&T4.当たり前のこと
イスリンはとてもカラフルだった。
家も木も人‥‥魔族もカラフルだった。
今はスミさんとカナリアさんと、家を出て町の中を歩いている。
すごい。日本と全然違う……!
家が全部同じだった。同じ形の家しかない。だけど、色が違うだけで全然別の家に見える。
……あれ?
「名前がないのに誰の家かわかるの?」
どの家も表札やポストがなかった。これ、配達の人困らない?
「名前? ドアに書いてあるじゃない」
カナリアさんがすぐ近くの家のドアを指さす。赤い四角いのがドアに付いてるけど、そこに名前は書かれてない。
「ほら、ここがオモイ。ここがトクサ。アサギ、ハシタ、イワヌ」
歩きながらカナリアさんが家を指さしてどんどんと名前を言う。でも、どの家にも名前は書いてなくて、違うのは色だけだった。
なんでわかるの?
町の家全部覚えてるの?
ポカーンと口を開けていると足に何かが当たった。
下を見ると丸い石がコロコロ転がってる。
拾って見ると薄緑色のキレイな石だった。
これ、お母さんが持ってた石と同じ石?
「あら、マルイベリーだわ。珍しいわね」
スミさんが覗き込んで言う。
「マルイベリー?」
ベリーって果物の?
「木の上の方、枝になってるのが見えるでしょ? あれがマルイベリーよ。たまにカサンになれなかったマルイベリーがこうして落ちてくることがあるの」
木は家と同じくらい大きくて、枝があるのは上の方。しかも葉っぱに隠れて中が見えずらい。その葉っぱが紫色なんだけど。
葉っぱはスミさんが伸ばした手より高いところにある。
「カサン?」
果物の名前?
あ、あの白い葉っぱの木のとこ、白の中に緑色が見えた。あれがマルイベリーなのかな。
「カサンは私たちの生みの親よ。イスリンに住む魔族はみんなカサンから生まれるの」
じゃあみんな兄弟ってこと?
すごい。大家族だ。
あれ?
でも果物じゃなくて石で、お母さんでって……どういうこと?
「カサンさん? はどこにいるの?」
見ればわかるよね。どんな人なんだろう。……人、なのかな。
「カサンは木の上で暮らすわ。生む時だけストローに入るの」
木の上?
ストロー?
ストローってあのストローだよね。ジュース飲むストロー。
それに入る?
………………どんな姿なの?
「カサンさんとはいつ会うの?」
「会ってどうするの?」
カナリアさんがわからないの声で言う。
となりにいるスミさんも同じように頭を傾けてる。
なんで……だって、お母さんなんでしょ?
近くにいるのに、会えないって寂しくないの?
これが、この世界では普通のことなの?
悲しくて、苦しくて、胸が痛い。
でも、なんて言えばいいのか、言葉が出てこない。
「あら……ねえ見て、スミ! フィト種よ!」
カナリアさんが弾んだ声を出す。
もう切り替えてる。それもそうか。二人にとっては、当たり前のことだから。
「ホント……! 初めて見たわ」
カナリアさんが指さした先を見たスミさんも声を弾ませる。
苦しい気持ちを振り払うように頭を振る。それから、二人が見てる方を見る。
「ひと、しゅ?」
子ども……?
でもなんか、キラキラしてる。
「フィト種よ。フィ ト 種」
カナリアさんが目の前に来て、人さし指と顔を近づける。指を振って、一つずつきって言う。
「同じ魔族でも種が違うのよ。私たちはイト種で……」
「フィト種はローズのヤサンからしか生まれないの!」
スミさんの言葉をさえぎってカナリアさんが強く言う。興奮してる。
ローズってお花だよね。ヤサン……お店の人?
お花屋さん?
子どもが働くっていいの?
なんか、わからなくなってきた。
もう最初からわからない。
「そうだ、カナリア! フィト種に勇者を見たことあるか聞いてみない?」
「……そうね。そうだわ。そうと決まれば、行くわよタロウ!」
「え? う、うんっ……?」
急に名前を呼ばれて返事をする。
なに? なにかするの?
聞いてなかった。
カナリアさんがおれの手を引っ張る。わわっ、速い。
カナリアさんが早歩きで歩くのを走ってついていく。
「わっ」
カナリアさんが急に止まった。危ない。もう少しでぶつかりそうになった。
ホッと息を吐いて顔を上げると、目の前にあの子どもがいた。やっぱり、キラキラしてる。
「初めましてデルタ」
カナリアさんが頭を下げる。あれ、カナリアさん名前知ってるの?
初めて見たって言ってたけど、有名人とか?
名前を呼ばれた子どもが振り返る。カナリアさん、スミさん、おれの順に見る。
え、なんかおれを見てすっごいコワイ顔になった。なんで?
「うむ。拙者に用があると見受けるが、そのうつけの事か?」
うつけっておれのこと?
魔族の人たちは勇者って言ってたけど、同じ意味なのかな?
「はい、その通りです。デルタは外でタロウと同じ勇者を見たことはありますか?」
スミさんが話してる間もずっとデルタはおれを見ている。コワイ顔で。
お、怒ってる……?
でもはじめましてだし、なにもしてない。
「あ、あの……」
「拙者がうつけを見るのはこれが初めてよ」
おれの声にかぶせて冷たい声で言う。やっぱり、怒ってる?
表情は変わってないけど、イヤな感じが伝わってくる。
「ねえ、おれなにかした?」
なにかイヤな思いをさせたならあやまるけど、なにもしてないのに怒られるのはイイ気持ちしない。
「タロウっ! ……すみませんデルタ。教えてくださってありがとうございます」
「タロウ、このおバカっ!」
スミさんがおれとデルタの間に入って頭を下げる。
さらにカナリアさんがおれの頭を下げさせる。
あ、スミさんもカナリアさんも、デルタを怖がってる。庇ってるとわかった。頭を掴むカナリアさんの手が震えてるのが伝わる。
この世界にも上と下があるんだ。同じ魔族でも違うんだ。それがわかって、スミさんとカナリアさんにあやまりたくなった。
「構わん。拙者の方こそ不遜な態度をとった」
あ、デルタのコワい感じがなくなった。でも表情はちっとも変わってない。
「お心遣いありがとうございます」
スミさんがさらに深く頭を下げる。
わわっ、カナリアさんの手が強くなった。
足音が聞こえる。デルタの?
これ、見えなくなるまで頭を下げたままなのかな。
そう思ったら、音が止まった。気になって顔を上げて見るとデルタが少し離れたところで立ち止まってた。それで斜め上を見上げてる。
なにを見てるんだろう。
デルタが見てるのと同じ方を見る。けど、そこにはなにもなかった。青い空にオレンジ色の木と茶色の屋根があるだけだった。この町だと多分普通の景色。
「一つ、誰も入れない隠された場所がある。それはどの地にも属さない場所にある」
デルタはそれだけを言って、また歩き出した。
えっ、え? なに、どういうこと?
教えてくれるならヒントじゃなくて答えがいいんだけど。わからないし。
デルタが見えなくなったところでスミさんとカナリアさんが頭を上げる。
「ふぅ。もータロウ! 勝手なことしないで!」
カナリアさんが安心したように胸に手を当てて息を吐く。それから、怒り出す。
「ごめんなさい……?」
デルタがなんで怒ってるのかわからないままだ。
とりあえず、声を出したらダメだった?
「まあまあカナリア。私たちがフィト種のことを詳しく言わなかったもの。タロウに八つ当たりしないの」
スミさんがカナリアさんをなだめる。
「ごめんねタロウ。フィト種は私たちイト種の上位に位置する種なの。力で劣る私たちは逆らえないの」
「そうそう。私たちが寄って集っても勝てっこないの。だから、刺激しないのが一番なの!」
やっぱり上と下がはっきりしていた。
でも、大人より子どもが上ってどういうこと?




