらめちゃくちゃ嫌だもん。なんかもっと、穏便に済ませたいけど……。
「う”う”ぅ”〜……」
頭から湯気でそう。ない知恵を振り絞って考えてるけど良い案が出てこない。手っ取り早く神が現れや万事解決なのに!!
「あたま、いたい?」
「う”ん”。……ああもういいや。なるようになる」
頭使い過ぎて疲れた。だから考えるのは諦めた。
なんとかなるなる、だいじょうぶいぶい。
それより、考えてる今の時間がもったいない。だってまだ三日目だぜ?
帰るにしてもせっかくならこの世界を堪能してからでも遅くはないでしょ。
「さあ、シズクちゃん。デートの続き、しようか」
「でーと?」
「仲良しの二人が一緒に外に出かける事をデートって言うんだ。私とシズクちゃんのようにね」
「でーと……する!」
手を繋いでシズクちゃんと小屋を後にする。とりあえず、このまままっすぐ歩いていこうかな。
* * *
「何やってんだ……アレ?」
誰かの叫び声が聞こえたから、気になって陰から様子を窺っていた。そしたら小屋の前で一人喜劇をしている鬼族がいた。
種族は……オーク種か? オーガ種が化けている可能性もあるけど、それは違う気がする。化けるなら変な行動はしないだろう。
一人で会話して、忙しなく動くおかしなオーク種。
マザーに報告……した方がいいのだろうか。
「よーし! とりあえず世界をぶっ壊そーぅ!」
すぐにマザーに報告しよう。
懐から玉を取り出す。
「オーダー」
おかしなオーク種の動向を気にしながらマザーに繋がるのを待つ。ノイズが鮮明になってマザーの顔が映る。
「マザー、不審なオーク種を発見しました」
「オークが……?」
マザーが顔を顰める。そう、よりによってオーク種なのだ。鬼族の中で最も秩序に厳格なオーク種が奇行に走る姿はそれほど想像し難い。何度も目を疑った程だ。
「はい。かの者は『世界を壊す』と叫んでいました」
「……ふむ。引き続きそのオークの監視を続けなさい。何体かデモンを向かわせる。怪しい行動は逐一報告を」
「かしこまりました。マザー」
頭を下げてから鬼力を切る。
少し時間がかかった。さっきの場所を見るともう誰もいなかった。
オーク種を見失った。けどあの様子だ。そう遠くには行ってないはず。進行方向はこっち…………と、居た!
何か言ってる……けど、ここからじゃ聞こえない。というか独り言? 声大きくない?
ノーム種が会話する道具を作ったとか……? それにしては顔の向きが隣を向いている。まるで隣に誰かがいるような……幻覚でも見ているのか?
オーク種は戦闘能力が高い。故に気配に敏感だ。いくら言動がおかしくてもオーク種だ。あまり近付かず、鬼力も極力使わない方がいいだろう。
接触は……怖いから止めておこう。




