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&dead.  作者: 猫蓮
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&36.心が折れて

『ナギは何がしたい?』


 セミの声が鳴り止まない暑い夏の日だった。

 縁側に座ってアイスを食べようと口を開けたタイミングで声をかけられた。


 何そのタイミング。気持ち悪っ。見計らったとしたら最悪だぞ。陰湿な嫌がらせだからな。


『…………』


 構わず一口目を齧る。シャリシャリ冷たくて美味しい。はぁ〜、生き返るー。二口三口と食べ進める。


『――……聞いてるのか!?』


『うるさい。なに、突然』


 堪らず上げた声に被せるように吐き捨てる。空耳にしようとしたのに。

 最後の一口を飲み込むと風鈴の心地良い音が鳴った。聞こえるようにデカイため息をつく。


『暑さで頭がおかしくなった? ただでさえ頭が悪いのにこれ以上頭がおかしくなったら救いようがないよ。やめな? 今すぐその熱した頭を冷ますといい。引き締まって少しはマシになるかもよ』


 食べ終わったアイスの棒を突きつけて残念な頭を心配する。


『人を指すな、行儀悪い。頭の出来も余計なお世話だ。お前も大して変わらんだろ』


『おい待て同じにするな。私は頭良いぞ。なんせ天才だからな』


 聞き捨てならん! あぁ不愉快だ。


『頭が良いヤツは自分で頭良いとか天才とか言わねぇよ』


 返ってきた言葉にムッとする。

 じゃあなんて言うんだよ。頭良くないって謙遜したらそのまま受け取るくせに。


『それと、話を逸らすな』


 急にマジメな顔で見つめてくる。

 いやいやいや。あんな漠然とした質問されても困る。何が聞きたいの? せめてもう少し具体的に言え。


『何がしたいってこの後の事? 暑いから水遊び』


『遊びの話じゃなくて! 将来の夢とかなりたい職業とかそっちだよ』


 私がワザとすっとぼけたみたいな返ししてくるな。それなら最初からそう言えよ。分かるか。

 もうダメだ。コイツの頭は修復不可能だ。悪くなる一方だ。ご愁傷さま。


『おい。何か変な事考えてないか?』


 睨まれる。いや怖くないから。それに変な事じゃなくて事実だから。バーカアーホマヌケー。


『べっつにーぃ』


 それにしても、将来の夢……ねぇ。特にコレっていうのはない。そもそも、あってもなれるわけないし。考えるだけムダでしょ。


 でも、それじゃあダメなんだろ。誤魔化すなって言うだろうし、真剣に考えろって解放してくれないんだ。

 はあー、変なところでクソマジメなんだから。似合わないっつーのにさ。


『将来の夢はない。なりたい職業もない』


『ナギ』


 咎めるように名前を呼ぶ。うるさいな。分かってるよ。人の話は最後まで聞け。


『ただ。ただ……今のままがいい。ずっと、この日々が続けばそれでいい』


 そっぽを向いて答える。顔を見て言うのはやだ。恥ずかしい。


『…………』


 何も言い返してこない。静かになって、セミと風鈴の音しか聞こえない。

 なんだよ静かになって。何か言えよ。正直に話してやったんだからさ。


『ナギ、お前……』


 見えてないからどんな顔してるかは分からない。でも、声でなんとなく分かる。

 何を期待してたのかは知らないけど、そんな反応をするなら最初から聞かなきゃいいのに。


『はいはい。どうせ私には欲がありませんよーだ』


 分かりやすくシラを切る。暗い話は嫌いだ。楽しくないし、誰も得しない。

 縁側から飛び降りて背伸びする。うあー、日向だとやっぱあっちーな。


『あっ、じゃあ追加で。私も好きな人と添い遂げたい。ねえねえ、私の相手はどんな人だと思う? やっぱり、とっても可愛い人だと思うんだよね!』


 仕方ないから話題を変えてあげる。私の優しさに感謝するといい。


『あんたらは全員、可愛い人だろ。ったく、ちったぁ自分の将来の事を考えろよ』


 なんだよ。将来将来って。そんなに未来の事が大事なのか。私は今を生きているんだから、今を楽しんで何が悪い。


 だって、今のうちにいっぱい遊んでおかないと、いつか居なくなっちゃうんだから。

 ずっと変わらない。現状維持が一番難しい事を知ってるんだから。



 * * *


「ん……んぅ〜」


 夢を見てた気がする。でもなんの夢だっけ?

 あー、全然思い出せない。変な気持ち悪さだけが残ってる。寝起き最悪。

 マグマの熱さで頭がおかしくなっちゃったのかな。ヤダー。最悪ー。


 シズクちゃんの可愛いを浴びてリフレッシュしよう。うん。それがいい。


「シズクちゃん、おはよ……う?」


 目を開けると何も見えなかった。あれ? 私、目を開けてるよね?


 目を擦る。うん。感覚はちゃんとある。

 目を開ける。やっぱり何も見えない。

 これはもしかして、真っ暗?


 え、何それダッル。視界奪うとか一番ダルいわー。ありえんわー。一番大事な感覚だよ?

 だから封じたのか。うわ陰湿ー。性格悪ー。


 ……て、それよりも!


「シズクちゃーん!」


 うあー、もしかしてはぐれた!?

 クソぅ、なんだよ最低な。私とシズクちゃんを引き離すとか極悪じゃん。


 別のフィールドに居ますとかないよな。そこは信じて良いよな。違ったらぶん殴るぞ主催者。


 あーもうっ、暗闇で探し回るとか効率悪いじゃん。いやシズクちゃんに会いたいから探すけど。意地でも見つけるけど。

 幸い、シズクちゃんは人魂で、姿が見えるから探しやすい……あ。


 違うわ。違うかも。え、どっちだろ。

 シズクちゃんが力を得て成長しているのか、フィールドのエキストラと似た姿にされているのか。


 一つ目の荒野は透明だった。エキストラはゾンビだけど、ミイラもいる可能性だってある。ピラミッドがあったし。

 二つ目の地獄は人魂だった。ここはエキストラと同じだけど、色が違った。後お触りオーケーか。

 どっちも魂だけってのは変わらない。うん。判断材料が少ない。


 だからここのエキストラはっていうより、まずどんなフィールドかを知りたい。だって真っ暗なんだもん。これじゃあなんにも見えない。


 せめて懐中電灯でもあればいいのに。はぁー。とりあえず歩いてみるか。暗いのはここだけだったってパターンもありえるし、早くシズクちゃんと合流したい。


 しっかし、ホントに何も見えな……え?

 何かにぶつかった。なにこれ、壁?

 ウソだろ。歩いてまだ数歩目だよ。そんなことある?


 まあ、いい。それならそれで壁伝いに歩いていけばいいだけだ。

 右手で壁に触れながら歩いて……あん? また壁だ。


 なんか嫌な予感がするのは私だけだろうか。いや、うん。ここには私しか居ないんだからそれは当然なんだけど。


 右手は壁に触れたまま、左手を前に突き出して軽く走る。壁に突き当たると方向を変える。それを何回か繰り返す。


 嫌な予感が確信に変わる。


「ウソだろ……。暗闇迷路とか、最悪だ……」


 頭を抱えてしゃがみこむ。終わった。ムリだ。最悪だ。なんだこのステージ。性格悪過ぎだろ。考えたやつ出てこい。ぶん殴ってやるから。


 これあれだろ。フィールドの広さは今までと同じって考えていいだろ。んで迷路って入り組んでるだろ。


 ……え?

 これで敵を倒せと?


 いやいやいや。イヤイヤイヤ。ムリだってキツイって。難易度ベリーベリーハードだよ。デンジャラス過ぎるって。鬼畜じゃん。


 あ、最初からだわ。そうでした。

 今更だねクソッタレ。全然嬉しくないよ。

 ホントにどういう神経してるの?


 思いやりって言葉知ってる?

 会話してくれる知り合いは存在してる?

 自分の名前ちゃんと言える?


 もうさ、天才だよ。人の心を抉る天才。こんなに的確な事ってなかなかないよ。スゴいね。正真正銘の悪人だ。

 もちろん褒めてない。貶してる。これ悪口だから。


 もうダメ。一気に精神ダメージを負った。やる気削がれた。頑張れない。シズクちゃんも居ないし。

 はぁ、シズクちゃんが足りない。少しの間でも耐えられない。暗さがより一層孤独を突きつける。


 寂しい、な……。

 フゥッと息を吐こうとした時、ぶるりと体が震える。寒くはないのに、鳥肌が立った。得体の知れない恐怖が身を竦める。


「シズクちゃーん! 聞こえたら返事をしてー!」


 その恐怖を振り払うように声を上げる。張り上げた声は暗闇に吸い込まれるように消えていく。狭いはずなのに反響しない。私の声が聞こえない。


 シズクちゃんは心の拠り所だ。会えてホントに良かった。出来ればもっと、普通のところで会いたかったけど。

 彼女が居るから頑張れる。一人だったらとっくに終わっていただろう。心が折れて、諦めていただろう。


 誇張でも大袈裟でもなく、心の底からそう思う。今の私がいるのは他でもないシズクちゃんのおかげだ。戦力外だとか、何も出来ないだとか、そんなのは関係ない。それ以上に、精神面で、大きな救いになってる。


「シズクちゃん! シズクちゃんっ!」


 叫びながら走る。なりふりなんて構ってられない。危険があるかもなんて知るもんか。そんなの、シズクちゃんが居ない事に比べたら塵みたいに小さい事だ。


 怖い。怖い。怖いっ。

 体の震えが止まらない。恐怖が、胸が苦しい。

 孤独を、寂しさを自覚してから、怖くて怖くて苦しい。


 独りが嫌なのは私の方だ。嫌で、怖くて、だから約束した。シズクちゃんを、何も知らないのをいい事に私に縛り付けた。最低だ。


「シズクちゃ……っ!?」


 柔らかい何かを踏んで転んだ。足が変な方向に曲がった気がする。マヌケってバカにして笑えるぐらい、盛大に転んだ。

 無様だ。情けない。ホントに……。


 ごめん、シズクちゃん。ごめんなさい。こんな私で、ごめんなさい。弱くてズルくて臆病で。でも、離してあげれない。

 可愛い人。シズクちゃんが運命の人なの。離したくない。離れたくない。


 他に何もいらない。シズクちゃんが居てくれればそれでいい。それだけで十分なんだ。

 どんな地獄だろうと構わない。辛く、苦しくても耐えてみせるから。いっぱい、頑張るから。


 だから、私からシズクちゃんだけは取らないで。


「ごめん、シズクちゃん。たすけて……」






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