&49.惚れ惚れ
なんて事だ……。
最悪な展開が頭の中を過ぎる。
シズクちゃんと瓜二つの少女がいた。燃える。骨になる。ピカッと光ってドクロになった。そしてシズクちゃんが居なくなった。
私の天才的な頭脳が導き出してしまった。この一連の流れ、その結末を。シズクちゃんが、成仏した……!
う、ウソだろー!!??
こんな、こんな事って!?
「イヤだ。イヤだイヤだよ……っ、シズクちゃん!」
ドクロを拾って抱きしめる。
ようやく出会えた可愛い人。ずっと一緒に居ると約束した。幸せにすると誓った。
それなのに!
まだ何もしてあげてない。全然足りない。もっと欲を出して。こんなの……こんなのあんまりだっ。
「シズクちゃんっ……」
「なあに?」
「……………………へ」
顔を上げる。目の前にシズクちゃんの姿がある。きょとんと首を傾げてる。可愛い。
「シズクちゃん」
「うん」
「シズクちゃん」
「えへへ」
「シズクちゃん!」
「さめじぃ」
あぁ、シズクちゃんだ。良かった。まだここに居る。居てくれる。離れてない。居なくなってない。まだ、独りじゃない。
「なみだ。さめじぃ、うれしい?」
目から大量の涙が溢れてる。それを見て、シズクちゃんが笑ってる。可愛い。とても可愛い。
それと、覚えててくれたんだ。それも嬉しい。
「うん。嬉しい!」
涙を拭わずに手を伸ばし、シズクちゃんの頬にそえる。けれど触れた感覚はしなかった。
シズクちゃんが目を閉じて私の手に擦り寄る。そして手を重ねる。触られてる!? ……温かい。体温を感じる。
「ありがとう、シズクちゃん」
目を開けたシズクちゃんと目が合う。記憶の中のシズクちゃんじゃない。空虚な瞳じゃない。目尻を下げて柔らかく笑う。嬉しいって目が物語っている。
ぐぅ……可愛い。もう片方の手で胸を握りしめる。
可愛い可愛い可愛いっ!
胸が痛い。心臓がバクバクなってる。幸せでツライとか矛盾してる。これが嬉しい悲鳴ってやつなのか。
何これ抱きしめていい? いいよね? ダメな理由が見つからない。相思相愛でラブラブだよ。
前のめりになる。微笑むシズクちゃんに胸を押さえていた方の手も伸ばす。
抱きしめる前に、シズクちゃんが消えた。
「フギュッ!?」
バランスを持ち直せなくて顔から突っ込む。痛い。いや痛くない。ケツだけ上げた無様な格好だ。恥ずっ。
上体を起こして辺りを見渡す。いないいないいない。ばあしてシズクちゃん。出てきて。ビックリしちゃった? ごめんね大丈夫だよ。私は何があってもシズクちゃんを傷付けたりしないから。
「……ん?」
ドクロが転がってる。私が動いた時に落ちたのか。
……………………まさか。いやいやいや。イヤイヤイヤ。
………………。
ま、まさか……ね。
そーっと手を伸ばしてドクロに触れる。するとシズクちゃんが現れた。
手を離す。消える。触る。見える。離す。見えない。触る。いる。
う、うぅ…………なんだそれー!?
触ったら見えるようになるってなんだよ。バカなの。バカじゃないか。ふざけんな。
私知ってる。知ってるよ。
付喪神。どんなモノでも真心込めて大事に大切に扱うと心が宿る。大まかに言えば妖怪的なヤツ。
ね、つくもがみ……。皮肉かな。皮肉だよね。はぁーヤダヤダ。私こういうノリが一番嫌い。全然笑えないし、気分悪い。
「さめじぃ?」
そうは言っても、だよね。何がどうしてこうなったかは知らないけど、なってしまったものをとやかく言っても仕方ない。そう、分かっていても……気持ちはすぐには切り替えれない。
「どうやら、私はコレに触れていないとシズクちゃんを見れないみたいなんだ。だから、離れないように持っておくね」
「うん!」
とは言ったものの、どうしようか。ヒーンみたいには、いかないよなぁ。あれも原理分からない。
首につけるにも紐とかがない。かといってずっと手に持っているのも、落とす可能性を考えるとあんまりだ。被る……には大きさが足りない。
…………あっ、いい事思い付いた。
ヒーンを出して頭を斜めに斬る。断面にドクロをくっつける。上手くいくかなー?
頭が再生していく。押し出されないように押さえつける。あっ、なんかいい感じになりそう。
頭が戻って、左右に傾ける。うん。ドクロをめり込ませたけど、特におかしな感じはしない。……違和感がないのも問題だよね。
「オッケーオッケー」
頭は死守だから、これならシズクちゃんと離れる事はないだろう。投げても一緒だし、落とす心配もない。あれ私天才じゃね。いやー我ながら惚れ惚れしちゃう。
「それじゃあシズクちゃん、行こうか」
手を差し出す。さっきの感じから、手は触れるとみた。ようやく手を繋げるんだ。やったね。
私の手を見て、シズクちゃんが嬉しそうに表情を明るくする。重ねるように手を伸ばして、触れる前に止まった。
え、えっ!? なになになんで!? どうしてっ、泣きそうな顔をしてるの。
「つくもしずくは、しらふだった」
う、うん。それは聞いたよ?
シズクちゃんが手を引っ込めて、胸の前で握りしめる。後ちょっとだったのに。とっても残念だけど、一先ずはシズクちゃんだ。切り替えろー私ー。
「ずっとひと、ころしてた」
「それは違う!」
思わず叫んだ。そうか。だから、躊躇いがあるんだ。
違和感があった。ドクロになってから、シズクちゃんは少し変わった気がした。別人になったとかじゃなくて、こう……知識を得たみたいな。赤子から小学生ぐらいに成長した感じ。何も知らないではなくなった。
それは多分ドクロと……じゃなくて、あの少女と合わさったから。少女の記憶や知識が共有されたと考えれば納得がいく。
余計な事をって思うし、説明する手間が省けたとも思う。私自身、どうするか決めかねていた。内容が内容なだけに、慎重になるしかなった。
大事な事だけど、負担にさせたくない。最終的にはって思っているけど、後回しでもいいんじゃないかって考えてる。
これは逃げだ。単純に先延ばしにしてるだけだ。でもこれは、話してはい終わりになるような簡単な問題じゃない。
頭を働かせろ。考えろ。私は天才なんだから、言葉を選べるはずだ。悪い方向にはいかない。大丈夫。
「シズクちゃんは悪くない。悪いのは全部、アイツらだ。……て言っても、心は晴れないよね」
シズクちゃんは被害者だから気に病む必要はない。そうは言っても、きっかけを与えてしまったという事実がある。ホントに不可抗力だけどね。腹立たしい事この上ないな。
「どれだけ言い訳をしたところで過去は変えられない。シズクちゃんがシラフ様だったという過去はなくならない。見たものを、体験した事を、なかった事にはならない。出来ない」
どんなに言葉を重ねても事実を変える事は出来ない。気休めの言葉だけを言って、現実から目を背けさせるのは救いじゃない。
甘い言葉に酔いしれるのもいいだろう。優しい世界に入り浸る方が幸せかもしれない。でもそれは毒だ。一時の感情を優先しても、ふとした時に思い返す。それはツラく苦しくて、また毒に縋る。依存してしまう。
それは果たして、幸せと言えるのか。
「シズクちゃんは可愛い」
「――……ふぇ?」
あぁ、驚いた顔も可愛い。ちょっと頬が赤くなってるのも可愛い。
「白い肌も白い髪も、目も耳も鼻も口も声も、全部全部っ、可愛い。でも、それはシズクちゃんだから。シラフ様だからとか白いからとかじゃない。ツクモシズクという人間だから、私の心は惹かれるんだ。たとえみんなと同じ髪色でも、目でも、性別が違ったとしても、私はシズクちゃんを可愛いと思っただろう。どんな姿でも、シズクちゃんは可愛いよ」
「う、うん?」
よく分かってなくても照れてるのか顔が赤い。ホントに可愛い。
「関係ないよ。シズクちゃんの過去がどうとか、関係ない。私の心は、想いは、そんな簡単に変わったりしない。特別なんだ。特別なんだよ」
記憶を見た時に一番最初に感じたのは悲しい気持ち。でもそれは理不尽な殺人だとか不幸な境遇にとかじゃない。シズクちゃんを見つけてあげれなかった事に対してだ。
「たとえ世間がシズクちゃんを非難しても、私が盾になって守ろう。たとえ世界を敵に回しても、私が剣となって立ち向かおう。たとえシズクちゃん自身が自分を否定しても、私が傍に居て肯定しよう」
過去は受け入れるしかない。それがどんなにツラくて苦しい事でも。もしかしたら過去の責に押しつぶされてしまうかもしれない。いくらもがき苦しんでも、過去という現実はずっと重く巻きついて、やがて身動きが取れなくなるかもしれない。
それなら私も一緒に責を負おう。それならツラさ半減苦しさ半減だ。立ち止まっていい。振り返ってもいい。いつまでだって待つし、必要なら前に進めるように手を引こう。
「だから、どうか私の手を取って欲しい。私とずっと一緒に居て欲しい。私は何があっても、シズクちゃんの味方だと信じて欲しい」
裏切る事はない。嫌いになる事もない。未来が分からなくてもこれだけは断然出来る。
だってシズクちゃんは、私の可愛い人だから。
「うん……っ、うん!」
透明な雫が頬を伝う。グッと堪えるような表情の後に、シズクちゃんはそれはそれはきれいに笑った。
重ねられた手をギュッと握る。その手は少し震えていた。安心させるように強く、でも痛くないように包み込むように。大丈夫だよ、離さないよって、言外に伝える。
うん。良かった。これで一件落着、かな。
でも、どうしよう。手……これ、握手なんだけど。
頭蓋骨とかドクロとか呼び方は色々あるけどさ、骨頭でコットウだって気付いた今日この頃。だからなんだという話でした。




