&T3.魔族の力
魔王になれない。
そう言われて気持ちが沈む。
勇者じゃダメなんだ。勇者じゃなくて魔王じゃないと、アイを助けれない。
とりあえず、家に帰ろう。
急にいなくなっておじさんもおばさんも心配してるだろうし。
それで、アイの家に行こう。
「あの、家に泊めてくれて、ありがとうございました。おれ、家に帰ります。それで、ここってどの辺ですか?」
そう聞いたら、みんなが驚いた顔をする。
え、なに?
帰っちゃダメなの?
「勇者の家って……」
「あるか?」
「聞いたことないけど」
大人たちがとなりの人と顔を合わせて首を横に振る。
なんだろ……なんかわかんないけど、困らせた?
でも、ここにいる人みんな知らない人だし、おれの家の場所知らなくて当たり前だと思うけど……。
「あの、地名だけ教えてくれればいいので……」
家の近くだったらわかるから、一人でも帰れる。
「ここはイスリンよ」
……どうしよう。聞いたことない地名だ。
「いす……? えっと……」
「魔族が住む地、イスリンです」
んん? 外国?
「ま、ぞく?」
「ウソっ!? 魔族も知らないの!?」
金髪の女の人が驚いたような声を上げる。
え、知らないけど……。
うん、と頷くと今度はみんなして「えぇぇえええ!!??」と大声を出した。
なんか、ごめんなさい?
* * *
「えーっと? つまり……タロウは日本という世界に住んでるニンゲン? という種族だと……?」
疲れた顔して頭を押さえたカナリアさんが確認するように聞く。
「う、うん……?」
なんか違う気がするけど、よくわからないし、なんとなく合ってそう。
そう思って頷くと「ハア〜〜」って大きなため息をついた。
「ダメ。アタシ、パス。もう意味が分からないわ。スミ、後よろしく」
「ええっ!? ちょっと、カナリア〜」
スミさんが机に寝たカナリアさんの体を揺らす。
よくわからないけど、おれのせいでとても疲れさせたみたい。
なんか、ごめんなさい。
黒髪の人がスミさんで、この家の人。金髪の人がカナリアさんで、スミさんの隣の家の人だと言った。
今は二人だけが残って、他の人は家から出ていった。
それで、いろいろと話してわかったのが、ここは日本でも地球でもないこと。それどころか、人間もいないって。……どういうこと?
勇者と魔王がいるってことは、おれゲームの世界に入ったってこと? どうやって?
うーんと考えてると咳払いが聞こえて、下がっていた頭を上げる。目の前には机に寝ているカナリアさんと口に手を当てたスミさん。咳払いはスミさんが出した音みたい。
目を開けたスミさんと目が合う。
「えっとね、ここには魔族と鬼族しかいないの。でも勇者はそのどちらの特徴も、力も持たない。タロウの言うニンゲン? が勇者のことなら、多分だけどニンゲンはタロウしか居ないと思うわ」
「そんな……」
それじゃあ、この世界にアイはいない?
でも、じゃあなんで、お母さんはいたの……?
「あっ、えっと、でもね! 今みんなに聞いて回ってもらってるけど、確証はないのよ!? ただ、私たちがタロウに会うまで勇者を見たことがなかったの。勇者という存在が伝承にあるから、もしかしたらタロウの他にも勇者が居るかもしれないわ」
あ、おれが落ち込んでるからスミさんに気を使わせちゃった。こんなんじゃダメだ。首を振って、笑顔を見せる。
「『エスウォーブ』。これが大陸の地図なんだけど、ここが……」
「ちょっ、ちょっと待って!」
説明しようとするスミさんを慌てて止める。「どうしたの?」とフシギそうに頭を傾けてるけど、なんでそんな冷静なの!?
「そっ、それ! なに!?」
突然空中に出てきた絵を指さす。ビックリギョーテンのおれとは反対にスミさんはキョトンとしている。顔を上げたカナリアさんもスミさんと同じ反応をしてる。
「これは大陸の地図よ」
そうだけど! そうじゃなくて!
「どうやって出したの?」
突然パって出てきた。それに、こうやって話してる間もずっと宙に浮いたままだ。
「どうって、魔力よ? ……あ、そっか。タロウは勇者だから魔力がないのね。これが魔力……魔族の力よ」
片方の手を胸に当て、もう片方の手を空中の地図に向ける。
「フッフーン! 他にも出来るわよ。『エカフス』」
元気になったカナリアさんが勢いよく立ち上がる。手を前に出して得意げに言う。
すると、家が揺れた。
「うわっ、なに?! じ、地震!?」
「ちょっとカナリア! 止めてよ!」
スミさんが声を荒らげると揺れが止まった。
「タロウ、出てきていいわよ。 ていうか、なんで机の下にいるの?」
カナリアさんの声に机の下から出る。よいしょっと椅子に座り直す。
「え? だって地震が起きたら机の下に隠れるだろ?」
学校の避難訓練でやってるし。
頭を傾けるカナリアさんに、おれも頭を傾ける。
「とにかく、今のが魔力よ。話を戻すけど……戻していいわよね? ここが今いるイスリン」
頭を傾けるおれとカナリアさんを無視してスミさんが話を進める。地図の左を指さす。
え!?
待って待って!
魔力って、あのっ、魔法ってこと?
火の玉ボーンとか、カミナリ落ちてドッカーンとかの魔法?
「戦鬼と毒鬼の領地サスマー」
慌てるおれを放って、スミさんは地図の上を指さしてどんどん説明を進める。
「悪鬼と妖鬼の領地エストファ」
地図の右を指さす。
「血鬼と堕鬼の領地ノスター」
地図の下を指さす。
「イスリン以外は鬼族の領地だから、私たちは知らないの。だから、もしかしたらタロウの他に勇者がいるかもしれないわ」
おれの名前が出てきて、ハッとする。
「スミ、あまり期待を持たせるようなことを言わない方がいいわよ。鬼族は魔族を同じ生物と思っていないもの。だから、勇者を見つけて何もしないとは考えられないわ」
「カナリアっ! そんなこと言わなくても……」
スミさんが眉を寄せてカナリアさんに怒る。
あれ、なんでケンカして……?
「う、ううん! 教えてくれてありがとうございます。おれ、他の場所? に行ってみます」
ケンカになる前に話を進める。ケンカはダメ。
正直、スミさんが言ったこと全然わかんなかった。ちんぷんかんぷんだった。
アイだったらすぐにわかるのかな? アイは頭よくて、勉強できて、難しい言葉を知ってるから。
話はわからなかったけど、ここにいてもアイに会えないってのはわかった。だったら、探しに行くしかない。
「タロウ……外は危ないわ。危険がいっぱいなのよ?」
スミさんの顔が暗い。心配してくれてるってのはわかるから、大丈夫って笑って頷いたけど、まだ暗い顔。
「スミ、本人がそうしたいのなら好きにさせればいいじゃない」
「カナリア……っ?!」
冷たく言うカナリアさんにスミさんが声を荒らげる。でもスミさんはすぐにだまった。それは、カナリアさんが真剣な顔でまっすぐおれを見ているから。
「でもね、タロウ。アタシもそれはオススメしないわ。言ったでしょ? 勇者はなんの力も持たないって。鬼族に……魔族にも、タロウは対抗できないのよ」
言い聞かせるように目を見て話す。カナリアさんもおれを心配してくれていた。
「それでも」
危険でも、おれはアイに会いたい。
そう言おうとしたら、スミさんが手を叩いた。
「今は気が動転しているのよ。少し休んで、それから改めて今後のことを決めても遅くないと思うわ。ほら、タロウはここに来たばかりで何もわからないでしょう?」
それは……そうかも。
日本と違うから、魔法とかがあるから、そういうのを知ってた方がいいかもしれない。
ちゃんと、わかるようになるかな……?




