&44.空虚な白
ち、チューかと思った。
焦った。いや、されたらとても嬉しいけど!
だけど……ほらっ、大事な初チューだし、その……自分からしたいというかなんというか……。
うぅ、心臓がすっごいバクバクしてる。多分今めっちゃ顔真っ赤だよ。シズクちゃんの可愛さと恥ずかしい勘違いが相まって赤くなってる。下心まみれでごめんね。でもおでこコツンも可愛いし嬉しかった。
ハッ、顔を覆ってる場合じゃない。せっかくシズクちゃんがすぐ目の前にいるんだから堪能しないとっ……て、あれ?
「ここは……?」
目の前にシズクちゃんがいなかった。それどころか、楽園でもなかった。
家の中。三畳ぐらいしかない激狭部屋。床も壁も天井も、どこを見ても白、白、白。
家具も装飾も何もない空虚な白い部屋。窓一つ……いや、ドアもない……?
監獄みたいだ。こんな場所にいたら頭がおかしくなりそう……。
「シズクちゃん? どこにいるの!?」
確かにシズクちゃんは目の前にいた。頬に触れて、おでこを合わせた。触った感覚も覚えている。あれは夢でも幻でもない。紛れもない現実。
でも気付いたらシズクちゃんの姿がなくなっていた。ついでに場所も変わってる。
「シズクちゃ……っ」
ノックする音が聞こえた。咄嗟に口を閉じて身構える。音がした方を睨む。
返事もないのに白い壁が開いた。隠し扉? いや、単に扉が壁の模様と同じなだけか。模様っつっても無地だけど。
いや違う。壁と扉の切れ目がなかった。取っ手もなかった。巧妙に隠し、外からしか開かないようにしているのか?
なんのために……て、監禁以外にないか。こんな部屋でそれ以外の用途があれば逆に教えて欲しいぐらいだ。
入ってきた人物は覆面をしていた。上から下まで全身真っ白。肌も髪の毛一本すら見せない徹底ぶり。体型を隠すようにゆったりした服だから、性別も分からない。
何を持っているんだ。四角い……トレイ? 中身を見せないようにか布が被せてある。それらも白色。どこまで白に拘るのか。ここまで来ると滑稽どころか神経を疑うぞ。
部屋の中央まで来ると、床に直置きする。
コイツ、私の姿が見えてないのか?
首を傾げて訝しむと視界の端に何かが通った。視線だけでそっちを見ると、それは人の髪だった。白い髪。
髪伝いに視線を移すと誰かの後頭部が見える。顔……いや体も、長い髪がカーテンのように遮られて見えない。長く伸びた髪は床まで垂れて……いや長すぎないか!?
よくよく見ると床に髪の毛が川みたいに流れている。あえて同色にしてるのか、全然気付かなかった。踏まれたら痛いだろうに。てかこれ全長何センチ?
切ってやれよ。てか、何年伸ばし続けたらこんなになるんだよ。長い髪は洗うの大変よ? カーペットじゃないんだから。
その人がトレイを挟んで覆面の前に座り込むと、覆面は布をどかした。
気になって、トレイの中を覗き込む。トレイには深皿が一つだけ。ご飯か。うわ、あっかっ!?
これは……ビーフシチュー、なのか?
激辛か? 激辛なのか? ビックリするほど赤いけど。ホントに食べ物? 食べれる物?
そこは白じゃないんかーいとツッコミが出そうになった。でも、なんだろう……。私が辛いものが好きってわけじゃないのがあるかもだけど、その料理は全く食欲をそそられない。
覆面が皿とスプーンを持ち、目の前の人に食べさせる。淡々とした動き。美味しいの声も、味を尋ねる声もなく、食器の当たる音と嚥下の音だけが部屋に響く。
一人じゃないのに、それ以上に寂しい食事に見える。しばらくして皿の中は空っぽになった。こんな状況でも完食出来るなんて、イイ子だ。感動した。
食事が終わると用は済んだとばかりに覆面が撤収する。てかアイツ、一言も喋らなかったな。なんでだ。挨拶は大事だぞ。
扉を閉められると、そこは壁になる。やはりそこに扉があるようには見えない。近付いて目を凝らしても、扉の形跡が見当たらない。こんなに見分けがつかないものなのか。すごいな隠し扉。
満足して、振り返る。
「え……」
覆面が出ていってから、その人は動いてない。
今も部屋の中央で座っている。
「え、えっ……」
その光景に目を疑った。何度瞬きしても変わらない。これが現実なのだと突きつける。それでも、頭が受け入れることを拒絶する。
「なん、っ、はぇ……きゃああああ!?!?」
堪らず、目を覆う。勢いがあったけど、痛みとか感じない。それよりなにより、驚きが強い。
なんでなんでなんで!?
なんでどうして待ってェ!?
なにこれなにこれなにこれ。
まっ、とまって、待って。
お、おおおおちっ、おうち、落ち着こっ、ふぇっ。
し、しんこっ、深呼吸。ひっひっひゅーっ。
もう一度……そう、もう一回だ。はー、はー、はぁーーー………………よし。
気合いを入れて、そーっと、指の隙間を開ける。間から覗き込んで……っ。
「なぁあああアアア!?!?」
叫んだ。叫ばずにはいられなかった。耐えられなかった。
こんなっ、これは……あんまりだ。
だって、なんで、ダメだっ。
「し、ししっ、シズク……チャン。そ、そそそ、ソれっ!」
声が震える。上擦る。なんて情けない声だ。そう思うのに、息が荒れるのを抑えられない。上手く呼吸出来ない。頭が真っ白で、何も考えられない。
待って欲しい。ホントに待って欲しい。
それと説明頼む。マジで。早急に。早く。
なんで、なんでシズクちゃん……真っ裸なの!?
は…………破廉恥だー!?!?




