&19.ちょっとだけ慎重
ズブッ
「ヒーン」
スーッ
ズブッ
ヒーン
スーッ
うん。出し入れ超スムーズ。
つっこまないよ。もう何もつっこまないから。
もう何が起きても驚かないわ。並大抵の事じゃ驚かないよ。慣れたから。
……嫌な慣れだ。
さてこの骨刀ヒーンだけど、思ったよりヤバかった。なんとビックリ私の体のどこからでも出し入れ可能だったのだ。
手はもちろんの事、腹胸頭、服の上からでも私の体に右手の指先一本でも触れてたら取り出せれる。その時、口で言わなくても心の中でヒーンと念じでも出てくる。
あれこれすごいのって、私の体じゃね?
ちなみに、右手じゃないとダメだった。手を離して振ってみてもヒーンの方がガッツリ掴んでるから離れない。
んで左手でやったら不発。まあ、右利きだからいいけどさ。拾ったのが右腕だったから? え、そんなの覚えてないけど。
じゃ、じゃあっ、ピラミッドでもう一個、左腕の骨を見つければ二刀流に……?
カッコイー……か?
ヒーンを見る。変な形状の刀(笑)。これをそれぞれ両手に持った私を想像する。
………………ダセェ。
まずこの柄の部分が手ってのがどうしてもやだ。握手とかキモイ。仲良しみたいで引く。
んで次に刃の部分。丸みがあるのはまだいい……いや良くないけど、それよりなにより二本ってのがダメだ。反り返ってるのも同じく。
もうダサ過ぎる。シルエットから異質。
奇をてらえばいいってもんじゃないんだよ。一周回ればカッコよく見えるわけがないでしょ。
初手でアウトだよ。よくよく見てもアウトだよ。何周回ったところでアウトなのは変わらないから。
それに、刀は両手で持ってこそだから。基本こそが最上。基礎を疎かにするやつが強いなんて許さない。そんなのズルい。そう誰かが言ってた。
「はぁー……」
ため息が出る。ため息つくと幸せが逃げるとかよく言うけど、吹けばなくなっちゃうような幸せって何? っていつも思う。幸せって軽いの?
空気が揺らぐのを感じて、首を振る。ヒーンをしまって、両手で思いっきり頬っぺたを叩く。ペチーンと軽快な音を鳴らして立ち上がる。痛くないから、あんまり効果を感じなかった。
「よし。待たせてごめんね、シズクちゃん。行こっか」
「うん!」
気持ちを切り替えて、プチッ探しを再開する。
もう武器、ヒーンの出し方は分かった。次が最後だ。次に会った時がお前の最後だ、プチッ。
だから……だから早く、私の前に現れろー!
プチッを探し始めて一日が経った。いや時間は分からないから適当なんだけど。体感ではそれぐらい経った感じがある。実際はもっと短いと思うけど。多分ね。
なんで探し物ってすぐに見つからないんだろうね。これでいらない時になって簡単に見つかったりするからホントムカつくよね。
イライラをぶつけるように目の前のゾンビをぶん殴る。殴られたゾンビは吹っ飛んで跳ねて、跡形もなく消えていく。
「これで何人目だっけ? ……うん。覚えてないわ。十から数えるの止めたし」
プチッを探し始めてから色々あった。
ゾンビを見かければ殴った。鬱憤晴らしって心の安定剤だよね。
ゾンビはいくら体を傷つけても頭さえ無事なら死なないみたい。トカゲのしっぽ切りみたいだね。首から下がしっぽとかオタマジャクシかよ。
ピラミッドを見つけて入った。テンション上がって入ってみたら、私の体を見つけたのと同じピラミッドだった。
イラッとしてピラミッドを壊してやった。壊した後に骨の事を思い出した。勿体ない事をした。でも後悔はしてない。……ちょっとだけしか。
見えない壁があった。透明な壁っていうか精巧な風景の壁? どこまでも続いていそうに見えるのに、先には行けない。トリックアートってやつ?
多分、ピラミッドに着く前に辿ってた荒野の最果てだと思う。普通に忘れてたわ。体が手に入ってうっきうきでプチッを探しに行ったから。
とりあえずヒーンをぶっ放したけど、何も変わらなかった。当たった感触も音もしたんだけど、へこみすらしなかった。
結構高めの崖を見つけた。登ってテッペンから見渡してもプチッの姿は見えなかった。
プチッはバカみたいにデカイから遠くからでも見えると思ったんだよね。シンボルタワーみたいな感じで。見えなかったけど。
んでついでに飛んだ。飛んでみた。私はアイキャンフライを諦めない。
結果? もちろん落ちたよ。当たり前じゃん。生首でダメだったのに頭より体積のある胴体が増えて落ちないわけがない。両腕で頑張って羽ばたいたけどムダだった。悲しい。
ふぅっと息を吐いて額の汗を拭う。汗かいてないけど。どれだけ激しい動きをしても疲れないっていいね。とっても便利。
「シズクちゃん。とっても今さらなんだけど、聞いてもいい?」
プチッを探しながらシズクちゃんと少しずつ会話を重ねて親睦を深めていた。深めれていると信じたい。
と言っても、シズクちゃんは仕方ないにしても、私もそこまでお喋りじゃないから、なかなか会話は続いてないけど。話し下手なんです。
後、正直に言えば、ネタがない。会話が続かないのはこれのせいだと思う。
だって考えてもみてよ。私はあまり学がない。加えて私自身の事だって覚えてない。となると、話す事は定番の天気だとか目に見える風景の事になる。だいたいそこから話の輪を広げていくよね。
んでここは室内。天気はない。風景もずっと荒野で変わらない。つまり詰み。
シズクちゃんはほとんど何も知らないと思っていい。手を繋ぐ事も分からなかったしね。二人で遊ぶにしても道具も何もないし、触れも見えもしないから厳しい。
それと、シズクちゃんも自分の事が分からないみたい。どこに住んでいたとか趣味や好物を聞いても首を傾げているようだった。まあ、これは私も答えられないけど。
「?」
そうそう。こんな風にね。
静かな時間も嫌ではないけどね。シズクちゃんが居るって知ってるし、会話がなくて気まずいって感じはしない。
ただ、会話する時はちょっとだけ慎重になる。シズクちゃんを不安にさせるのはよろしくないからね。
「シズクちゃんって、どういう人がタイプかな?」
割と結構、いや一番重要な事を聞き忘れてた事に気付いた。返答によっては今後の接し方を変える必要がある。主に私がシズクちゃんに好かれるために。
「たいぷ?」
「うん。一緒に居ると楽しいとか、落ち着くとか、好き……とか。言われて嬉しかった事やいいなって思った事、なんでもいいからあったら教えて欲しいな」
なんでもバッチコイ。シズクちゃんのためならどんな努力も苦じゃないぜ。あ、でも知的とか強引な人とか言われたら厳しい。あまり学はないし、シズクちゃんに嫌われたくないから強気に出れない。
弱虫とか言うな。シズクちゃんが可愛いんだから仕方ないでしょ。可愛い人には優しくしたいの当たり前でしょ。ちょっとでもやだなみたいな態度を取られたら私泣いちゃう。絶対泣く。
「んー…………さめじぃ」
「うん。なあに?」
内心ドッキドキなのを隠して笑顔を向ける。どうしよう。めっちゃドキドキ言ってる。
「たいぷ、さめじぃ」
「…………へ?」
音が消えて、頭が真っ白になった。シズクちゃんの言葉が何度も頭の中で再生される。
タイプ、さめじぃ。
それってまさか……自意識過剰じゃないと思っても、いい? いいよね!?
思い違いじゃ、ないよね……?
「いっしょ、うれしい。たのしい」
「! くぅ……!」
こんな……こんな事って……!
こんな嬉しい事があっていいのか!!??
言葉一つでこんなにも幸せな気持ちになれるなんて、シズクちゃんはなんて可愛い人なんだ!
うぅ、顔がニヤける。嬉しくて顔がゆるゆるになってる。今絶対、私変な顔してる。
でも、嬉しい。とても嬉しい。
「さめじぃは?」
両手で挟んで頬をぐにぐにと動かす。シズクちゃんに変な顔を見せるわけにはいかない。頑張れ、私のポーカーフェイス。
「私のタイプは、可愛い人だよ」
私とシズクちゃんは相思相愛だ。やった!




