&18.単純だった
地面に両膝両手をついて頭を下げる。
「なんで……?」
意味が分からなかった。分かりたくなかった。分かったら負けた気がするから。だから、知らないフリをしようとする。気付かないように心を塞ぐ。
でも、分かってしまう。どうしても、気付いてしまう。
悔しい。とっても悔しい。
またプチッてされた。しかも続け様に二回も。連続で!
簡単にやられた。まだ弱い者認定されてる。せっかく体が手に入ったのに。武器も手に入ったのに。舐められてる。ムカつく。
ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくーゥ!!!
「あーっ!」
頭を掻きむしる。それでもイライラは止まらない。
この怒りをぶつけたい。あのプチッにやり返したい。激怒の衝動に身を任せて、破壊衝動のままに手当り次第暴れたい。
八つ当たりだって分かってる。無意味だって事も分かってる。それでも、そうでもしないと、この気持ちに収まりがつけられない。
「っ!?」
頭に触れる私の手じゃない感覚。
撫でられる。
誰? なんて、そんなの決まってる。だってここにはシズクちゃんしか居ない。こんなに嬉しいと感じるのはシズクちゃんの他に居ない。
私の心はバカみたいに単純だな。
プチッてされて猛烈に怒って、シズクちゃんに優しくされたら、コロッと嬉しいでいっぱいになる。
ウソみたいな変わり様に私自身が驚いている。
私はこんなに単純だったのか。
私はこんなに幼稚だったのか。
『いいか、ナギ。自分の心にだけはウソをつくな。それは自分自身を否定するって事なんだ。それだけはしちゃダメだ。だから―――』
だから…………ダメだ。その先は思い出せない。誰かが何か、大切な事を言っていたような気がするけど、思い出せない。モヤがかかって頭がぼんやりする。
でも、そっか。いいんだ。単純でもなんでも。これが私の純粋な気持ちだから。
隠す必要もごまかす必要もない。怒り恨む気持ちと、愛し慈しむ気持ちは別の対象だ。だから目の前の人に対する感情で満たされたっていいんだ。
だから、今はこのナデナデを存分に堪能しよう。
あぁー気持ちーい!
ふふっ、しーあーわーせー。
背中に触った時も思ったけど、シズクちゃんの手つきは慣れていないのか、ぎこちない。最初はツンツンだったしね。
あ、それは私が生首だったからか。……え、シズクちゃんって意外にチャレンジャー? そういうの大丈夫な人? ……って、そっか。全てが新鮮だもんね。好奇心旺盛で可愛い。でもそこらへんの草とか虫を触って口に入れないように注視しないと。見えないけど。
慣れてなくても、好奇心でも、それでも触ってくれるのがとてもとても嬉しい。触ろうとしてくれるシズクちゃんがとてもとても可愛い。
胸の辺りがギューってする。けど、痛くない。苦しくない。心臓ないけど。
初めて知った。嬉しいで胸がいっぱいだと、締めつけられるような感じになるんだ。心が辛い。シズクちゃんが可愛過ぎて、今すぐ抱きしめたい。腕の中に閉じ込めて、全身でシズクちゃんを感じたい。
「さめじぃ?」
心配するような声にハッとする。
気持ちが昂って体が震えていた。禁断症状かよ。
いや、禁断症状だよ。だってこんなにシズクちゃんが可愛いのに触る事はおろか、見る事も出来ないんだよ!?
どんな罰だよ。禁欲だよ。私の純粋な心を弄びやがって。あ、シズクちゃんは悪くないからね。悪いの全部科学者だから。
あう、頭に触れる触感がなくなった。まだまだシズクちゃんを感じていたかった。もうちょい、もうちょっとだけナデナデして……。
フッと小さく息を吐く。頭を切り替える。
寂しい顔をしちゃダメだ。悲しい気持ちを見せちゃダメだ。シズクちゃんを不安にさせるのはいけない。それは誰も望んでない。
やっぱりシズクちゃんの体を一番に探そう。うん。
「シズクちゃん、慰めてくれてありがとう」
顔を上げて、笑顔で伝える。嬉しかったのはウソじゃない。ちょっと、いやだいぶ物足りなかっただけで。
「……あっ、う、うん!」
うん? 焦ってる? どうしたんだろう?
「えへへ」
口を開いて声を出す前に、シズクちゃんの可愛い可愛い照れたような笑い声が聞こえて撃沈する。
「うぐぅ……」
なにこれヤバイ。可愛いが私を殺しに来てる。
上げた顔を再び下げて俯く。さらに手で口を覆う。
ダメだ。体の震えが止まらない。ニヤケが止まらない。変な声が漏れ出そうになるのは気合いで抑えてるけど。
「ふ……くふっ……んふふ……」
これでも頑張って抑えてる。ゴロゴロと転がってジタバタと荒れ狂う喜びを体で表現したいところを抑えてるんだ。結構な努力だよ。
「…………ふぅ」
気持ちが落ち着いたところでその場に座り込む。シズクちゃんのおかげで気持ちの整理はついた。とりあえずシズクちゃんは可愛い。とっても可愛い。これ最重要。
んで、冷静になったところで今さっき直面した問題について考える。
「出て来い、骨」
もう一度、手を合わせて骨を引き抜くイメージで右手を引く。でも、やっぱりそこには何もなくて、空を切る。
むーん。なんで?
あの骨が体の中に入ってる感覚はある。でも取り出せない。いや取り出せちゃダメなんだけどね。本来は。
でもこの骨は違うし。てかそもそも、私の体に骨ってある? 手を触っても骨らしき硬い感触がしないんだけど。ぷにっとした弾力しか感じないけど。
ま、まあ、それは今は置いておこうか。私の体は不思議でいっぱい。そういう事にしておこう。
「出ろ! シャキンっ! ふんっ! ……あ、やべ」
左手首を掴んで引いたら、肘のところからスポンッと抜けた。慌ててくっつけたら戻ったけど。危ねー。セーフ。
ついでに腕の断面に骨は見えなかったし、血も出なかったけど。ホント不思議ー。
さて困ったぞ。
武器がどっかいった。
ミッションワーン、行方不明の武器を探せ。
またピラミッドに戻って調達する?
でもどこから来たか覚えてないし、ここからピラミッドは見えないし。
何か特別な文言が必要とか?
呪文みたいな。
いや、そんなの知らんけど。ピラミッドには書いてなかった。うん。
「英語とか? 出ろ……出る? えーっと…………ポン!」
不発。
「チー! カン! ツモ!」
不発。不発。不発。
えー、どれもダメぇ?
みんながよくコソコソと遊んでる時に聞こえてきた言葉だけど、違うのかー。
結局、一回も入れさせてくれなかったんだよね。部屋に入ろうとするといっつも邪魔が入るから、なんの遊びをしてるのかも知らない。聞いても教えてくれないし。酷いやつらだ。
「どうすりゃ出てくるんだ?」
うんうん唸って、思いついたのを手当り次第試してるけど、骨は一向に出てこない。チョロっと、先っぽだけでも出てくれれば引っこ抜けるのに。
「なんで出てこないんだよ骨〜。反抗期か?」
左手をぺしぺし叩く。
反動でぴょこっと出てきてもいいんだよ?
ほら、せーの、ひっひっふー。
「さめじぃ」
「なあに? シズクちゃん」
脊髄反射のように反応する。そりゃシズクちゃんに名前を呼ばれて反応するなって方がム、リ…………あ。
あーっ、名前?!
あの変な声も名前のどーたらって言ってたよな!?
え、そういう?
何それ。意固地。
「名前って、え、名前? もしかして……あれ? あれの事?」
ゴクリと唾を飲み込む。まさかなという気持ちとマジかよという気持ちが肩を組んで親指を立てる。
「………………ヒーン」
小さく呟くと、右手が掴まれる。静かに手元を見下ろすと、左腕から出ている骨の手と握手していた。ワオ。
そのまま右手を引くと刀身が露わになる。
その白い骨刀を前に、なんとも言えない微妙な気持ちになった。
マジか。いや、マジかー。
堪らず左手を額に当てる。
なんっ、えー。ちょっとショック……てか、ダセェ。めちゃくちゃダセェ。
もっといい名前なかった? ホネとか、シロとか。……うぅ、どうせ名付けセンスなんてないですよーだ。いーだ。分かりやすくていいじゃん。分かりやすい方がいいじゃん。悪いかコノヤロー!
まあ、なるほどね。そーかそーか。だから刀なのか。私が骨董品とかけて骨刀ヒーンなんて言ったから、その通りになったと。
はっはーん、謎。
いや……待てよ。
もしかして、ハンマーになったり……する?
「骨ハンマー……ピコピコ」
………………。
変化なし。
なんだよ。私が恥かいただけじゃん。ふざけんなよ。期待させんな?
……はあ。




