&17.お先真っ暗
「…………なにこれ」
その光景に目を疑った。
「ねえ、シズクちゃん。ここってずっとこんな感じだった?」
「? ……うん!」
質問の意味を分かってるのか怪しいけど、元気のいい返事が返された。可愛い。シズクちゃんの可愛さで全てがどうでも良くなる。
……良くなっちゃダメだけど。頑張れ、私の心。
さて、目の前の光景。
焦土。人。生首。
以上。うん。
…………うん。スゴいね。
もう感想がそれしか出てこないわ。人って驚き過ぎると逆に冷静になるんだって。そうじゃなくても私は常に冷静だけどね。だから特に普段と変わりないけどね。別に強がりじゃないから。違うから。
それじゃあ冷静な私による現状確認を始めようか。
まず焦土。
ピラミッドから見た景色は砂漠のような黄色い砂だったんだけど、少し離れると地形が変わった。焼け焦げたような茶色と黒の土。ところどころ煙も上がってる。植物もあるにはあるけど、葉っぱとかはない裸の木で、こっちも燃えたのか黒かった。緑は少しもない。
次に人。
動きが鈍くてカクカクしている。見た目も焼かれたような爛れた肌をしてる。これは前に見たのと同じだからそこまで驚きは……ありました。いやだって、あの人だけだと思うじゃん。みんなだとは思わないじゃん。
最後に生首。
結構転がってた。ちょっと大きい石かなって思ったやつ全部生首だったわ。どこを見ても一つは視界にあるぐらい転がってたわ。以前の私もあんなだったんだなって思うとなんとも言えない気持ちがする。首なしも歩いているし、生首が転がってるのも普通にキモイ。
総評、ゾンビの焼却場。
これ正解でしょ。いやー、私ってなんて頭がいいんだ! IQ100点だね。天才だね。
まあ、私が天才なのは今に始まった事じゃないから良いとして……問題はゾンビだね。
ミイラ。科学者が私利私欲のために生涯かけて研究した不老不死。その薬で人体実験をするために哀れなモルモットとなる者たちが捕らえられた。サンプルは多い方がいいもんね。そして実験の末、未完成の薬によってモルモットは体は朽ちるが死なない、中途半端なゾンビとなった。
……ん?
てことは私、モルモットにされたの?
実験に使われて、ゾンビにされた?
記憶が曖昧なのは薬の副作用か実験のショックによるもの? 感覚がないのも、それが原因?
ウソでしょ……。誰かも知らないオッサンに私の体が無体に扱われたって事!?
い、嫌過ぎる。気持ち悪い。
でも、私は他のゾンビとは明確に異なる部分がある。それが意識と肌。
ゾンビには自我がないように見える。試しに話しかけても肩を叩いても無反応だった。ちょっと勇気がいったよ。怖いってか、キモイじゃん。見た目が精神攻撃してくるんだよ。
それと、焼かれたような肌。私の体はキレイな肌だった。顔は見えないけど、少なくとも首から下は焼かれてない。頭も触った感じでは大丈夫そうだけど、痛覚がないからなんとも言えない。ちゃんと髪の毛はあった。
つまり、不老不死の薬は完成していた?
完成したから、自我があって、老いなくて、死ななくて、幸せだろって?
ハッ、こんなの皮肉だ。
勝手に私の体に手を出して、良い結果になったから喜べって……ふざけてる。
私は不老不死になりたいなんて思った事はないし、夢見た事もない。魅力は全然感じないし、興味もない。
まず第一に、勝手にやられたってのがめっちゃくちゃにムカつく!
ここに居る人はみんな、その科学者の実験体に…………は?
それじゃあ、シズクちゃんも?
は?
マジでふざけてる。許さない。こんな可愛い人をよくも分からない薬の実験体にするなんて……クズ野郎。
よし分かった。
倒すべき敵は二人だ。プチッと科学者。絶対見つけ出して、ぶん殴ってやる。地の果てまで追いかけてやる。この私から逃げられると思うなよ。
「シズクちゃん。私、頑張るからね」
「? ……うん!」
何か分からなくても元気のいい返事が返ってくる。うん。可愛い。
ほっこりニコニコしていたら、「あっ」というシズクちゃんの声につられて、顔を上げる。どうしたんだろうと思った矢先、目の前が真っ暗になった。
「あっ」
プチッ
まただー。デジャブだー。最初と同じじゃん。
タイミング!!
何!?
タイミングを見計らってる?
監視でもしてるの?
実験体にプライバシーはないってか!?
ふざけんなバーカ!
プチッは科学者と共犯なのか?
いや、その科学者が作ったとか?
……ありえる。大いにありえーる。
まあでも、どっちにしてもやる事は変わらないけどね。どっちもぶん殴るから。
……はっ!
「待てっ!」
振り返って走り出す。良かった。まだプチッはそんなに離れてない。これなら追いつける。追いついて、積年の恨みを晴らしてやる。
走ってる中でやっぱり、と一つ確信した事がある。
ありがたい事にこの体は疲労を感じないようだ。走るスピードは変わらないけど、逆に言えば一定の速度で走り続ける事が出来る。これは結構な利点だ。
……利点、だけど。
「くっそ! 離されていくっ!」
走っても走っても追いつけない。それどころか、どんどん離されているように見える。プチッがデカイから、距離感をうまく掴めなかった。
普通に考えれば、ひき逃げした車を追いかけるようなものだ。そりゃあムリな話だ。加えて、デカさから一歩の感覚も大きい。転がるプチッに一歩も何もないけど。
そして私、頑張って健気に走ってるナウ。
完全に止め時を失いました。
だから、ムダだと思っててもまだ走り続けてる。
ここで止まったら諦めた事になって、それは癪に障る。
「ああっ! シズクちゃん!!」
キキーっと急ブレーキして振り返る。
しまった。シズクちゃんを置き去りにしてしまった。癪とかプライドとか、そんなのどうでもいい。
「シズクちゃーん!!」
忘れてたわけじゃない。断じて違う!
でも、ずっと一人だったからさ、誰かがいる感覚がまだ慣れてないんだよ。
うん。言い訳です。ガンガン言い訳です。
でもでも、忘れてたわけじゃないのはホントだから。ね、今こうして止まってるから。セーフだから!
「シズクちゃん、どこ! 居るなら返事をして!!」
姿が見えないから、声を聞かないとどこに居るかの判断が出来ない。焦る気持ちが最悪な未来を想像する。不安を掻き立てる。どうか……どうか!!
「さめじぃ」
良……かったぁ。居る。ちゃんと居るよ。
シズクちゃんの変わらない声に安心して、ホッと息を吐く。生きた心地がしなかった。ホントに焦った。
「後ろ」
安心したのもつかの間、後に続いた言葉に意識が引っ張られた。
言われた通りに後ろを振り返ると、思わず「うえっ!?」と変な声が口から出た。
プチッがなぜか、こっちに向かってきてる。
おかしいなー。さっきまで私が追いかける側だったけどなー? いつの間に方向転換したのかなー!?
まあでも、ちょうどいい。こっちに来ると分かってるなら迎え撃つまでだ。
前までのひ弱な私だと思うなよ。今の私には体がある。武器がある。……骨だけど。
「出て来い、骨!」
左手のひらに右手をつける。刀を抜くイメージで右手を引く。
「…………あれ?」
出てこない。
目を丸くして、何もないから、前が見えた。
お先真っ暗、潰される五秒前。……デジャブ。
「あっ」
プチッ




