&55.世界が変わって
シズクちゃんに知り合いって……居るの?
いやだってあのシズクちゃんだよ!? 失礼だけど仕方ないじゃん。今までの生活が生活だし。そう思ってもムリないよ。
知り合いらしい少女を見る。むーん。白い。シズクちゃんと同じように白いな。あっ、でも少女の目の色は赤だ。
もしかして……同種? 同じ被害者的な関係ですか。言いにくいけど悲劇仲間ですか。
「あ、あの……大丈夫、ですか?」
心配された。どうして……あ。足か。ウワーオ。変な方向に折れ曲がってる。これどうなってんの?
痛覚がないから大丈夫だけど、視覚的にすごく痛々しい。
「驚かせてしまってごめんなさい。その、足が……」
「ああ、これ? ダイジョブダイジョブ。痛くないし、そのうち治るから。それに、謝るなら私の方だ」
安心させるように立ち上がって笑う。うん。足が曲がっててバランスがとりにくい。けどまあ、これぐらいなら問題ないか。
少女はオロオロと不安げに足を見つめる。この酷い見た目で気にするなって方がムリな話だよね。
あ、ちょうど治り始めてきた。歩きづらさがだんだん解消されてくのってちょっと気持ち悪いな。治ってから動けば良かった。今更だけど。
少女の前まで歩いて、頭を下げる。
「急に殴りかかって悪かった。気が立っていた……って言い訳にしかならないか。とにかく、怖い思いをさせてすまない。怪我はしてないか?」
「あ、頭を上げてください。私はこの通りなんともありません。……あなたが無事で良かった」
「ん?」
最後の言葉は小さく、聞き取れなかった。
「いいえ。少しだけ、私に時間をください。お話したい事があります」
「それが私を探していた理由?」
少女はしっかりと目を見据えて、横に首を振った。
違うんかいっ!?
もうすぐ夜になるからと案内されたのは、森を少し入ったところにある小屋だった。町から離れた場所に住んでいるのか、と思ったらどうやら彼女の家ではないらしい。勝手知ったる我が家のように入ってったからてっきり彼女の家だと思うじゃん。
森の各所に避難する家が建てられていると言う。……避難? 野生のクマかイノシシでも出るのか?
「改めまして、あっ……自己紹介がまだでしたね。私はノーフォ。ノロイスト種オリジンノロイストのノーフォです」
ノロ……なんて?
名前はシズクちゃんが言った通り、ノーフォだった。やっぱり知り合いなのか?
ノーフォはシズクちゃんに似ていた。親族と言われても頷ける程だ。大きく異なるのは目の色だけ。
私のシズクちゃんの方が可愛いけど!
「私は……さめじぃと呼んでくれ」
「つくもしずくは、つくもしずくだよ」
私の後に続いてシズクちゃんが名乗る。うん? 知り合いじゃないの? 流れに乗りたかっただけかな?
でもさ、シズクちゃんの姿ってノーフォには見えてないよね。
「よろしくお願いします。さめじぃ、つくもしずく」
え……ええぇぇぇええええ!?!?
驚いて、思わず立ち上がる。
「ちょッ、ちょっと待て! み、見えるのか……? シズクちゃんの姿、見えて……」
「はい。見えてます……よ?」
力なく椅子に座る。
えっ……えぇ? 見えてるってなんで? ドクロに触ってなくても見えるって事? じゃあ、あの町のヤツらもシズクちゃんが見えてたのか? それとも、ノーフォが特別なのか……?
ていうかノーフォの反応、初対面っぽくないか?
シズクちゃんが一方的に知ってるだけ? ……あぁいや、ドクロの……白い少女の知り合いって線もあるのか。
白い少女……みんなだな。ややこしい。ドクロのは少女Aでいいか。
「それでは、話を始めていいですか?」
あっ、そっか。用があるんだっけか。いやないのか。もうなんでもいいや。うん、と力なく頷いて先を促す。
「まず、ここはお二人が元いた世界ではありません」
「……は?」
一言目に爆弾を落とされた。
「**の想いと願いによって創られた夢のような世界、それがここファン・シーでした」
「は……え?」
待て待て待て。話についていけない。処理も出来てないのに次々と爆弾を投げてくるな。
「ですが、ある日を境に世界は変わりました。そして、お二人のような招かれざる魂がやってきました」
「ちょい待て待って。もっと簡単に、分かりやすく言ってくれ」
頭が爆発しそう。全然意味が分からない。
「つまり、別の世界にやってきてしまったという事です」
「どうやって……?」
「そこまでは……分かりません。あちらでの最後を覚えてませんか?」
最後……?
ダメだ。思い出そうとしてもモヤがかかってるみたいで思い出せない。
「……ダメ。シズクちゃんは思い出せる?」
聞いてから失言だったと気付いた。
「あたま、ごん」
慌てて撤回する前にシズクちゃんが返答した。嫌な事思い出してないかな。大丈夫かな。
てかそれよりも――
「ぶつけたの!? 大丈夫……?」
「うん! いたくない」
良かった。いや良くない。ぶつけたってか殴られた? でもあの連中がシズクちゃんに手を出すとは考えられない。もちろんシズクちゃんが自傷するのも考えられない。それにあの部屋でしょ。思い当たる節がないな。
「あー……で? ご丁寧に教えて、いったい何が望みだ?」
こちらの世界の住人じゃない人間をわざわざ探して、何をさせるつもりなのか。事と次第によっては――
「え? ああいえっ、そういうつもりではありません。それに、私の目的はもう果たしました」
「目的ィ?」
「はい。私は突然現れた同種の気配の確認をしに来ただけです。危害を加えるつもりも、何かを要求するつもりもありません。余計なお世話をごめんなさい」
あ、この子……普通に良い子だ。ごめん疑って。
「い、いやっ、助かった。ありがとう。良ければこの世界の事、もっと教えてくれないか?」
貴重な情報源。ノーフォがいればイミフだった事の説明がつくかもしれない。
「はい。ナイフが漂う夜の間、お相手します」
丁寧に頭を下げ:;;;;;..る。良いとこのお嬢様か?
だけどその前に、気になる言葉が出てきた。
「ナイフ?」
「……ちょうど、流れてきました」
窓の外に視線を移したノーフォに誘導されて、視線を向ける。
うぇ!? なにあれ。包丁……?
なんで包丁が空に浮かんでるんだ!?
「ナイフも世界が変わってから現れるようになりました。あれは夜になると空から流れ落ちて、誰彼構わず襲いかかります。家の中に入れば問題ありませんので、夜間の外出は控えてた方が良いです」
「へ、へぇ〜……」
流れ落ちるってそんな隕石みたいな……あれ? じゃあ昨日の、流れ星って思ってたの……全部包丁だったって事?
うわー、ロマンチックな風景が一気に物騒になった。
「何から話しましょうか……。さめじぃ、聞きたい事はありますか?」
聞きたい事って言われても何も知らないから出てこないわ!
「全部」




