&42.キレーイ
ぐぐーっと体を伸ばす。体が凝ってるわけじゃないけど、癖かな。
「行くかー」
じっと止まってるのは性にあわない。それに、当たり前の事だけど、何もしなければ何も起きない。行動あるのみ!
私の目的はシズクちゃんとここを出る事。外に出て、色んなものを見て知って、共感したい。それから、家族に紹介したいし、一緒に暮らしたい。
ンフフ。一緒に暮らす。甘美な響きだ。
顔が緩む。ハッ、妄想して一人でに笑うってキモいよね。いけないいいけない。
亀の上から飛び降りる。
んでも、これからどうするかはまだ決めてないんだよね。計画性なしの行き当たりばったりだ。
あー、それは最初からだね。うん。何も変わってないわ。
……気を取り直して。
エキストラであるこの亀が動く事はないと考えていいだろう。すると、水中はムリだ。諦めよう。
となると……やっぱり浮島だね。あそこに何かあるとみた。あんなにたくさんあるならその中の一つや二つに何かしらはあるでしょ。ないとおかしい。不親切だ。あ、その一つを探さないといけないのか。あの中から……うぅ、とりあえず登ってから考えよう。
さて、それじゃあ島に登る方法。
イチ、空を飛ぶ。これはムリ。頑張ったけどダメだった。
ニ、道具を使う。飛行機とか……はないよなー。うん。知ってた。
イルカの背に掴まって、てのが一番手っ取り早い方法だけど、難易度がとっても高い。そう何度も運に恵まれる強運の持ち主ではないよ。残念ながらね。
はぁ……詰みか。詰んだかこれ。もう、この亀空飛べんか?
ムリだよな〜。今さっき動く事はないって決めたばっかだし。海はムリでも空はオッケーとかそれこそ意味が分からん。
……いや、待てよ。いけるかも……!
自分で動けないなら、私がムリヤリでも動かしてやればいいのでは……?
そうだ。うん。そうだよ。私って頭良い! 天才のひらめきだ!
天候は晴れ。風なし。視界良好。
乗り物よーし。前方よーし。ジャンプ台よーし。
私、ナギーさん。今から空を飛ぶの。
隣の亀を持ち上げる。おぉ、思ったより軽い。これならホントにいけるかもしれない。期待に胸が弾む。テンション上がってきた。
助走をつけて亀をジャンプ台に向かって投げる。ジャンプ台と言っても別の亀だけど。
投げてすぐに走り出す。水面は走りにくいけど、なんとか追いつける。近付いたら跳んで、水の上を滑る亀の上に乗り込む。振り落とされないように、空気抵抗を減らすために、甲羅にベッタリとしがみつく。
進路オッケー。ズレなし。スピードもいいでしょう。
まっすぐ、ジャンプ台の亀に向かってる。距離がどんどん近付く。
来る。来る。来る……!
「え……」
……え?
ウソでしょ?
思ってたのと違う。
私の期待を返せ。
スーっと前へ滑って遠くなる亀。対して私の亀は動きが止まった。
ちょお待てっ、待てって。ホント待って。マジ待って。ウソウソウソ。
なんでだっ!?
悔しくて、力任せに地面を叩く。そしたら地面がなくなった。水の上に落ちる。
んなっ!?
亀がいない!?
どこだっ……って、そうだ。私が乗ってたの、亀だ。
叩いたのは地面じゃなくて亀の甲羅か。え、でも、じゃあ一発で消えたってのか? 耐久力低過ぎね?
クソぅ、失敗した。何がダメだったんだろう。
横移動する亀に乗って、別の亀の甲羅の斜めをジャンプ台にして空を飛ぶって私の完璧な亀飛行機作戦。
それがカーリングになるとか誰が予想出来た。全くおかしな話だ。計画は台無しだ。どうしてくれるんだ。この……亀っ!
はぁー。振り出しだ。振り出しに戻った。五マスぐらいは進めてたと思うんだけどね。結果ゼロなら意味ないよ。残ったのは疲労感だけってか? 最悪じゃん。
やっぱり最初から斜めに投げた方が良かったか?
でもそれだと跳び乗れるかが心配だ。亀だけが島に行っても意味ないんだよ。私が…………あ。
「ああーーーーーーっ!?!?」
しまったーっ!
「わっ!?」
あぁ、驚かせちゃった? ごめんねシズクちゃん。驚かせるつもりはなかったの。本当だよ信じて欲しい。
「突然、大きな声を出してごめんね」
でも思わず大声が出た。それだけ衝撃的だった。
だって、だって……っ、わざわざこんな面倒な方法をしなくても良かったんだから!
私には超スマートで超便利ーな移動手段があるんだから!
肩を落として頭を押さえる。
なんですぐに思い付かなかったんだろう。何度もやってた事なのに。
首を外して肩を回す。
あっ、これ目が回るわ。視界ぐるぐるして気持ち悪い。止めよう。
胸の前で頭を持つ。片手で鷲掴んで遠くを見る。
「シズクちゃん。私についてきて」
片足と一緒に頭を上げる。前に踏み出すと同時に肩を回す。狙いを定めて……ピッチャーサメジマ、投げたぁーっ!
「ふうぇーーーーい!!」
快適な空の旅へようこそ。こちら浮島への片道切符になっております。ご利用の際は安全にご注意して、お楽しみください。
……なお、ご利用中の負傷等の責任、苦情は一切引き受けませんのでご了承ください。
「ぐぅ……」
着陸失敗。ていうかこっちの心配を忘れてた。思いっきりぶつかったけど鼻取れてない? 大丈夫? ちゃんとくっついてる?
痛みを感じないのが唯一の救いだ。てかそうじゃなかったらこんな手段は取らない。……取らない。うん。
飛んでる途中で体が生えたのは良い。浮島の地面を超えたのも良い。問題はその後だ。浮島に生えていた木に正面衝突した。真正面から思いっきりだ。顔がへこんだもん。避けるとか庇うとかの行動を取る暇もなかった。気付いた時にはドーン。
「イテテ……」
鼻を押さえて立ち上がる。まあ、言うて痛くないけど。つい痛いって言っちゃう。
「――……っ、わぁ……!」
浮島の上、そこは美しい花園だった。
立派な木に色とりどりの花。隅々まで繊細に手入れされたように整っている。
緑だ。緑がいっぱい。キレーイ。
「わぁーっ!」
シズクちゃんがはしゃいでいる。可愛い。そういえば、ここに来た初めもはしゃいでたな。とっても可愛い。
水上と地上とじゃ、景色が全然違う。
水上は水平線の境目も分からなくなりそうなほどの青のグラデーション。
地上は雲一つない晴天の下で美しい花々が咲き乱れてる。
比較なんて出来ない。どっちも素晴らしい景色。あえて言うなら、地上の方が現実味がある。
これで太陽があれば、花がキラキラ輝く宝石のように見えただろうな。それは少し残念……いや、外に出れた時の楽しみになるか。
……ん?
辺りを見渡す。……ない。
木の周りを一周する。……ない。
下を向いて体を動かす。やっぱり、ない!?
「影が……ない……?」
サメジマ号生苦便、出発進行ー!




