&15.手を繋ぐ
さて、無事シズクちゃんの不安も取り除けた事だし、再び歩き出す。とりあえずは壁沿いに出口を探すかな。見た感じここにはもう骨しかなさそうだし。
シズクちゃんは……うん、ついてきてるみたい。やっぱり可及的速やかにシズクちゃんの体を見つけないと。私が色々と不安になる。
未だにシズクちゃんの姿は見えない。けど、そこに居るってぼんやりとだけど気配? みたいなのを感じる。見えないけど居るってね。でも絶対の確証はない。
せめて姿が見えればいいんだけど……そういえば、シズクちゃんってどこまで出来るのかな? お触りは出来るみたいだけど。
「シズクちゃん。私と手を繋ぐ事って出来る?」
シズクちゃんが居るであろう方向に手を差し出す。
「てを、つなぐ?」
初めて聞いた言葉をオウム返ししたかのような声が返ってきた。
ああ、声でなんとなく表情が分かる。私の手を見つめてポカンとした顔で首を傾げているんだろうな。絶対、可愛い!
てか、え?
手を繋いだ事がないってどういう事? 育児放棄?
こんなにも可愛い人を放っておくとか正気? 親の面を見たいわ。絶対殴る。
「手と手を合わせて離れないようにするの。あなたの事が大切ですよ、信頼してますよって行為かな」
「そうなんだ。さめじぃと、てをつなぐ!」
軽く弾んだ声にほっこりして、手を乗せてくれるのを待つ。けど、待っても待っても一向に手のひらに触れる感覚はない。
これは……?
「? つなげない……」
シュンっと落ち込んだ声。しまった! 悲しい思いをさせてしまった。うぅ、今すぐ大丈夫だよって頭を撫でて抱きしめてあげたい。
自分の意思で自由には触れないのかな。なにか……きっかけ、というか目的を持った時のみ触れる感じ?
そうなると、ずっと手を繋いでいるのはシズクちゃんの負担になるかも。
「ムリしないでっ、シズクちゃん。出来なくても焦らなくていいよ。大丈夫だよ」
私が早くシズクちゃんの体を見つけてあげるからね。
そのためにも早くここから出なくっちゃ!
はあー。にしても、ここは随分とまあ殺風景な空間だ。見渡しても骨以外ホント何もない。
ここはただ空間が広がっているだけの大きな部屋。デッドスペースがあったんで、一部屋作っときましたーって感じの部屋だ。
この部屋には家具や装飾品の一つない。
机の一つでも置いてあって良さそうな広さなのに、あるのは散らばってるなんのか分からない骨だけ。
ピラミッドだったら壁に彫刻がされてあっても不思議じゃないけど、そういうのもない。
ピラミッドって全部石で作られてるんだっけ?
それにしては壁や床がツルッツルで大理石みたいなんだけど。あ、大理石も石だから同じか……?
んで、一番重要な出口がない。
壁を触りながら、時折叩いて確認しながら、ぐるっと一周回ったけど、見事になかったわ。
いや、なんとなく分かってたけどね。ここに落とされた時から、嫌な予感はしてた。
ただちょっとゴタゴタして、頭の片隅の奥底に押し込まれたのと、僅かな希望を抱いていた。その時はまだ視力が悪かったからね。生首だったから。
はい。出口ないです。
落ちてきたあの天井の穴しか、外に通じる場所がありません。入口だけの袋小路です。
ここの天井、まあまあ高いんだよね。ムダに広いから、この部屋。ムダにね。
しかも入る時、急勾配の後に直下だったから、天井に届いたとしても戻れる自信はない。
さて……どうしたもんかなー。
洞窟とかだと風の通り道がーって感じで道を探せるけど、ここは人工的な建造物だからなー。
やっぱりここゴミ溜めだろ。……はっ!
まさか、ここにある骨ってそういう……?
埋めたら骨だけが残るもんね。えー、てことは私の体も分解中だったって事?
肉体が朽ちて骨だけが残る。それが、唯一ある生きた証。でも、月日が経って存在を忘れられる。そうして、人は完全に死んでいく。
こんな空虚な空間で孤独に……。
ま、私には関係ないけどねー。
一人じゃないし、出ていくし、他人だし。
どっかにハンマーとか落ちてないよなー。
骨しかないもんなー。
「……ん?」
何気なく下を向いたら、足元に転がってるものに目がいった。ここには骨しかない。もちろん、目の前にあるのは骨だ。
「どうしたの?」
しゃがんでよーく観察しているとシズクちゃんから声がかかった。
「んー、キレイな骨だなーって思って」
そう、キレイだった。真っ白で汚れがなくて、新品の骨格模型のような真新しさ。
それが逆に目立った。だってここ、ゴミ溜めでしょ?
拾い上げて指を滑らす。スベスベのツルツルだ。
私は骨を触った事がないから比較は出来ないけど、骨ってこんな感じなんだ。本物かは知らんけど。
むーん。人体の構造とか詳しくないけど、骨って確か関節で繋がってるから、骨同士はくっついてないんだよね?
んで、今持ってる骨、人の腕っぽい形の骨。五本の指先から肩まである。
指を失礼して……動かせる。可動式だ。
見た感じ、骨同士でくっついてるっぽいんだけど。固定する部品とかは見当たらない。接着剤とかだったら動かせないよね。
「わあ……ははっ!」
手の部分を掴んで左右に揺らす。手首と肘の部分が曲がるから、細長い玩具みたいな動きをする。
不思議だなー。シズクちゃんが楽しそうだからいっかー。
骨は硬い。一番は頭蓋骨だけど肩も厚みと大きさがあってまあまあ良さそう。
長さもちょうどいいから、武器として使えそうだと思ったんだよね。棍棒ぐらいにはなれると思う。
まあでも、こんなにへなへなじゃあ力は乗らないけど。
「骨刀ヒーン……なんつって」
こんな骨に希少価値はねーよってね。はは、笑えねー。くだらねー。
『命名プロセスの実行を承諾』
「…………は?」
出口探しに戻ろうと、骨を捨てようとしたその時、頭の中に声が響いた。シズクちゃんの声ではない。もちろん私の声でもない。自動アナウンスのような機械的で人間味のない声。
『旧名クリア。新名インプット』
再びアナウンスの声が聞こえ、顔を上げた時だった。手を掴まれた感覚がした。
「っ!? え?」
驚いて手元を見ると、私の右手と持っていた骨が手を繋いでいた。
『メモリー消去……完了。オーガニズム変更……完了。チャネル接続……完了。システム構築……完了』
「は? え?」
私の困惑を他所にアナウンスは続く。
握った骨の手の先、腕がピンッとまっすぐに伸びる。私の手を握る骨の指がワキワキ動いて、居心地のいい場所を探しているみたいだ。
骨の動きも止まらない。やめて。
『命名プロセスの完了を確認』
「…………まぶっ」
骨が発光して、パァァっと眩しい光が目を刺す。視界が真っ白になって何も見えなくなる。
左手で光を遮り、目を守るように細める。光が止み、手の先にあったのは異形の刀だった。
「………………は?」




