&38.意思疎通
タイトルが同じだったので変更しました。
「シズクちゃん!」
辺りを見渡す。と言っても暗くて見通し最悪だけど。むーん。シズクちゃんの姿が見えない。
私という光源の範囲外か。もしくは人魂だけど発光してないか。はたまた別の姿になってるか。選択肢多いな。
「シズクちゃん、会えて良かった。離れてごめんね。探してくれて、見つけてくれてありがとう」
ホントは私が見つける側でいたかったけど、このフィールドはダメだ。ムリだ。クリア出来る未来が見えない。お先真っ暗だよ。ホントに。
「いっしょ」
後ろだったー!
当てが外れたぜ。恥っずーい。
変な方向向いて喋ってるって超ダセェやつじゃん。いーやー。
さり気なーく声の方に振り返る。今のはなかった事にしよう。うん。それがいい。
私は最初からこの方向を向いていた。てか、暗いのが悪い。見えないのがいけない。こんなフィールドにした主催者に全ての責任がある。許さんマジ。
それにしても、シズクちゃんは私の姿が見えてるのか?
だとしたら私でも不明なあの状態を……ううん。よそう。好奇心で聞いていい内容じゃない。間違いなく私のメンタルが死ぬ。
全体像が掴めないから予想に過ぎないけど、この迷路は絶対に複雑だ。暗闇でなくても難易度が高いだろう。どうせ。
それなのにシズクちゃんはこんなに早く私を見つけ出してくれた。これはもう運命と言ってもいいだろう。赤い糸で繋がってるんだ。きっと、いや絶対そうだ。
会うべくして出会った二人。例え離れ離れになったとしても、またすぐに一緒になる。赤い糸でガチガチに繋がれた運命の二人。その糸はどんな事があっても切れない。
なんて、ロマンチック。頬を押さえて体をくねる。最高の響きだ。
「さめじぃの、おしえる」
うん? 私の、教える? 何が? 何を?
「001」
首を傾げた瞬間、脳内に直接語りかけるような声が聞こえた。
「誰だっ!?」
瞬時に警戒態勢を取る。腰を落として右手を左腰に。いつでもヒーンは抜ける。
いつからここに居た。気配を全く感じなかった。どこだ、どこから聞こえた?
他のプレイヤーか。だとしたら味方……? いや、そうと決めるには早計だ。
そうだ。この声、さっきも聞いた。パニックになってた時だから一緒に記憶から抜けていた。
人ではない、おかしな声。機械声とでも言うのか? 人間味を感じない抑揚のなさ。声にノイズが混ざって、壊れたオーディオで聞いてるみたいで気味が悪い。
それになんだ、001って。何かの暗号か?
私ムリだぞ、そういうの。全く分からない。
「さっさと出てこい」
姿が見えないんじゃ何も出来ない。敵か味方かの判断も出来ない。……もう敵でいいか。うん。疑わしきは罰しろって言うし。
「さめじぃ」
「シズクちゃんは下がってて。大丈夫。シズクちゃんには手出しさせないから」
「まえに、いる」
…………え?
前に、いる?
瞬きする。居ない。
目を擦る。居ない。
………………どこ?
えっと……これ、ドッキリとかじゃないよね。いやいやいや。シズクちゃんがそんな事する? しないよ。ない。ドッキリって何? から始まるだろうし。
落ち着こう。そうだ深呼吸。スッハッ! ……よし。
シズクちゃんには見えている。けれど私の目には見えない。そしておそらくヤツには私もシズクちゃんも見えている。
つまり、シズクちゃんと同じで、魂だけとか?
なんだそれ。なんだそれっ!?
つまりあれだろ? ヤツにはシズクちゃんの可愛い姿が見えていて、お触りも出来ると。
なんて……なんてズルいんだっ!!
私はまだ見てないのに。体が手に入ってから触ってないのに。
後から来た分際のくせに、私より先を行くなんて、そんな事はあってはならない。順番抜かしはやめて頂こう。出しゃばるな。恥を知れ。
はっ!? ま、まさか……ここまで一緒に来たのか?
そんな、そんな!?
「シズクちゃん大丈夫!? 何もされてない!?」
「……? うん!」
「おいてめぇ私のシズクちゃんに少しでも触れてみろ。ただじゃおかねぇからな。触れた肌全部削ぎ落としてやる」
シズクちゃんを疑ってるわけじゃない。でもとても心配なんだ。人というものを知らないから。いかに愚かで醜く救いようのない存在であるかを理解してないから。善悪も裏表も内外も、壁を作って偽って疑って、それでようやく繋げた糸はとても細く脆い。でも、それでいい。赤の他人なんてそれぐらいがちょうどいい。
仮に、万が一でもヤツが善人で下心が皆無だったとするなら……いや、それでもイヤだ。シズクちゃんに関して万に一つの可能性でもあってはダメ。
私を見限って他の誰かに行くなんて事になれば、私は生きていけない。そうなったら、私はどんな行動に出るか分からない。
シズクちゃんは幸せになるべきだ。そしてそれは私があげたい。私の隣りで、私の力で幸せにしてあげたい。その権利を他の誰かに譲るつもりはない。
強引に迫りたくないし、縛りたくない。でも私も人間だ。自分の気持ちに正直で大切で最優先。自分本位な生き物だ。
ねえ、シズクちゃん。お願いだから、私を捨てないで。約束、守ろう。
「で、誰だお前」
シーンと静まり返る。
うん? なんで黙ってるんだ?
さっさと名乗れバカ。質問には二秒で答えるのが常識だろ。てかそんなに難しい質問でもあるまいし。
沈黙に耐えられなくて、仕方なく口を開いたその時、音が響いた。手を鳴らしたような、爆発したような、オーディオの接続を強引に引き抜いたような、何とも言えない音の重なりが聞こえた。
「0100」
ヤツの声が聞こえた。今度はなんだ!?
その「ゼロ」と「イチ」以外の言葉は喋れないのか!?
会話不能とかダルいぞ。ありえない。シズクちゃんですら意思疎通を図れてるって言うのにお前はなんだ。怠慢か。ここにまともなヤツはいないのか!?
「てめぇ、何をした!?」
何も見えない前を睨みつける。
やっぱり敵か。敵なんだな。敵だと思ったよ恋敵。シズクちゃんは絶対に渡さない。
「ヒー……んッ!?」
ヒーンを出そうとして、横から押された。先手を打たれた!?
だけどおかしい。シズクちゃんが言うに、ヤツは目の前にいる。なのに押されたのは横。わざわざ移動した? 撹乱か?
それに、大きな壁が迫ってるような感覚だ。ヤツは人の形じゃないのか!?
プレイヤーじゃ、ない? でも多分、フィールドの敵ではないと思う。だったらなんだって話だけど!
とりあえず一旦離れ……なっ!?
反対の壁も動いてる!?
まさか、私を挟み潰す気か!?
「しゃらくせぇ!!」
ヒーンを出して壁に向かって叩きつける。
こっちはピラミッド壊してんだ。壁の一つや二つぐらいどーって事ない。
そう、思ってた。慢心か。いやいやいや。ちゃんと前科があるから。ホントに壊したんだって。
「〜〜ッ、カァーッ!?」
ここの壁は硬かった。壊せなかった。
そうだよな。迷路で壁を突き破れたら、迷路の意味がないもんな。うん。そんな設定いらねぇよ。壊れろよ。てかそれこそ、壁が動くのはルール違反じゃねぇのか。
右手に痺れるような感覚がする。
そして……
「やばやばやばやばやばやば」
前と後ろから壁が迫る。このままじゃ、挟まれるっ。
「シズクちゃん!」
叫ぶと同時に横に走る。お願い、ついてきて。私の方に居て。
ああ、敵前逃亡なんて情けない。恥だ。自分から泥を塗る行為だ。
でも、死ぬよかマシだ。体勢を立て直してから、もう一度…………あれ? 私、死なない……?
あっ、と気付く。でももう遅かった。
左右の壁に挟まる。両肩に触れて、慌てて体を横にする。足と背中で壁を押すけど、どんどん狭まっていく。
「くッ……そ」
ゆっくりと挟まれていく。その感覚をムリヤリ味あわせられる。甚振るように、愉しむように、ゆっくりじっくりと。それは屈辱以外の何物でもないだろう。
壁が完全に閉じると、私の意識も遠のいた。




