&27.魂が抜けた
目が覚めた。
良かった。体は無事だ。
うーんっ、よく寝たぁー。
どれくらい寝たんだろう。
頭スッキリ、気分爽快、やる気十分!
熟睡、快眠、超元気!
完全復活の私がお目覚めだい!
早くシズクちゃんに「おはよう」って言おう。
そう思って瞼を開けた。
目の前を青白い人魂が通り過ぎる。
起きて一番に目にするのはシズクちゃんが良かった。
これは見間違いだ。私はまだ夢の中だ。
リセットしようと再び目を閉じようとした時、赤色が見えた。シズクちゃんだと思って目をかっ開いた。
赤色がだんだん大きくなる。
赤色がだんだん近付いてきてる。
それはシズクちゃんではなかった。
というより誰でもなかった。
マ グ マ
私の期待を返せ!
近くで噴火したのか視界にマグマが映る。
今日の天気は晴れときどき噴火だね。とっても最悪だね。
てか、おかしいなー。私今仰向けなんだけど。空を見上げてるんだけど。室内だから天井か。うわ、天井遠っ!
なんか……えっなに? マグマ大きくね? 塊じゃね? 噴火ってもっと飛沫みたいな小粒だったような……?
待て待て待て。どんどん大きくって、これ私に落ち……ぎゃあー!?
熱っ……くはないけど、かかったー!
はいはーい! かかりましたよー! かかってますよー!
ここ見てくださーい。溶けましたよー!
ピー! ピー! 危ないのでマグマの飛び出しはやめてくださーい!
もーぉ。こんなんじゃおちおち寝れやしない。
安眠を妨げるなんて何考えてるんだ。相手マグマだけど。考える脳すらないけど。
はぁー。
しかし、こんなマグマだらけの地獄に極楽足湯温泉があったとは、知らなかったな。もうこんな危ない場所で寝たくはないから次はないけど。疲れててもやるじゃん私。ナイスー!
はぁ〜。気持ちよくて足の感覚がなくなる〜。
………………。
ホントに感覚がない。
ウソッ、ちょお待て……ぬわぁー!?
入ってるぅ!?
しっかりがっつり入ってる!?
私の足がマグマに入ってんだけど!?
膝から下溶けてなくなってんじゃん!
うええぇあっぶなー。危なーい。
慌てて下がる。うわ、足がなんか温かい。これどんだけ浸かってたんだろ。
てか、私って寝相悪かったのか。なんか、ショック……。
もーぉ、なんで誰も教えてくれなかったんだ!?
みんなで雑魚寝してたから絶対知ってるよね。知ってて黙ってたのか。ひっどーい。
まあ、教えられても困るけどね。寝相悪いって言われても知らんし。意識ないし。直すとかムリじゃね。ぐるぐる簀巻き?
いやでも起きた時と寝た時の場所は同じなんだよね。体勢も変わってないと思う。
だから寝相はいいと思ってた。布団からはみ出てた事もないし、毛布が下敷きになってた事もない。
寝た場所……。
さっき居た場所を見る。寝る前の事を思い出す。
ぽんぽんぽん……ちーん。
記憶にない。
ダメだ。なんにも覚えてない。
疲れ過ぎててそれどころじゃなかったもん。もうホントに限界だった。色々いっぱいだった。
…………これ、もしかして私がやった?
寝相どうこうじゃなくて、単純に自分で足突っ込んだとかそういうオチだったりする?
まあもう別にいいんだけど。どっちでも。
無事に生きてた。それだけで十分なんだから。
いや良くないか。私の温度感知レベル上がってるわ。
なんかちょっと温かいかなって頑張れば感じれるぐらいだったのから春の陽気と感じるぐらいには感度上がってる。このままいけば真夏のクソ熱……いやそれ以上までいってしまうかも。それはキツイ。とてもダルい。
よし。早くこのフィールドから出よう。取り返しのつかなくなる前に抜けてしまおう。うん。それがいい。
足も生えた事だし立ち上がる。足裏に感じる熱。
あー、そういえば私裸足だった。そうだ忘れてた。
ほら、私って痛覚ないじゃん?
だから大丈夫だったんだけど、今は足裏に熱を感じる。いや別に耐えられない程の熱さってわけじゃないけど、今まで感じなかったから違和感がある。
なんだろ、日向ぼっこしてる中で足裏にだけヒーターを当てられてるみたいな。
ま、まあ、少しすれば慣れて気にならなくなるでしょう。うん。
気を取り直して前を見る。
「シズクちゃ……シズクちゃん?」
あれ……居ない?!
なんで……どこ行ったの??
「シズクちゃーん!」
辺りを見渡してもシズクちゃんの姿(人魂)がどこにもない。まさか……寝過ぎた!?
全然起きねーなコイツ。待ってるのも退屈だしちょっと遊びに行ってこーよ。
とかでどこか行っちゃった? 大丈夫? そのまま帰れなくなったりしてない?
「シズクちゃーん!」
大声で呼ぶ。遠くでも聞こえるように声を張る。
どうしようどうしようどうしよう!?
もし迷子だったら動き回った方がいいよね。ここも荒野みたいに広そうだし、マグマのボコ音とかで声が聞こえにくそうだし。
でもこの場から離れるのも躊躇う。
「シズクちゃ……っ!?」
声が聞こえた。幻聴かなって思ってしまうぐらい小さな音だった。でも、それは確かに聞こえた。
「さめじぃ?」
シズクちゃんの声だ。逸る気持ちを抑えて声の方向を探る。まだ姿は見えない。
眠そうな声だ。声がふわふわしてるし、はっきりと言えてない。シズクちゃんもおやすみだったのかな。そうだったら起こしちゃったのは申し訳ない事をした。でも、寝起きの声も可愛い。
距離はそんなに遠くない。こては……下の方から聞こえる?
見下ろしても見えない。もしかして……地面の下? 寝落ちした?
「んん〜っ」
伸びをするような声とともにシズクちゃんが出てきた。私の体からにゅるっと出てきた。
ビックリした。声が出ないぐらい驚いた。
だって、魂が抜けたみたいに見えた。ちょっと、結構心臓に悪い光景だった。言わないけど。
「シズクちゃん、おはよう」
すごいドキドキ言ってる。このドキドキってどっちのドキドキだろう。可愛い人と一緒に寝た事? それとも……ううん。深く考えないでおこう。うん。それがいい。
「おは、よう?」
うん。平常運転だ。
なんだか安心する。安心しちゃダメな部分だけど。
「起きたら一番に言うあいさつだよ。目が覚めたらおはよう、休む時はおやすみ」
あいさつも知らないとなると、ホントにこれまでの生活が心配になる。
知らない事は私が教えるし、これから知っていけばいいんだけど、なんともやるせない気持ちになる。
「シズクちゃんはゆっくりおやすみできた? もう動いてもいい?」
「いく!」
うん。元気いっぱいで可愛い!
でも、そっか。シズクちゃんも休息が必要なのか。
ちょっと、色々と認識を改めないとだ。体がないから、魂だけだから、疲れないわけじゃないんだ。ちゃんと疲労を感じてる。
私も、体は疲れてないのに心が疲れていた。それと同じだよね。
…………それって私が負担になってるとかじゃないよね? 大丈夫だよね?
これまでムリさせてたのかな?
荒野ではノンストップで動いてたもん。大丈夫だったかな……?
これからはもっと気にかけないと。ちゃんと、寄り添わないと。
私だけが幸せじゃダメだから。シズクちゃんが幸せじゃないと、二人で幸せにならないと意味がない。
それにしても……なんでシズクちゃんは私の体の中で寝てたんだろう?
離れたくないって思ってくれてると、考えていいのかな。そうだと嬉しい。それだけ近い距離に私がいるって事だから、とても嬉しい。
…………さすがに自意識過剰かな?




