&26.一発アウト
目の前を横切る人魂に反射的に手が出た。捕まえるように掴むとむぎゅっと柔らかい感触がした。
「なんでお前は触れるんだ……!」
下に叩きつけて踏みつける。ぬいぐるみのような柔らかさ。固体……というか形があることに驚きなんだけど。魂だし。見た目炎だし。
グニグニと踏んでいたら足裏から感触が消えた。見下ろすと青白い人魂は消えていた。
軽く息を吐いて頭を切り替える。
シズクちゃんと約束してから、この地獄の探索を始めた。まずはこの意味不明な場所から出る事だ。ここから出ないと話は進まない。
んで歩きながら考えてたんだけど、ここはゲームの中だと思うんだ。
最初は荒野。そして今度は地獄。超絶忠実に再現されたフィールドで、用意された敵と戦う。敵を倒すと次のフィールドに進めて、全ての敵を倒すとゲームクリア。ゲームが終わればさすがに外に出られるだろ。出られなかったら主催者をぶん殴ってでも出る。
問題はそのフィールドがいくつ用意されてるかだ。十でも厳しいけど、百とかだったらマジでふざけてる。
でも確証はない。主催者を知らないから違うとも言い切れないのが悩ましい。ホントにないよね? マジでやめてね。限度ってもんがあるから。
何を目的にこんなクソったれなゲームを始めたのかは知らないし知りたくもないけど、私のもがき苦しむ様を高みの見物されてるって思うとムカつく。主催者の性格は絶対クズだよ。極悪だよ。じゃなきゃこんなの思いつかないから。
後この青白い人魂は荒野でのゾンビと同じ役割だと思う。敵というより障害物みたいな立ち位置。なんて言うんだっけ……エキストラ?
背景に溶け込み、よりフィールドをリアルにするための舞台装置。家とか木とかと同じ。
とまあ、これがゲームだと思っても納得出来ない部分が結構ある。シズクちゃんの存在や、私の体の事。
プレイヤーを複数人用意しているにしても、その選出が謎すぎる。私は武術の心得があるからまだいいけど、シズクちゃんは違うだろ。てか武術どころの話ではないと思うけど。
んでそのプレイヤーの設定。私は不死身だし、シズクちゃんは不視不触の魂だ。どちらもゲームにいたらめっちゃズルい設定。こういうのって命懸けで戦うからこそいいんじゃないの?
プレイヤーを不死身にしちゃったら醍醐味が激減しない? 大丈夫? ってなんで私は主催者側の心配をしてるんだか。
どうやってこんな体にしたのか知らんけど、化学の力ってコワー。この世界には知らない方が幸せな事があるってこの事だったんだ。深く考えないでおこう。
私の体はあった。そしてシズクちゃんもプレイヤーであるのなら、この広いフィールドのどこかに必ず体があるはずだ。そうじゃないと不公平というか、話にならない。
だって敵を倒せなければずっとこのフィールドに閉じ込められたままだ。そんなのはつまらないだろう。
私とシズクちゃんの他にもプレイヤーがいるんなら、ぜひに会いたい。協力すれば早く終われるかもしれないしね。それは願ったり叶ったりだ。
「んー、地獄の敵か……どんな姿だろう」
ここにも敵が用意されてるはずだ。未だに姿を見かけないけど。
敵は多分、フィールドに合った生物だよね。地の利を活かせる特性を持った生物。荒野はモグラだったし。
地獄は……鬼?
ダメだ。地獄絵図に引っ張られる。えーっと、地獄じゃなくて……溶岩地帯で考えよう。
溶岩、火山、炎…………え、なんか居る?
生物いなくね?
居てもこんな環境じゃ生存出来なくね?
………………ダメだ。ぜんっぜん思いつかない。
私は機械のゲームをした事がない。勧められた事はあったけど、みんなで遊ぶ方が好きだからやらなかった。少しだけ見た事はあるけど、よく分かんなかったし。
だからゲームの知識は皆無と言っていい。
カードやボード、スポーツとかなら色々やったから、ある程度は分かるんだけどね。ここではどの知識も役に立ちそうにないけど。
はあー、ままならない。
もういいや。考えるのやめやめ。
考えたって分からないし、ムダに疲れるだけだし。
「おっと」
ぼんやりしてたから前方不注意になっていた。後少しでマグマにドポンだ。危なっ!
半歩前だったら間違いなく落ちていた。
安全のため二歩下がる。
ここはとっても足場が悪い。荒野が平坦で何もなかったから、余計に強く感じるのかもしれない。
道が狭い上にデコボコしてる。さらにマグマに落ちたら一発アウトだから気が抜けない。さっきは抜けてたけど。
「さめじぃ?」
両手を腰に当てて息を吐く。
するとシズクちゃんが心配そうな声で名前を呼ぶ。
「うん」
顔を上げて笑いかける。どうしたの?
「さめじぃ」
もう一度、名前を呼ばれる。
ああ、うん。ダメだなぁ。困らせちゃってる。
「ごめんねシズクちゃん。ちょっと、休ませてもらうね」
体力は全然大丈夫なんだけど、気力が尽きた。
さすがに、疲れた。
ホントはすぐにでも敵を見つけて倒し進めて、途中でしっかりシズクちゃんの体も見つけて、超絶完璧大団円で終わりたかった。
終わらせたかった……んだけどなぁ。
ホントに、ままならない。
腰を下ろして横になる。
うん。ここもちょっと危ないけどね。寝るには道幅が心許ない。肩幅もないほど狭いわけじゃないけど、悠々と大の字で大きく寝れるほど広くもない。
私の寝相がとても悪くなければいいんだけど、こればかりは分からない。寝ているからね。
ここに安全な場所があるかは分からない。多分ない。
私が安心して寝られる場所を探した方がいいんだろうけど、今はその気力もない。
とにかく何もしたくない。
動くのも、考えるのも、億劫だ。
別に眠たくはなかったんだけど、横になると眠気がやってきた。
瞼が下がってくる。
「さめじぃ」
シズクちゃんの声、安心する。
白い炎がとてもキレイだ。
「うん。ちょっとだけ、寝るね。おやす……み」
誘われるように瞼を閉じると、すぐに眠りに落ちた。




