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&dead.  作者: 猫蓮
43/143

&T6.見てるだけ

 人が集まってる。あそこにヤサン? がいるのかな。


「『タオルフ』!」


 叫ぶ声が聞こえた。続いて風船が割れるような音と悲鳴がいくつも聞こえた。


 人混みの間から中がちょっと見える。

 男の人と女の人。距離をとって、二人を囲うように立っている。


「本当にヤサンだわ」


 驚いたようにスミさんがつぶやく。

 真ん中にいる、どっちかがヤサンって人なんだと思うけど、どっちだろ?


「クソっ! なんで、なんで出来ないんだよっ!?」


 男の人が頭を抱える。あの人がヤサン?


「ネギシ、どういう状況?」


 ワカバさんが近くにいた人に声をかけた。


「ワカバ、スミ。見ての通りよ。私たちを代表してミソラが対応しているけれど、ずっとあの調子。あのヤサン、メッシが魔力を使うとなぜか誤爆するのよ」


 ゴバク……ってなに?

 聞ける状況じゃ……ないよなぁ


「なあ、俺も魔法が使えるんだよなぁ!?」


 泣きそうな、必死な声で男の人が詰め寄る。

 魔法……おれも使ってみたいけど、ムリだって言われた。試しに言ってみたけど、なにも起こらなかった。言われた通りだったけど、ショックだった。


「ええ、魔族だもの。魔力はあるわ」


「じゃあなんでっ! なんでずっと爆発してるんだ!?」


 女の人が目を閉じて首を振る。

 すごい。男の人に責められて怖いはずなのに、すごい冷静だ。できる大人だ。


「分からないわ。そもそも、ヤサンがイスリンに来た事がないもの。魔力の使い方は、私たちカサンとは違う方法かもしれない」


「じゃあその違う方法ってのも教えてくれよ!」


 なんて言うか……自分勝手だ。女の人が困ってるの、気づかないのかな。……気づいてないんだろうな。


「そうだっ、杖! 杖はないのか!? 魔法と言ったら杖だろ!?」


 男の人が女の人の肩を掴む。わわっ、ついに手が出た!

 これ、止めた方がいいよね?

 ていうかなんでみんな見てるだけなの? 女の人が危ないよっ。


「つ、杖? 杖を……どうするの?」


「魔法に杖は常識だろ!?」


 あわわ、大変だ。殴りそうな勢いだ。


「っ、スミさん?!」


 止めに行こうとしたらスミさんに掴まれた。引っ張られて動けない。

 どうしてっ……?


「ダメよタロウ。危ないわ」


 振り向くと、真剣な顔で忠告される。絶対に行かせないって強い気持ちが伝わってくる。


「で、でもっ! あの人の方が」


「確かにヤサンの様子はおかしいわ。けれど同じイト種よ。何も問題ないわ」


 でもっ……じゃあ、ずっと見てるの?

 助けに入らず、困っているのを見て見ぬふりをするの?

 一人に押し付けて遠くで見てるだけって、そんな冷たい人だったの?


「わぁ〜っ、すっごーい!」


 とつぜん、後ろから明るい声が聞こえてきた。今の状況に似合わない楽しそうな声。

 それで思わず、声の方に振り向いた。


 白い女の人と仮面をつけてる人。フワフワ浮いて、町をキョロキョロ珍しそうに見てる。さっきの声もあの女の人っぽい。

 一緒にいる仮面の人は顔が見えない。仮面を斜めにつけて、浴衣姿で夏祭りって感じだ。ドクロの仮面って初めてみたけど、カッコイイ。どこで売ってるのかな?


 でも、なんか違う。あの二人、魔族じゃない?

 魔族ともう一つの。なんだっけ……忘れたけど、そっちの人?


「あれなに?」


 女の人がこっちを指さす。もしかしたら、あの人たちなら止めてくれるかも。お願い、こっち来て。


「人だかりだね。危ないから近付いたらダメだよ」


 そう言って離れていく。仮面の人はこっちを見てない。見ないで避けた。どうしてっ!?


 なんで、みんな……冷たい。こんなの、おかしいよ。思いやりも助け合いもなにもない。


「『マエルヂャド・ラエッパ』」


 透き通るような声が聞こえて、また前を向く。

 女の人の頭上に杖が浮かんでいる。ゆっくりと下がって、両手の上に乗る。


「杖を出しました。どうぞ」


 差し出された杖を男の人が奪うように掴み取った。笑顔がだんだん、強ばっていく。


「――……っ、なんだよコレ!」


 怒ったように叫び、受け取った杖を地面に叩きつけた。跳ねた杖がおれの前で止まる。それを拾いあげようとして、出来なかった。


「?」


 目に見えて、目の前にあるのに、触れない。手がすり抜ける。


「馬鹿にしてるのか!? 俺が言った杖はこんなんじゃない。あるだろザ・ファンタジーの杖が。なんでジジィが使う杖なんだよ!?」


 女の人が出した杖は、お年寄りの人が歩くときに使うつく方の杖だった。ゲームにあるような魔法の杖には見えなかった。


「クソっ! みんなして俺の事バカにしやがって。絶対に魔法を使えるようになってやる」


 イライラした様子で言い捨てて、この場から逃げるように去っていく。暴力に出る人じゃなくて良かった。

 ホッと息をつくと、「あっ」って声が出た。


「ま、待って!」


 男の人の後を追いかけて声をかける。

 後ろでザワつく声が聞こえる。その中にスミさんがおれを呼ぶ声が聞こえた。でも振り返らない。心の中でごめんなさいする。


 この人は、多分おれと同じだと思う。ゲームの世界に入っちゃった人。

 だから知らないのかもしれない。魔力を使うと消えちゃうってこと。


「魔力っ、使っちゃダメ。使ったら」


「チッ、ガキが」


 掴もうとした手を払われる。全然、聞いてくれない。とっても大事なことなのに。


 魔法が使えるなら使いたい。その気持ちはすごく分かる。おれも使えたならバンバン使ってただろうし。

 でも、ダメなんだ。使い続けたらいつか消える。それは一瞬で、あっという間で、ビックリするぐらい簡単に。なにも残らないで全部消えた。


 練習しないで。これ以上魔力を使わないで。怖い人だけど、だからって消えていい理由にはならない。

 お願い。おれの話を聞いて。少しだけでいいから、聞いて。


 男の人は足を止めない。前にいる人が避けて、道ができる。それを当たり前のように進んで行く。

 誰も止めない。声をかけない。


 どうしよう。追いかけた方がいいよね?

 何回も言えば、気になってくれるはず。


「勇者」


 追いかけようと、一歩踏み出した。そのとき、声をかけられた。


 勇者……。

 おれ、タロウって名前があるのに。


 肩を落として振り返る。女の人……名前なんだっけ? えっと、水色髪の女の人が杖を拾っておれを見る。


 そういえば、なんでおれ、あの杖拾えなかったんだろう。

 あっ、スミさんが女の人の後ろに。お、怒ってる……?


「本当に居たのね。この杖は魔力で生み出したものよ。だから魔力を持たない勇者は触れない」


 身構えるとていねいに説明してくれた。な、なんだ、ビックリした。てっきり怒られるのかと思った。この人、さっきも大変な役やって、意外に優しい人?


「引き続きヤサンの対応は私がします。スミ、勇者を任せるわ」


 集まったみんなに目配せしながら言う。それから、後ろを振り向いてスミさんに。


 頷いたスミさんがおれを見る。うっ……止められたのに近づいたから、罪悪感が。

 顔が見れなくて、視線を逸らす。


 あっ、もう解散してる。なにも言わないでバラバラに離れてく。

 ずっとフシギに思ってたけど、集まってたわりに話し声は聞こえなかった。普通はザワザワするはずなんだけど、本当に見てるだけ。だから、二人の話し声がよく聞こえたけど。


「『ツサル』」


 女の人が杖に向かってつぶやく。それから男の人が行った方向に歩いて行く。


「タロウ」


 女の人の背中を見てると名前を呼ばれる。スミさんの声に肩がビクってなった。お、怒られる。


「…………っ」


 怖くてゆっくーり振り返る。あ、あれ? 怒ってない……?

 スミさんの顔を見て、怒ってる様子はなくて安心する。ホッと息を吐きかけて、固まる。

 違う。あの顔、心配してる顔だ。


「ごめんなさい」


 すぐに頭を下げてごめんなさいする。

 怒られるよりツライ。まだ怒られてた方が良かったかも。


 ため息が聞こえて、目をギュッとつぶる


「顔を上げてください」


 言われた通りに顔を上げてスミさんを見る。スミさんは眉を下げて苦笑いしてる。


「ヤサンでも同じイト種には手を出さないわ。でも、勇者相手では分からない」


「うん……」


「タロウに何事もなくて良かったわ。さあ、もうすぐ夜になるわ。外にいるとナイフが襲ってきて危険よ。今日は休んで、また明日考えましょう」


「うん」


 もうこれ以上、迷惑かけないようにしよう。おれも自分勝手だ。反省して、スミさんの後ろについて歩く。


 ……うん?

 ちょっと待って。スミさんさっきなんて言った?

 ナイフが、襲う……?

 ナイフって、なんか……刃物、だよね……?


 刃物を持った人が襲ってくるってこと?

 え、なにそれ怖っ。






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