&28.飛び道具
突然目の前に何かが落ちた。
一瞬の事で何かは見えず、けどそれはもう少しで私の頭の上に落ちるところだった。
驚いて足が止まる。
目の前には黒煙が上がり、足の前部分が削られた感覚がする。バランスを崩して前のめりになって、何かが落ちた場所を目にする。
「うわ……えぇー??」
なにこれ。……は?
なにこれ!?
マグマ?!?!
足の先にはマグマがあった。
なんで?
さっきまでは何もなかったのに。ちゃんと地面があったのに。大きな水溜まりのようなマグマがある。落ちてきたのってマグマ?
いやいやいや。そんなまさか。もう疲れてしまったか私。探索を始めてまだそんなに時間は経ってない気がするぞ。
「あめ!」
雨? 飴?
どっちにも取れる絶妙なイントネーションだった。そのシズクちゃんの声に顔を上げた。
「え……うえぇ!?!?」
雨が降ってる。でもそれは私の知ってる雨じゃない。
マグマの雨。一粒がボールサイズの特大粒の赤い雨。
いやこれ、雨って言っていいのか!?
大大大噴火じゃん。マグマが降ってるよ。
なんにしろ超危ねー!
どこか雨宿り出来る場所っ……はないよな!
知ってたよコンチクショウ!
だが私には問題ない。オーケー焦る必要はない。なぜならそう、私は死なないから。
マグマに当たったって、体が溶けたって、私の頭がマグマに落ちない限りは死なないのさ。フッ。
自分で言っててダッセェ。ホントやだ。
「っ……ヤバいかも」
ひや汗が垂れる……感じがした。実際には汗なんて出てないけど、それぐらい焦ってる。嫌な予感がビシバシ伝わってくる。
マグマが落ちる。
音を立てて、マグマの塊が、地上に降り注ぐ。
そして、嫌な予感が的中してしまった。
落ちたマグマが地面を削る。削った場所にマグマ溜りが出来る。
幅の狭い道にマグマが落ちた。地面が削られ、両隣のマグマの海が繋がった。道が途切れて塊の大きさ分の間が空く。
ヤバいヤバいヤバい!
足場が減っていく。このままじゃ身動きが取れなくなる。
マグマが当たるだけならまだいい。いや良くはないけど、死なないから、いい。
でもマグマに落ちたらアウトだ。浸かっちゃったら一生燃えカスだ。
マグマの雨に当たった衝撃でバランスを崩したら?
飛び越えた先で足を滑らしたら?
道が途絶えて行き止まりになったら?
詰みだ。完全に詰む。
そんなのは嫌だ。まだ何も出来てない。シズクちゃんと、一緒にしたい事がいっぱいある。本当の外を見せて上げる事も出来ずに朽ちていくなんて、絶対にごめんだ。
「シズクちゃん走るよ。ついてきて!」
ここの地形は複雑だ。雨が降った後の砂浜みたいに、木の根っこみたいに、道が伸びている。無数に伸びてるように見えて、ゴールのない迷路みたいだ。
これまで何度引き返した事かっ!
てか敵はどこだよ!?
全然、これっぽっちも、影すら見えないが!?
まさか……マグマの中に居るって事はないよな!?
「しまっ……!」
マグマの雨に気を取られて足元が不注意になってた。
道が途切れている事に気付かず、足を踏み外した。
マグマに落ちる。そう思った。
体が倒れる先に地面はない。
こんなところで終わってしまうのか。
こんな簡単に、呆気ないのか。
こんなの、一生恨む。
歯を食いしばる。でも、もうどうする事も出来ない。
それでも湧き上がる抵抗心で眼を閉じずに睨みつける。赤一色の景色。それにとても嫌悪感を抱いた。
けど、不思議な事に伸ばした手に硬い感触がした。
思考が停止して、体の力が抜けて、尻もちつく。
頭が下がって、視界に入ったのは、地面についた手だった。
…………地面?
「うえ」
その直後、シズクちゃんの声が聞こえた。反射的に上を見上げると、真上からマグマが落ちてくるのが見えた。
「ちぃっ」
飛び跳ねるように後ろに下がって立ち上がるとすぐさま駆け出す。休む暇もないっ。
この雨はいつまで続く?!
地面が全部なくなるとかないよな?!
洪水とか起きないよな?!
疑問が浮かんで浮かぶ。答えが分からないから、解消される事はない。ただただ疑問が増え続けるだけ。深く考える余裕もない。
危険、ピンチ、大変!
今出来る事……走る!
がむしゃらに走って、とにかく走りまくった。疲れない体で本当に良かった。じゃなきゃ今頃、マグマのモクズだ。
どれだけ走ってたのか、気付いたら雨が止んでいた。
マグマが降ってこなくなった。
それが分かって、ようやく足を止めれた。
膝に手をついて息を吐く。呼吸は乱れてないし、疲れてないし、汗も出てない。それでもこのポーズを取ったのは、無意識なんだと思う。前の体の、人間だった頃の癖。
今も人間のつもりだけどね!
ミステリーボディなだけで。
「ったく、なんだったんだ……」
汗を拭うように手の甲を顎に押し付ける。それから雨が降っていた空を見上げる。
室内だから天気が変わる事はないはずだ。というか雨がマグマだから自然現象なわけがない。絶対に故意だ。ふざけてる。
「…………ん?」
空に何かいる。なんだあれ。
目を細めて見る。
鳥……?
まさか……敵!?
ウソでしょ!?
飛んでるなんて卑怯だ。ズルだ。
降りてこい!
マグマの中じゃなかったのは良かったけど。良かったけど……!
飛んでるも十分なしだろ。ありえないって。ありえちゃダメだって。反則だから!
手が届く距離まで降りてきてくれたら……ってないよね。うん。分かってる。高望みはしないよ。
「どうにかして撃ち落とせないか」
飛び道具は……ない。いやあっても届かないだろ。遠いし。
スナイパーライフルとかならって思ったけど、敵の位置が上だと減速するし、飛距離が足りない。
「…………いや、一か八か」
ヒーンを出して長い刃を取る。それをやり投げの感覚で持つ。
足場オーケー。狙いを定めて……助走をつけて、投げるっ!
「っ、うわ?!」
大きな音を立てて、刃が地面に刺さった。
うん。刺さってる。
ふぅ。落ち着けー私ー。
確かに私はヒーンを投げた。刃から手を離した。なのに手を引っ張られるような感覚がした。気付けば投げたはずのヒーンが地面に突き刺さっていた。しかも私の手はヒーンから離れてない。
いやどうなってんの、これ?
手を動かしても手の皮一枚が繋がってるみたいに滑る。んでもって完全に離れる事はない。
いやなんで?
手を強く引けば地面からヒーンが抜ける。指の腹にくっついてプラプラと揺れる。接着剤でついてるみたいに。
切れ味抜群で、壊れなくて、でも名前を呼ばないと出てこなくて、私から離れる事はない。
……いや何それ。
くっつき虫かよ。おじゃま虫じゃん。
これならなくす心配ないね、とかじゃないから。今は投げたいの。投擲武器として使いたいの。求めてるのはそれじゃない。
はあー。これじゃあ打つ手なしだよ。どうすんだよ。
このアチチな地獄でゲームオーバーか?
二戦目にして脱落か?
それは嫌だ。戦わずして負けるとか一番ダサい。戦って負けるならいざ知らず、いやそれでも嫌だけど、敵前逃亡とかダサすぎて死ぬ。
自分で負けを認めるようなものだ。そんなの嫌だし、私のプライドが許さない。
長い刃を付けて、ヒーンを眺める。
もしかしたら、ヒーンのような武器が各フィールド毎に用意されてるのかも。
さすがに極悪非道な主催者でも多少の手心は加えてると思いたい。信じてるってわけじゃない。そうであって欲しいって私の願望。人として、最低限の心があると……いやないかなー?
ま、まあ、武器を探すのは良い案だよね。選択肢は多い方がいいし。それにシズクちゃんの体も見つけたいし。
ここの敵が鳥だと分かっただけでも大きな収穫だ。対抗手段を得なければ太刀打ち出来ないけど。
はあ。私も空が飛べたらいいのに。




