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&dead.  作者: 猫蓮
25/143

&21.アイキャンフライ

 私が走り出すのと同時に、モグラも走り出した。その移動方法は転がるではなく四足歩行だった。うん。なんかちょっと安心した。


 てか、走るの速くない!?

 転がるより速くない!?


 モグラが前足を振りかぶる。予備動作をするには距離はまだある。迎え撃つつもりか……いや違うっ!

 ヒーンを構えると同時に振り落とされる。


 見誤った。というより、間合いを掴み切れない。

 だって、モグラがデカ過ぎる。てかデカイんなら動きはゆっくりであれよ! なんだよ俊足って。ふざけんなよ!?


 迫ってくるモグラの爪がロケットみたいに見えた。ロケットパンチってこんな感じなんだ。これで当たった瞬間爆発なんてしたらたまったもんじゃないな。

 なんて、考えれたのは一瞬で、すぐに意識が現実に引き戻される。そのロケットみたいな爪が目と鼻の先まで迫ってきてるからな!

 てかこんなくだらない事を考えてる暇なんかないぞ私!


 受け止めた刃が爪の湾曲に沿って滑っていく。引き込まれるように爪の奥に奥にと流れていく。止めれない、っ!?


「あ……れ?」


 爪で埋まっていた視界が一気に開いた。広大過ぎる荒野が遠くまで見える。


 その風景はとても見覚えがあった。

 その風景はもはや馴染みがあると言ってもいい。

 それぐらい何度も見た景色だった。


 崖を見つける度にアイキャンフライをしたんだ。

 この浮遊感だって……ん?

 何かが触れてる……?


 その違和感を確認するために下を向くと、さっきまで目の前にあったモグラの爪が私の体を貫いていた。


「あっ……」


 そうだ。モグラの爪、五本あるんだった。


 それを認識した途端、体に圧力がかかる。ジェットコースターに乗ってるみたいだ。安全バーも何もついてないけど。


 モグラはすくい上げた私を地面に叩きつけた。


 あっぶねー!

 いや危ないじゃないけど。

 普通にアウトだったけど。


 液体のように撒き散った私の体は、気付くと元の形に戻っていた。ホント、なんだろうねこの体。死なないってズルいよね。分かるー。


 でもさ、やられる度に私は負けを体験している。死ななくても、負けは負け。それってとっっっても、胸糞悪いんだよ。


「悪いけど私は死なないから。何度でも付き合ってもらうよ」


 いやー自分で言っててホンットダセェ!


 私だってこんなやり方は望んでない。理想は一回で打ち負かす事だった。だってこんなの泥仕合じゃん。最終的に私が勝つって決まってる戦いなんて勝負とは言えない。八百長反対。


 でも、仕方ないじゃん。モグラがデカイのだって、私が死なないのだって、不可抗力なんだから。故意でもなんでも、今がそうなら受け入れるしかない。


 だから、じゃないけど、それでも私は、一戦一戦を本気で挑む。

 最後が決まっていても、その間の事は決まっていない。モグラの体力が尽きるその時まで、無様に負け続けるわけにはいかない。いつまでもお前に負けてやるつもりはない。

 私は、華々しく有終の美を飾りたいんだ!


 再び走り出した私にモグラは動かない。でもちゃんと意識は私に向いてて、まっすぐ私を見ている。

 愚直だとか無鉄砲だとか言ったって私の武器はヒーンのみ。どうしても接近しなければ他に手はない。


 モグラの間合いに入った。次はどう来るか警戒するとモグラの体が僅かに下がった。かと思えば巨体がズレて横顔が見える。回転……しっぽの薙ぎ払いか!


 前方に見えた崖に登ってタイミングよく飛び上がる。その下を足場にした崖すら巻き込んでしっぽが通り過ぎる。


 着地失敗!

 相変わらず着地が出来てないけど、それも織込み済みで、素早く立ち上がって走り出す。

 後ろを向いている今がチャンスだ。


「んんっ!?」


 チャンスはピンチだった。高く上がったしっぽが停止して、振り子のように再び戻ってくる。


 往復とか聞いてない!

 周りに崖は……あるわけないよね!

 知ってたよバカヤローっ!


 後ろからの風圧で体が前に放り出される。止まるには勢いが出過ぎてて、顔面から着地した。こんなんばっかだ。

 でも、ギリギリしっぽの付け根に潜り込めた。


 体が下がったのは四肢で踏ん張るためだったんだ。猫が狙いを定めて伏せるのと同じ感じ。それでも完全に伏せてるわけじゃないから腹の下は空間が空いていた。

 モグラにとってはちょっとの隙間でも、はるかに小さい私にとっては巨大な空洞。そして、完全な死角でもある。


 後ろ足に向かって斬りつける。刃が通る。やっぱり鱗がない場所なら攻撃が通るんだ。

 やたらめったらに斬りつける。傷が浅いってか、モグラがデカすぎて擦り傷程度にしかならない。それでも斬った場所から黒い粉が噴出してるから、攻撃は効いてるんだと思う。思いたい。


「っ!」


 斬っていた足が目の前から消えた。

 空振ってすぐに一歩引いて辺りを見渡す 。

 いち、に、さん……足は三本で、斬ってた足だけ見えない。

 どこに……上か!?


 見上げると黒い粉を噴出してる足が見えた。

 モグラが足を上げた。

 方向転換か?

 でも上げた足が横に移動する素振りはない。

 だとすると……まさかっ!?


 案の定、足はまっすぐ踏み下ろされた。走り出してて良かった。じゃないと踏み潰されていた。


 モグラの足が地を踏む衝撃で砂埃と一緒に体が宙に浮く。嫌な予感がして、辺りを見渡す。砂埃が舞って見通しが悪い。不意に上を見上げると、足が見えた。


「なんで、見えてないのにっ、狙ってくるんだよっ!?」


 足踏みが続く。後ろ足付近は死角のハズなのに、上げた足は正確に私を狙っているように感じる。


 動物って種類によって発達している五感が違うんだっけ。じゃあモグラはなんだ!?

 視覚じゃないのは確かだけど……うん。分からん。興味なかったからな!


 躱し続ける私に焦れったくなったのか両足揃って振り上げた。高く高く上がった二本の足を見て、急いで前足の方に向かう。


 あんな巨体が思いっきり踏みつけたら、砂埃程度じゃ済まない。最悪……てか多分、大地震が起きる。


 けど、私の予想に反して、後ろ足は振り下ろされなかった。さらに、直立に近い体勢のモグラがどんどんと下に下がっていく。


「うっそー」


 モグラが地面に埋まっていく。いや、潜っていく。


 そりゃそうだよね!

 モグラだもんね!

 土ぐらい掘れるよね!


 うん。分かってた。

 ……なわけねーだろっ!

 なんだよ潜るって、ズルいぞ。


 マズイマズイマズイ!

 地球のサイズならまだしも、あんな巨大サイズのモグラに穴を掘られたらただじゃ済まない。大規模陥没なんて余裕だろう。それだけで済めばマシってぐらいだ。


 走って走って、走り続ける。どこから出てくるか分からないから、とにかく走って動き続けるしかなかった。


「なっ……?!?!」


 だけど、動く事すら出来なくなった。


 ガクッと地面が下がった。私の周囲の地面が一段低くなった。一段といっても、その高さは軽々と飛び超えれるような高さではなかった。お城の外壁に囲まれているみたいだ。

 そしてグラグラと地面が揺れる。経験した事のない大地震。縦揺れってこんな感じなのか。立ち上がるどころか動く事も出来ない。


 それもそうか。だって震源が、原因が私の真下にいるんだから。あんな巨体が地面を掘り進んで、地上に影響が出ないわけがない。


 モグラが地面に潜るのは云わば必殺技だろう。どれだけ抗っても、文字通り必ず殺される。


 揺れが一段と大きくなって今度は土が盛り上がってる。地面からロケット……爪が出てきたと思ったら、私は宙に打ち上げられていた。


 一つ、不確かな事がある。

 私は死なない。たとえ潰されても、首を斬られても、原型がなくなるほどぐちゃぐちゃになっても死ななかった。

 それでも元に戻るまでに多少の時間はかかる。多分、頭部の損傷度合いによって時間が左右されると思う。ゾンビの生命源は頭部みたいだからね。


 それで、頭部が元に戻らない限り、私は死ななくても動けなくなる。例えば私がずっと永遠に絶え間なく攻撃を与えられたらどうなる?

 体が元に戻る前に壊され続けたら?

 モグラが踏み潰してからずっと動かなかったら?


 詰みだ。完全に詰む。

 生首状態でピラミッドを前にした時と同じだよ。

 自分じゃどうしようも出来ない。


 意識だけがそこにあって、動く事も何も出来ない状態。それこそ、最初の時みたいな感じになるだろうね。


 朦朧とする意識の中で浮遊感に包まれる。


 あれ、私……飛んでる?

 アハハ、空を飛んでるよ。

 なんだ、アイキャンフライ出来るじゃん。


 ねえ、見て、シズクちゃん。

 私、空を飛んでるよ。


 僅かに開いた視界にたくさんのロケットが見える。

 徐々に意識と視界が鮮明になって、絶望的な状況だと気付く。


 ロケットじゃない歯だ。パックリ開いた口の中に落ちていく。


 あっ……食われ…………。






ナギさんすいません!

ちゃんとモグラでしたぁ!!

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