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&dead.  作者: 猫蓮
30/143

&25.未来を約束する

 もう何もかもどうでも良くなった。

 他の事なんて考える余裕はなくなった。

 ただ目の前の異常事態に意識が全て引っ張られた。


「シズクちゃんっ、それっ……大丈夫!?」


 目の前に白い炎が浮かんでいる。ロウソクも可燃物も何もないのに、炎だけがそこにあった。中心が赤で周りが白という、色の配置が反対の炎。人魂の二文字が頭の中に浮かび上がった。


 人魂。死人の魂と呼ばれる心霊現象でお馴染みの名前。実際はホタルだとか放電だとか幻覚だとかのオチ。特別恐怖するような要素はないただの火。


 昔イタズラで驚かしてやろうと、釣り竿の針に丸めた新聞紙を付けて油をぶっかけてから火をつけたら、ちょっとした惨事になった。めちゃくちゃ怒られた記憶があるから私はちょっといい思い出がない。


 まあ、私の過去はいいんだ。全く関係ないしね。

 それより何よりシズクちゃんだ。

 どうしてこうなった!?


「?」


 あぁ、なぜだろう。炎には目も口も、顔がないのにシズクちゃんがキョトンと首を傾げているのが分かる。炎の揺らめきも変わりないけど。

 どんな姿でも可愛いと思ってしまう。これが乙女心と言うやつなのか?


「シズクちゃんは今人魂……燃えてる火に見えるの。苦しいとか、熱いとか、体がおかしくなったりしてない?」


「ひ……?」


 あー……火も知らないのか。

 逆にシズクちゃんは何を知ってるんだろう?


「えーっと……あぁ、あれ。あんな感じにメラメラ燃えてるの」


 周りを見渡して、ちょっと離れたところに別の人魂を発見!

 指を指したけどシズクちゃん(人魂)に動きはなし。いや炎に前後ろがあるのかは知らんけど。

 シズクちゃんの事だから見てくれてると思うけど。


 あっちは私の知ってる人魂っぽい人魂だ。青白い炎をしている。ゆーらゆら漂ってる。

 あっ、マグマが爆発したみたいに噴出した。人魂がそれに飲み込まれて消えた。


 消 え た。


 人魂って魂だから触れないんじゃないの?

 えっ、触れるの?

 マジで!?


 静かにシズクちゃん(人魂)を見る。ゴクリと唾を飲み込む。


「シズクちゃん」


 声をかけてからゆっくりと手を伸ばす。うわっ、めっちゃ手が震えてる。恥ずかしい。

 あと少しのところで弱気な私が顔を出して手が止まる。期待と願望と興奮でハッスル状態の私の心を抑え込んで平常心を保つ。


 温度は感じない。これが私の感知レベルが低いからなのか、人魂が熱くないからなのか、どっちかは分からない。

 ドキドキで気が狂いそうになりながらも手を伸ばしてシズクちゃんに触れる。


「ッ!?」


 なんの感触もしないまま、手は炎を通り抜けた。


 さ、触れなかった……!!


 クッソー!

 私の純情な心を弄びやがって!

 青い人魂出てこい! 叩き斬ってやる!


「さめじぃ」


 ハッ! つい頭を抱えて嘆いてしまった。


「何かなシズクちゃん」


 何事もなかったように立ち上がって笑顔を見せる。実際何もなかったけどね。何も出来なかったけどね。


「さめじぃは、動かない、ない?」


 動かないない?

 うーん? 何が聞きたいんだろう。

 何かを恐れているような不安な声。ピラミッドの時と同じ……いや、もっと苦しそう。

 人魂だけど、姿が見えるようになったのと何か関係があるのか?


 けど、そこら辺を考えるのは後でいい。最優先はシズクちゃんの不安を振り払う事だ。


 動かないない……動かないの反対で動く?

 でも「動く?」って聞くのも変だよね。シズクちゃんは私の姿を見えてるし、他に機械とかそういうのがあれば意味としては通るけど、当然こんなところにそんな物はない。第一、私の事を聞いてるしね。


 動かないにない。動かなくならない、か?

 もしシズクちゃんが死ぬという単語を知らないなら、人の死を動かなくなった状態と認識してもおかしくない。でも、そんな事がありえるのか?

 誰も何も教えてくれない環境下で、人の死という光景だけを知ってるってホントにどんな育て方だよ。一発殴るだけじゃ物足りないわ。


 でも、それなら質問の内容は分かる。

 私は死なないか?

 うん。そりゃあマグマに突っ込んだ私に対する当然の疑問だ。砂に気を取られてシズクちゃんを蔑ろにしてしまった。心配させてしまった。これは私が悪い。


「さめじぃは、いない、ない?」


 そっか。そうだよね。本来は死んだらそこで終了。こんな、頭が無事なら何度でも元通りーなんて、バカみたいな現実はありえない事なんだ。慣れて疑問に思わなくなっていた。

 ダメだな。それでシズクちゃんを悲しませるなんて愚か者だ。


 私は知っていた。シズクちゃんが独りを嫌がってる事を知ってる。それなのに、私は自分の事ばっかり。シズクちゃんの事は最優先だ、なんて言っておきながら表面でしか彼女の事を見ていない。

 見たいものしか見ていなかったのは私の方だ。何よりも、大事なシズクちゃんの心を私は見ていなかった。考えてなかった。そんなの、シズクちゃんの育て親どもと同じじゃないか。


「シズクちゃん、私が前に言ったこと覚えてる?」


 ううん。覚えてなくてもいい。あなたが望むなら何度でも言うよ。覚えてても何度でも言いたい。


「私の気持ちはあの時から変わってない……ううん。もっと強くなってる。シズクちゃんと一緒に居たい。ずっと一緒に居たい」


 離れたくない。一時の、ほんの僅かな時間でも嫌だ。私の腕の中にずっと閉じ込めてしまいたいと思ってる。

 でも、それは今は叶わないから言わない。触れるようになっても、たくさんの楽しいを知って欲しいから、言わないと思う。

これが惚れた弱みだと言うなら、それも悪くない。


「私はっ……私はシズクちゃんの前から居なくならないと誓います。絶対にシズクちゃんを置いていったりしない」


 ここがどこかを知らない。この先に何が待ち受けてるのかを知らない。もしかしたら、荒野より危ないかもしれない。

約束は容易にしていい事ではないと知っている。


 未来を約束する言葉が私の胸を突き刺す。

 名前を言おうとした時みたいに喉が詰まって苦しい。


 でも……それでもっ、私は誓いたかった。

 神でも仏でも私の心にでもなく、ツクモシズクというあなた自身に誓いたかった。


「シズクちゃん、約束しよう。ずっと一緒に居るって約束。絶対に……絶対に守るから」


「うん…………うんっ! やくそく!」






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