&29.まるで普通の水
今回の敵は鳥だった。空を飛ぶ鳥。
対する私は空を飛べない飛び道具も何もない。頼みの武器も投げれなかった。
完全に対抗手段がなしの状態だ。今のままだと詰んでいる状況だ。
そこで私はヒーンの次なる武器を探している。もちろんシズクちゃんの体も探してるよ。優先順位はシズクちゃんの方が高いよ。それは当然だよね。
んで、歩いていたわけだけど。
「これ、チャンス?」
空を見上げて小さく呟く。視線の先には滑空している鳥の姿が見える。
降りているところを狙って襲えば今のままでも勝機はある。羽さえなければ鳥は飛べない。飛べない鳥はただの肉だ。脅威じゃない。
身を屈めて静かに近付く。鳥は視力がいいらしいけど、あの鳥はどうなんだろう?
というか、上空からじゃ丸見えだろう。浴衣も紺色だから赤と黒の中じゃ目立つし。
でも今の感じ、まだ私には気付いてなさそう?
モグラの時もそうだったけど、完全に敵対しないと認識すらされないとか……?
ありがたいけどそれはそれでムカつくな。
「シズクちゃん……ごめんだけど少しの間だけ私の後ろに居てて欲しい。お願い」
移動しながら小声でお願いする。
「……うん」
少し間を置いて寂しそうな返事が返ってきた。
わーん、ごめんねー!
私もホントはいつまでも好きにさせてあげたいのが山々なんだけど、ちょっと集中出来ないというか、意識が逸れるというか、見つかりそうで気が気じゃないんだ。
私の周りをぐるぐる回るシズクちゃんが可愛い。白い炎がとてもキレイで楽しそうにしているのが伝わってくる。んだけど……集中出来ないっ。
一定間隔で視界を横切るシズクちゃん(人魂)に眼と意識が向く。不可抗力だ。だってシズクちゃんが可愛いんだもん。
見えるようになった弊害か。嬉しい悲鳴だ。
お願いするのも心苦しい気持ちでいっぱいだ。苦渋の決断だった。行動を制限させるつもりはないんだ。それだけはどうか分かって欲しい。
ただ、私は一つの事にしか集中出来ないから。鳥とシズクちゃんの両方を気にする高等技術は持ち合わせてないんだ。すぐにシズクちゃんの方に意識がいってしまう。
ごめんねシズクちゃん。
すぐに鳥をぶっ飛ばしくるからほんのちょっとだけ待っててね。
シズクちゃんへの溢れる想いを抑えて閉じ込めて、頭を振って鳥に集中する。
薄々感じてはいたけど、やっぱり鳥も結構デカイ。バカみたいに広いフィールドとアホみたいに敵がデカイのはそうと決まってるのか?
もしかしたら羽根すら私よりデカイのかもしれない。鳥にしては足が太くしっかりしてるし、それにクチバシが長くて鋭い。なんて鳥だ?
カラスでもハトでもないし、スズメも違うでしょ?
クチバシが長い鳥って何がいるんだ?
「ッ!?」
鳥が急下降してマグマに突っ込む。
気でも狂ったのか!?
焼き鳥になるぞ!?
私の予想とは裏腹に鳥はマグマに着水して、そのまま水面を泳いでいる。
まるで普通の水だと言わんばかりにマグマの中を悠々と泳ぐ。
なんだ、それ……。
なんだよそれ!?
マグマ平気な鳥とかズルだろ卑怯だろ!?
え?! 空を飛べて、マグマも泳げて?
何ならダメなんだよ。ふざけてんのか。
空を飛べないマグマに溶ける足場が必須の私が圧倒的不利じゃないか。上空じゃダメだし、降りてきてもマグマの上じゃ同じく届かない。
打つ手なしってか!?
せめて、もっと足場があれば……。
足場……?
そういえば、なんであの時私はマグマに落ちなかったんだ?
確かに地面はなかった。倒れる時に、見間違いでも焦りでもなく確かになかった。
なのに倒れた時は胸の高さまで地面があった。だからマグマに落ちずに手がついたわけだけど。
新しく伸びたような、不自然な地面だった。
もしかして、シズクちゃんの姿が見えるようになったのと同じように、私にも新しい力が目覚めたりしてるのか?
それが足場を作れる力なら、まさに理想的だ。
それならここから鳥のところまで道を伸ばして……
「うえっ!?」
思わず声が出た。
だって、鳥がマグマの中に顔を突っ込んだ。羽を少し広げて、首から上が全部マグマに埋まってる。
なんだそれ。何やってんの?
てか首伸びなかった? どうなってんの?
鳥の奇行に引いていると、鳥がマグマから顔を出した。
伸びた長い首に、タプタプに膨らんだクチバ……シ?
「ペリカンだぁーっ!」
知ってるー!
ってめっちゃでっかい声出しちゃったよ。恥っずー。
「ぺい……かんだ?」
シズクちゃんにも聞かれちゃったー。恥ずかしい。
むーん。私あんまり詳しくないんだよね。鳥としか言えない。
「あの鳥の品種? 種類? がペリカンって名前なの。クチバシってあの鋭い部分の下が膨らんでるでしょ? あそこに赤子を入れて運んでくるんだよ」
まさか火に強いとは思わなかったけどね。いやそれは魔改造されてるからか?
「あかご……?」
「ああ、赤ちゃんの事だよ。男と女が……」
と、いけないいけない。これは教育に悪いね。
えーっと、なんて言えば。ペリカンが運ぶのと、もう一個あったような……なんだっけ?
「ペリカンがキャベツを育てると赤ちゃんになるんだ。それを結婚した二人の元に届けてくれるんだ」
あのペリカンだったら百人はゆうに入りそうなデカさだけど。
「けっこん?」
「大好きな人といつまでも一緒に居ようって誓う事だよ。とても幸せな事なんだ」
ゆくゆくはシズクちゃんとラブラブ結婚生活を送りたいな。プロポーズは海がキレイな砂浜? それとも夜景がいいかな。うん。どっちも捨て難い。
「つくもしずくと、さめじぃに、あかごとどく?」
へ?
シズクちゃんと私の赤子?
それはもう、シズクちゃんの次に愛しいんだろうな……って、待て待て待て。
急に話がっ、どうした!?
もしかしてシズクちゃん、私との子供が欲しいの?
そんな、情熱的で熱烈な誘い方……!
いやいやいや。違うでしょ。落ち着け私。
そんな肉欲的な意味があるわけないじゃないか。純真無垢なシズクちゃんだぞ。
うう、私の心が汚れてるから変な妄想しちゃったよ。顔が赤い……気がする。
それにしても、どうして突然そんな話になったんだ?
どんな曲解と飛躍の仕方をすれば私とシズクちゃんに赤子なんて……あ。
私、言った。誓った。
ずっと一緒にいるって約束した。
覚えててくれたんだ……!
てか、それを結婚に結びつけるなんて、なんて……可愛いんだ!
心の汚れが浄化される。いやしさの欠片もないよ。シズクちゃんの純白さに黒い部分が晴れる。
シズクちゃんは天使かな。天使なのかな。
いや天使はダメだ。神に取られる。
シズクちゃんは私の運命の人。私の可愛い人。
「ん? …………あ」
ペリカンが動いたと思ったら羽ばたく。空に戻っていく。
しまった。完全に意識が逸れてた。なんならペリカンの事忘れてた。
どうせ敵対されてないと思いっきり走って追いかける。大声出した時もこっち向かなかったからね。
クソッ、道が……なくなった。
途切れた道に立ち止まる。その先に道は続いてない。完全な行き止まりとなっていた。
せめてヒーンを投げれれば……いや、足場がないからダメか。
「チックショー!」
絶好の機会だったってのに何も出来なかった。この体たらくめ。何をしてたんだ私はっ。
……シズクちゃんとお喋りだよ。最優先事項だよ。
はぁー。やっぱり飛び道具を探そう。後、足場の出し方も確証が欲しい。
最後にペリカンの姿を目に焼き付けてから振り返って来た道を戻る。
……んん!?
振り返ってもう一度ペリカンを見る。
見間違いじゃなかった。
ペリカンのクチバシから赤い線が伸びてるのが見える。それは水鉄砲のようにキレイな放物線を描いていた。
ではあの赤い水は何か。さっき飲んでたこのマグマ以外にない。
「…………雨はお前かぁーー!!!」
水やりじゃないんだよ!
育ててたのはキャベツじゃなくて溶岩でしたとかいらないから!
うわっ、こっちに飛んできたっ!
……って方向転換したのかチクショウ!
「覚えてろよ〜!!」
マグマの雨から逃れるべく全速力で走った。




