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&dead.  作者: 猫蓮
26/143

&22.必殺技

 ハアー、ハアーと荒い息を吐く。疲れない体だから息が乱れる事はないんだけどね。でも、心の焦りからか、呼吸が荒くなる。


「っ、ぶねー」


 危ない。ホントに危なかった。

 今も危険な状態だけどね。免れてないけどね。


 私さめじぃさん、今モグラの口の中にいるの。


 ちゃんと食われました。

 食われてるナウ。


 でも胃の中じゃない。まだ喉は通ってない。ホントに口の中に居るの。もっと言うと前歯の部分。


 右手にヒーン、左手にヒーンの長い刃を持って歯に挟まってる。刺して耐えてる。


 ヒーンの性能に助けられた。

 刃が二本あって良かった。

 取り外し可能で良かった。

 刃先が反り返ってて良かった。

 それを完璧に扱う私。なんて天才なの……!


 だけど困った。非常に困った。

 この後の手立てがない。

 耐えたまではいいんだけど、どうやって口から出よう?


 上を見上げれば閉ざされた口。けど少しだけ隙間が空いているのが見える。

 こう、パチンコみたいにビュンって飛んでスポッて外に出れないかな。


 うん。ムリだね。


 今が絶妙なバランスで成り立ってるからさ、ちょっとの衝撃でも怖いの。

 口を開けられてもダメ。

 首を振られる……ぐらいなら耐えれるかな?

 ベロで舐められたら精神的に死ぬ。


 だからと言っていつまでもこの状態なのもいただけない。

 体力は……問題ない。

 手汗はかかない。

 引っ掛かりは十分。

 あれ、いつまでも耐えれるんじゃね?


 イヤイヤイヤ。

 ずっと口の中とか嫌だよ。臭そうだし。あ、嗅覚ないんだった。

 尽くデメリットが解消していく。


 ううん、嫌だ。体に問題なくても心に大大大ダメージだ。

 誰が好き好んでモグラの口の中に居たがるのか。虫歯かよ。菌じゃん。

 私は嫌だぞ。絶対嫌。


 むーん。でも方法がないのもまた事実で……。


「ぬぉ!?」


 体が下に引っ張られた。

 なに!?

 と思ったら今度は浮いた。


 何が起きてるんだ! ……あれ、外?

 いつの間に、と思って首だけで振り返れば、口を開けたモグラ……と、水。

 水?


 ん?

 ……んん?


 まさか、これ……クシャミ!?!?


「うぃでっ」


 着陸する。もちろん着地は失敗した。痛みはないから問題なし。


 わわっ、水が爆弾みたいに着弾してる。

 地面が抉れてるよ。

 これ、モグラの唾なんだよね?

 きったなーい。


 って、ギャーッ!

 私にもかかってるじゃん。

 やだもうばっちぃ〜。


 口の中ペッてして、体をブルブル震わせる。

 犬かよ、って私がペッされたわ。

 うえ〜、臭ー……くない。

 まさかのモグラ無色無臭!?


 いやいやいや。私嗅覚ないから。匂い分からないから。


 うえ〜、ベトベトする〜。気持ち悪ーい。

 浴衣が肌に張り付いてるし、なんかネバネバしてる。


 シャワー浴びたい。早急にサッパリしたい。

 ここ、荒野。ムリ。

 いーやーっ!


 テンションだだ下がりなんだけど。やる気失せるわー。シンドイー。


 出れたのはいいけどなにっ、クシャミて。

 もっとなんか……なんかなかったの!?

 いや出れたからいいけどさー。なに文句言うなって?

 はいごめんなさいね!


 もう油断はしない。いや最初から油断をしてたわけじゃないけどね。でも、次で決める。


 ヒーンをしまって、モグラに向かってまっすぐ走る。また何かしてくる前にやらなければ。特に潜られると危険だ。


 クシャミでモグラとの距離をだいぶ離された。飛沫って思ってるより遠くまで飛ぶらしいからね。目に見えないし。私、菌かよ。


 てか、モグラお前……体半分地面に埋まったままじゃないか。ふざけてんの?

 お風呂に入ってるみたいじゃねーか。やめな? そういうの。面白くないから。


 鼻がかゆいのか両手で擦ってるけど、どした? 風邪? 花粉? 無縁の環境っぽいけど。

 まさか舞った砂埃でーってオチじゃないよね。やめてそんな一番ダサい理由。私が可哀想でしょ!


 モグラが動きを止めて手を下ろす。上げたままの鼻をヒクヒク動かすと、まっすぐ私の方を向いた。

 匂いかよ。嗅覚かよ。そんなに私は匂うか?

 匂うだろうな。お前の唾の匂いがベッタリだからよ!


 モグラとの距離はまだ遠い。でもモグラが遊んでたおかげで、もうすぐでモグラの間合いの距離まで近付けれた。


 間合いに入ったところでモグラが土から出てきた。


「ッ、マジかよっ!?」


 警戒する私を嘲笑うかのように、モグラは後ろ足を上げる。その光景がスローモーションのように流れた。


 その動きは、その体勢は、地面に潜る時と同じっ!


 また……来る。モグラの必殺技が。


 そう思った時、私は一歩踏み出した。強く地面を蹴った。足の先はモグラに向かっている。


 逃げるよりも早く、潜るよりも先に、私が一太刀入れてやる。


 その思いで地を駆ける。さっきより走るスピードが上がってる。それはこの戦いで何度も負けていたからか。負ける度に強くなるなんて、皮肉だな。ふざけてる。


 ……でも今は、そのふざけた現実に助けられている。

 忌々しいけどありがたいのは事実で、私の力となっている。

 考えるのは後にして、感覚を研ぎ澄ます。


 モグラの体が下がっていく。

 背中じゃダメだ。鱗がない腹側に回り込まないと。


 モグラの鼻が地面を越える。

 左手に回る。真横に差しかかったタイミングで左足を前に出してブレーキをかける。


 モグラの左目が私の前にある。

 体の動きが止まる。上体を翻して、手を左腰に置く。


「ヒーン」


 名前を呼び、手を握る。

 時間(とき)が止まったような静けさを振り払うように、足腰に力を入れて地を踏みしめる。


「居合、真一文字」


 刀を真横に抜き払う。力を入れずに、ただ抜く動作を行う。心を無にして静かに動く。


 居合は一刀必殺の太刀。本来はその後に続く二の太刀への追撃の動作に移行しなければならない。勝敗が決し、勝者が納刀するまでが一連の流れだ。

 でも、私は違う。私が教わったのは型にはまった武道じゃない。実用性とカッコ良さを兼ね備えた戦い方だ。


『居合も抜刀も意味は同じだよ。でもね、抜刀は斬る事を、居合は形を主としてる傾向がある。じゃあナギ、問題だ。斬るために抜くのと抜いたら勝手に斬れたの、どっちがカッコイイかい?』


 二刀目なんていらない。一刀で決める。その一刀に全てをかけてこその、必殺技だ。

 だって、それが一番カッコイイ。


 右腕が伸びて、切先が止まる。肩から切先までが一本の線になる。


 その瞬間、目の前から大量の黒い粉が噴き出した。


「うえっぷ」


 たちまち視界は黒に埋め尽くされる。何も見えない。

 袖で顔を覆う。口とか鼻の中に入ったら嫌じゃん。なんか、不潔そうだし。

 んえっ、最悪! 濡れてるの忘れてた。ベトが顔にベタった。粉が付着するじゃん。全身真っ黒けになっちゃうじゃん。


 粉が風と共に当たってくる。でも粉が当たる感触はない。埃みたいな感じで目に見えるけど触れない、触った感じがない。

 風は多分、中に詰まっていた粉が空いた穴に向かって流れ出ている勢いが風になってるんだと思う。水道管が破裂したみたいな感じで。


 むーん。動けない。

 体は動かせるけど、視界が悪いから危なくて動けない。どこにモグラが掘った穴があるか分からないからね。そこに落ちたら大変だ。


 だから立ち止まって、黒い粉が止まるのを待つしかない。

 でも、これっていつまで続くの?

 モグラさん、とぉってもデカイけど、全部の粉が噴き出すまで?

 それって何時間かかります?


 風を背にして行けばモグラに離れ……いやいや、それじゃあいつまでも粉の中だ。じゃあ横に行く?

 あれどこに穴があったんだっけ?


 うんうんと唸っていたら突然上から押され潰された。


 うおいっ!






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