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&dead.  作者: 猫蓮
22/143

&T3.魔族の力

 魔王になれない。


 そう言われて気持ちが沈む。

 勇者じゃダメなんだ。勇者じゃなくて魔王じゃないと、アイを助けれない。


 とりあえず、家に帰ろう。

 急にいなくなっておじさんもおばさんも心配してるだろうし。

 それで、アイの家に行こう。


「あの、家に泊めてくれて、ありがとうございました。おれ、家に帰ります。それで、ここってどの辺ですか?」


 そう聞いたら、みんなが驚いた顔をする。


 え、なに?

 帰っちゃダメなの?


「勇者の家って……」


「あるか?」


「聞いたことないけど」


 大人たちがとなりの人と顔を合わせて首を横に振る。


 なんだろ……なんかわかんないけど、困らせた?

 でも、ここにいる人みんな知らない人だし、おれの家の場所知らなくて当たり前だと思うけど……。


「あの、地名だけ教えてくれればいいので……」


 家の近くだったらわかるから、一人でも帰れる。


「ここはイスリンよ」


 ……どうしよう。聞いたことない地名だ。


「いす……? えっと……」


「魔族が住む地、イスリンです」


 んん? 外国?


「ま、ぞく?」


「ウソっ!? 魔族も知らないの!?」


 金髪の女の人が驚いたような声を上げる。


 え、知らないけど……。


 うん、と頷くと今度はみんなして「えぇぇえええ!!??」と大声を出した。


 なんか、ごめんなさい?



 * * *



「えーっと? つまり……タロウは日本という世界に住んでるニンゲン? という種族だと……?」


 疲れた顔して頭を押さえたカナリアさんが確認するように聞く。


「う、うん……?」


 なんか違う気がするけど、よくわからないし、なんとなく合ってそう。

 そう思って頷くと「ハア〜〜」って大きなため息をついた。


「ダメ。アタシ、パス。もう意味が分からないわ。スミ、後よろしく」


「ええっ!? ちょっと、カナリア〜」


 スミさんが机に寝たカナリアさんの体を揺らす。


 よくわからないけど、おれのせいでとても疲れさせたみたい。

 なんか、ごめんなさい。


 黒髪の人がスミさんで、この家の人。金髪の人がカナリアさんで、スミさんの隣の家の人だと言った。

 今は二人だけが残って、他の人は家から出ていった。


 それで、いろいろと話してわかったのが、ここは日本でも地球でもないこと。それどころか、人間もいないって。……どういうこと?

 勇者と魔王がいるってことは、おれゲームの世界に入ったってこと? どうやって?


 うーんと考えてると咳払いが聞こえて、下がっていた頭を上げる。目の前には机に寝ているカナリアさんと口に手を当てたスミさん。咳払いはスミさんが出した音みたい。

 目を開けたスミさんと目が合う。


「えっとね、ここには魔族と鬼族(きぞく)しかいないの。でも勇者はそのどちらの特徴も、力も持たない。タロウの言うニンゲン? が勇者のことなら、多分だけどニンゲンはタロウしか居ないと思うわ」


「そんな……」


 それじゃあ、この世界にアイはいない?

 でも、じゃあなんで、お母さんはいたの……?


「あっ、えっと、でもね! 今みんなに聞いて回ってもらってるけど、確証はないのよ!? ただ、私たちがタロウに会うまで勇者を見たことがなかったの。勇者という存在が伝承にあるから、もしかしたらタロウの他にも勇者が居るかもしれないわ」


 あ、おれが落ち込んでるからスミさんに気を使わせちゃった。こんなんじゃダメだ。首を振って、笑顔を見せる。


「『エスウォーブ』。これが大陸の地図なんだけど、ここが……」


「ちょっ、ちょっと待って!」


 説明しようとするスミさんを慌てて止める。「どうしたの?」とフシギそうに頭を傾けてるけど、なんでそんな冷静なの!?


「そっ、それ! なに!?」


 突然空中に出てきた絵を指さす。ビックリギョーテンのおれとは反対にスミさんはキョトンとしている。顔を上げたカナリアさんもスミさんと同じ反応をしてる。


「これは大陸の地図よ」


 そうだけど! そうじゃなくて!


「どうやって出したの?」


 突然パって出てきた。それに、こうやって話してる間もずっと宙に浮いたままだ。


「どうって、魔力よ? ……あ、そっか。タロウは勇者だから魔力がないのね。これが魔力……魔族の力よ」


 片方の手を胸に当て、もう片方の手を空中の地図に向ける。


「フッフーン! 他にも出来るわよ。『エカフス』」


 元気になったカナリアさんが勢いよく立ち上がる。手を前に出して得意げに言う。


 すると、家が揺れた。


「うわっ、なに?! じ、地震!?」


「ちょっとカナリア! 止めてよ!」


 スミさんが声を荒らげると揺れが止まった。


「タロウ、出てきていいわよ。 ていうか、なんで机の下にいるの?」


 カナリアさんの声に机の下から出る。よいしょっと椅子に座り直す。


「え? だって地震が起きたら机の下に隠れるだろ?」


 学校の避難訓練でやってるし。

 頭を傾けるカナリアさんに、おれも頭を傾ける。


「とにかく、今のが魔力よ。話を戻すけど……戻していいわよね? ここが今いるイスリン」


 頭を傾けるおれとカナリアさんを無視してスミさんが話を進める。地図の左を指さす。


 え!?

 待って待って!

 魔力って、あのっ、魔法ってこと?

 火の玉ボーンとか、カミナリ落ちてドッカーンとかの魔法?


戦鬼(せんき)毒鬼(どくき)の領地サスマー」


 慌てるおれを放って、スミさんは地図の上を指さしてどんどん説明を進める。


悪鬼(あっき)妖鬼(ようき)の領地エストファ」


 地図の右を指さす。


血鬼(けっき)堕鬼(だき)の領地ノスター」


 地図の下を指さす。


「イスリン以外は鬼族の領地だから、私たちは知らないの。だから、もしかしたらタロウの他に勇者がいるかもしれないわ」


 おれの名前が出てきて、ハッとする。


「スミ、あまり期待を持たせるようなことを言わない方がいいわよ。鬼族は魔族を同じ生物と思っていないもの。だから、勇者を見つけて何もしないとは考えられないわ」


「カナリアっ! そんなこと言わなくても……」


 スミさんが眉を寄せてカナリアさんに怒る。

 あれ、なんでケンカして……?


「う、ううん! 教えてくれてありがとうございます。おれ、他の場所? に行ってみます」


 ケンカになる前に話を進める。ケンカはダメ。


 正直、スミさんが言ったこと全然わかんなかった。ちんぷんかんぷんだった。

 アイだったらすぐにわかるのかな? アイは頭よくて、勉強できて、難しい言葉を知ってるから。


 話はわからなかったけど、ここにいてもアイに会えないってのはわかった。だったら、探しに行くしかない。


「タロウ……外は危ないわ。危険がいっぱいなのよ?」


 スミさんの顔が暗い。心配してくれてるってのはわかるから、大丈夫って笑って頷いたけど、まだ暗い顔。


「スミ、本人がそうしたいのなら好きにさせればいいじゃない」


「カナリア……っ?!」


 冷たく言うカナリアさんにスミさんが声を荒らげる。でもスミさんはすぐにだまった。それは、カナリアさんが真剣な顔でまっすぐおれを見ているから。


「でもね、タロウ。アタシもそれはオススメしないわ。言ったでしょ? 勇者はなんの力も持たないって。鬼族に……魔族にも、タロウは対抗できないのよ」


 言い聞かせるように目を見て話す。カナリアさんもおれを心配してくれていた。 


「それでも」


 危険でも、おれはアイに会いたい。


 そう言おうとしたら、スミさんが手を叩いた。


「今は気が動転しているのよ。少し休んで、それから改めて今後のことを決めても遅くないと思うわ。ほら、タロウはここに来たばかりで何もわからないでしょう?」


 それは……そうかも。

 日本と違うから、魔法とかがあるから、そういうのを知ってた方がいいかもしれない。


 ちゃんと、わかるようになるかな……?






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