&23.沈んでいく
「ぬわぁーーっ!!」
なんだよプチッて!
またプチッかよ!
何回プチッてすれば気が済むんだ。ふざけんな!
しかも今回はなんか長かったし。いつもはひき逃げのように潰して行くのに、潰して停車してったよ。さらに悪質になったよ。
そんなに私が憎いか。
目ん玉ぶっ刺したけど。
首掻っ切ったけど。
うん。憎まれて当然だね。
ごめんね、モグラ。許して許す。
でもなんでだろう。イライラが解消されてない。
最後の足掻きでプチッてされたから?
元凶の科学者をぶん殴ってないから?
むーん。両方かな。
うげー、後味最悪。
「シズクちゃーん!」
こういう時はシズクちゃんの可愛さで癒してもらおう。うん。それが一番だ。
「シズクちゃーん!」
どこから来たか分かんないからごめんだけど来てー!
「さめじぃ……」
シズクちゃんの声が聞こえた。一気に心が晴れやかになる。
「シズクちゃん! ね、ね、私、カッコ良かった?」
シズクちゃんの声が聞こえた方を向いて首を傾げる。
うぐっ。カッコイイって言ってって強請ってるみたいになった。これじゃあ誘導してるのと同じだ。そんなつもりはなかったのに。ただ褒めて欲しかっただけなのに。聞き方間違えた〜。
「……うん」
あーん。シズクちゃんの元気のいい返事に癒され……じゃない!?
元気ない!
落ち込んでる?
どうしてっ!?
「シズクちゃんっどうしたの!? どこか痛む? 苦しい?」
私がモグラと戦ってる時に何かあったのかな。離れない方が良かった? いやでも危ないし。
いやいやいや。シズクちゃんに手出しは出来ないよ。体がないから見えないし、触れない。空気に触れないのと同じだ。
それに、ここにはモグラとゾンビ以外誰もいない…………違う。
いる。
一人、いる。
科学者。
やつならシズクちゃんに接触出来る方法を持ってるかもしれない。そんなのズル……いや卑怯だ。私と離れるタイミングを狙ったのか。クソッ! 本当に忌々しい野郎だ。
シズクちゃんに何をした。
ああもう、ムカムカする。
でも今は私よりシズクちゃんだ。シズクちゃんを元気にする方が最優先だ。
そう思って、顔を上げる。うっすらぼんやりとシズクちゃんの姿が見えた。
…………あえ!?
「シズクちゃ……っ!?」
手を伸ばした直後、地震が起きた。グラりと揺れて、体がよろける。シズクちゃんから視界が外れて、再び戻した時には姿が見えなくなっていた。
なんだなんだよなんだってんだコンチクショー!
まだモグラを倒せていなかったのか!?
ホントにタイミング最悪だなクソッタレ!
首掻っ切って倒したと思ったのに、まさか地面に潜ってたのか!?
まだそんな力が残っていたのか!?
あんな出血……出粉? したからてっきり……え?
ウソだよね。ウソだと言って。ウソであれ!
私の願い虚しく、揺れはさらに大きくなった。うわーん!
どこから来る。出てくる前に地面が下がるはず。どこだ……うん?
でもなんか……揺れ方が違う?
モグラは動けなくなるぐらいの縦揺れだったけど、今は左右に振られるような横揺れ。
じゃあこれ、モグラじゃ……ない?
モグラじゃないなら、この揺れは何?
ホントの、自然の地震?
てことは……荒野全体が揺れてる?!
早く脱出をっ!
……いや、その前にシズクちゃんの体を見つけないと!
そう思って走り出そうとしたら、前のめりに倒れた。足が動かなかった。つんのめって地面に手をついた。恥ずっ。
誰だ! 足に捕まってるやつは!?
「え……うえっ?」
二度見した。
起きてる事に理解が及ばなくて、初めちょっと見て見ぬフリしそうになった。てかした。
だって、私の足が埋まってる。
地面に埋まってる。
それどころか、手も沈んでってる!?
「ちょっ、ウソッ!? 待って待って待ってー!」
慌てて手を引っこ抜いて上体を起こす。
危ねー……って安心してる場合じゃない!
まだ危機は続いてるよ!?
「ふんぬーっ」
足を引っこ抜こうとして力を入れても、砂が重くのしかかってるみたいで抜けない。
ヤバい、もう膝下まで埋まってる。
手も使って引き抜けば、ズズっと動いて上がる。
よし、いける!
反対の足がズズッと沈む。
それは違う!
てかなんで、こんな事になってんだよ?!?!
ここは、こんな土じゃなかった。アスファルトかってくらい硬く固まっていた。
なのに、今は砂浜みたいにサラサラしてる。それどころか、底なし沼のように埋もれていく。飲み込まれていく。
一際大きく揺れた。
今度はなんだと顔を上げると、目を見張った。
世界が傾いている。
私が砂に埋もれて体が傾いているんじゃない。
大地が傾いていた。
「アリジゴク……」
荒野がアリジゴクのような斜面になってて、その真ん中に吸い込まれるように大地が流れていく。
ウソでしょ!?
落ちたらヤバくね? ヤバイよね! 絶対ヤバイやつでしょ!?
こんなのヤバイやつに決まってんじゃん。
うわー、体が沈んでいくー。
って、うわっ!? もう膝まで!?
「ヒーンっ!」
ヒーンを出して地面にぶっ刺す。クッソ、持ち替えれないのが面倒だ。今は逆手の方がいいのに。
そうだっ!
短い刃を取って地面にぶっ刺す。手に力を入れて下半身を引っこ抜く。ぬぬぬーけなーい。
えーっと、えーっと、こういう時どうするんだっけ?
あああ焦って、頭が何も考えれない。
えっと、えっと、波に逆らっちゃダメなんだっけ。ああっ、それは海か。あーもうっ砂も水も一緒だぁー。
刃を抜いて上半身を捻る。うぐっ、ちょっと体勢キツイ。痛くないけど。体が若干ムリしてるのが分かる。
両の刃をぶっ刺して力を入れる。力が入れにくい……けどっ、体が動く! ちょっとずつ前に向いてるし、上に上がっていく。
ぬぬぬーっけた!
やったぁ!
喜んだのもつかの間、視界に影がかかる。上というか今は斜め? に顔を向けると絶句した。
崖が迫ってきてる。崩落した崖?
これ、落下地点、私危ない。
「っ!」
急いでその場から離れる。
でも、思うように進まない。足がすぐに沈んで、砂に絡め取られる。ヒーンを杖のようにして進むけど、引っこ抜くという動作がいちいち発生して煩わしい。
そして、私の頑張りを嘲笑うかのように崖は落下して私を押し潰す。下敷きになった私は抵抗出来ずに砂の海に沈んでいく。
* * *
ザァーッ
砂嵐のような機械音が響く。
ザザァー
ポツポツと白い点が浮き出ては消えていく。
ザァーーー
雪が降ってるように見える無数の白い点は、よくよく見れば文字を形成していた。
ザザッ
聞き取れない程の無数の声が雑音となって響き合わさる。
また新しい文字が浮かび、機械の声が読み上げる。
『地龍ダンゴの消失を確認』
『FK1の消滅を確認』
ザァーー
その音もまた、ノイズの海に埋もれ、文字が消えた。




