&16.痛みはない
右手をマジマジと見る。いや、右手に持っている物というか、右手の先というか。まあとにかく、それを見る。
握手してるみたいに繋がれた骨の手。その手首からは長さ違いの細い骨が二本伸びている。長い方は刀のように反り、短い方は剣のようにまっすぐだ。長い方は多分、腕の骨二つ分が合わさったんだろうけど、肘部分の繋ぎ目はない。
骨のような丸みがありながらちゃんと刃はついている。ってか刃物みたいな鋭さがある。切先はバールのように反り返っているのは骨の端の丸い部分の影響だろうか。うん。
「変なの」
観察した結果、口から漏れ出た感想がそれだった。
それ以外に言いようがなかった。だって変じゃん。
まずなんだよ。柄が手って。握手とかやめろ。気持ち悪い。私、刀は両手でしか持った事ないんだけど。片手で扱ったことないんだけど。羽のような軽さだからまだいいけどさ。
次に刃。二本とかどうなってんの? なんか、トナカイの角みたいな形だけどちゃんと切れる? 短い方とかどう使えばいいんだよ。
「あっ」
取 れ た。
短い方をいじってたらスポッて取れた。それはもうキレイに取れたよ。
えー、なにこれ不良品?
ちょっとやめてよそういうの。
「うわっ、くっついた。……どうなってんの? これ」
ブンブン振っても取れないぐらいにはしっかりくっついてるけど……一回取れたからな。硬い物に叩きつけたら簡単に折れそうで心配なんだけど。骨だし。
「まさかね…… ……あ」
長い方も取れました。同じようにスポッて取れたわ。
えー、なにこれそういうもの?
ホントにどういう原理?
試し斬りしたいような怖いような。一回だけとかないよね? そんな武器、全く使えないけど。
なんなら今壊して全部なかった事にしてもいいわ。……あ、それいいかも。採用。
壁に近付く。うん。デカイな。私が小人になったって言われても信じちゃうぐらいにはデカスケール。
むーん。袈裟斬りだと……難しいかな。
…………よし。いっちょぶっ放しますか。
壁から一歩分だけ距離を空けて真右を向く。右足を肩幅より大きく開いて力を入れやすいように重心を下げる。右手を大きく振りかぶってギュッと握る。
……握りやすいな。
「せーの、おりゃああ!」
ドゴォォォーン
体の捻りや諸々の勢いをつけて思いっきり壁に叩きつけた。
斬るじゃない。叩きつけた。
それはもうバットでぶん殴るぐらいの扱い様だ。
骨だし。……関係ないか。
強い衝撃が体に伝わる。痛みはない。けど、右腕から全身にかけて震える感覚がある。痺れかな。
痛覚が感じないからか変な感覚だ。まあ、ありがたいからいいけど。
「わぁー、すごーい!」
シズクちゃんが感嘆の声を上げてパチパチと拍手する。
「ほぁー」
うん。私もビックリ。ビックリし過ぎて気の抜けた声が出るぐらいビックリした。
壁が壊れた。軽く叩いた感じでは結構硬いと思ったんだけど。しっかりとした石って感じ。ほら、崩壊部分の厚みを見ると結構あるし。
んで、骨。なんとこれ壊れてないんだ。欠けてもなさそうだし、丈夫な骨だ。カルシウムをたくさん摂取した人だったのかな。
私がやった事なんだけど、全然現実味がない。
うん。なんで?
「さめじぃ、すごい!」
「えへへ、ありがとう。シズクちゃん」
まあ、いっか。シズクちゃんに褒められたし。それだけで頑張った甲斐があるってもんよ。
穴が空いた先は通路になっていた。多分、ピラミッドに入って最初に見た別れ道のどっちかだろう。辿れば入口に戻れるかも。
「それじゃあシズクちゃん、行こうか……あ」
右手を差し出して、骨を握っている事に気付いた。
どうしよう、これ。
鞘はない。あっても形やばそうだし。
腰帯に差しておく? ちょうど二又に分かれてるし。
あ、でも帯が切れたら困る。これ、どこまで刃がついてるんだろう。
「……あ」
二本の刃の間に指を入れると、そのままキレイにスパッと指が切れた。わー、豆腐を切るような柔らかさ。
……じゃなくて!
えっと、これどっちが問題?
刃先が切れ味超抜群なのか、私の体が豆腐のように柔らかいのか。
え、どっちも? ウソでしょ!? ウソだと言って……。
「あ…………あ……」
切れて地面に落ちた指が消えた。そう思ったら、切れたはずの指が元通りになっていた。
ワーオ、マジック〜。
うん。ほら、痛覚がないからさ。オーバーリアクションを取っても虚しいだけじゃん。
それに、純粋なシズクちゃんが勘違いしちゃって要らぬ心配をさせたくないし。そっちの方が大きい。
……ん? 痛覚がない……?
骨を見る。左手を見る。交互に見る。
…………うん。
「えい」
切先を左手に突き刺す。ズブッと抵抗なく簡単に手の中に入っていく。おおぅ……。貫通せずに刀身が手に飲み込まれていく。
短い方の切先が左手の指先に触れる。こちらも同じくズブズブと飲み込まれていく。
手首まで埋まったところで柄である骨の手が私の右手を離した。骨の手のひらを押して、骨は完全に私の中に埋まった。
…………えーっと、これはあれだ。深く考えちゃダメなやつ。
とりあえず、私の体は便利な肉体収納付きだったらしい。ヤッタネ。
「行こうか、シズクちゃん」
気を取り直して右手を差し出す。
……なんでだろう。エスコートなんてした事ないのに、癖のように体が動く。そうする事が当たり前のように、考える前に体が動く。
「うん!」
元気のいい返事。でも、差し出した右手に触れる感覚はない。
ううん。風が吹いたような僅かな揺らぎがあった。多分、シズクちゃんが触ろうとしてくれたんだと思う。それがほんの少しだけ感じる事が出来たのかも。
嬉しい。そうだといいな。そうだと嬉しい。
通路を進み、階段を登ったり降りたり、右に左に曲がる事を数回……結構入り組んだような道だった。一本道だけど。
私はようやく出口、ううん、ピラミッドの入口に戻ってきたんだ。
眼前に広がるのは黄色い大地。砂漠のような草木も生えてない乾燥地帯。空を見上げれば、やっぱり太陽はなくて、それどころか光源も見当たらなかった。それなのになぜ視界は普通に見えるのか……謎だ。まあ、良いけど。
後、ピラミッドの別れ道。あれ、一本道で繋がってた。どっちから行っても、長い道のりの末に辿りつく場所は同じで、元の場所だった。
「なんだよそれっ!!」
って思わず口に出たぐらいにはふざけてた。誰だよ設計者、出て来いや。その道中もずっと一本道だったし、ムダに道は長かったしで嫌がらせのようなピラミッドだった。
ただまあ、どっちに行っても生首だったら詰んでいた。一歩間違えたら一巻の終わりだった。ホント……あっぶな。




