&T2.勇者
物音が聞こえて、目を覚める。
なんだか、外がさわがしい?
「んん……」
えっと……ここ、どこだろう?
確か、森の中にいて……それでお母さんが……っ!
「お母さん!!」
ガバッと起き上がる。慌てて首を動かして、周りを見ても、この部屋には誰もいなかった。
「っ……」
お母さんがいないことに落ち込んで、目線が下がる。
ぎゅって目をつぶって、開けて、自分の手が見えるのがおかしいって思った。
「あ、あれ?」
まばたきして、手がグッパッグッパッて動いてるのを見て、ようやくおかしいの理由が分かった。
「体が、動く……!」
さっきは全然動かなかったのに。今はそんなことない。変なところもない。
「なんで……?」
頭を傾ける。
どうしてさっきは動けなかったんだろう。
夢?
でも、ちゃんと覚えてるし、起きてた。
……わかんない。考えても全然わかんない。
「あ、そうだ。お母さんに聞けば、お母さんならわかるかも。……それに、アイにも会いたい」
そう思ったら、いつまでもベッドで寝ていられない。早く会いに行かないと。
布団をめくってベッドから降りる。
「わわっ……と。あっぶなー」
思ったよりベッドが高くて、降りた時にコケそうになった。いつも寝るのはお布団で床だけど、ベッドってこんな感じなんだ。
振り返って、めくった布団を戻して、きれいにしてからドアに向かう。
窓からは太陽の光が入ってる。だから、もう朝になった。おれは一日中寝てたみたい。あのときすっごい眠たかった。よく寝たから、今は全然目が覚めてる。
ここはだれの家だろ?
おれの家でもアイの家でもない。学校でもないし……うーん?
ドアの向こうから話し声が聞こえる。多分、ここの家の人だと思う。
知ってる人だといいけど。おれ、お泊まりしたことないし、するような友だちもいないから。なんか、キンチョーする。
「まずはあいさつして、お礼言って、それから、場所を聞いて……」
よしって手をにぎる。取手に手を置いて押す。
「……ん? あれ?」
押しても押しても動かない。閉じ込められた!?
ドアの前になんか物が置いてあるのか?
「開けてー!」
ドンドンッとドアを叩く。
向こうに人がいるから、気付いてくれたら、どかしてくれるかもしれない。
「お願い開けて! あけ……っうわ」
突然押されて後ろに倒れる。尻もちついて、お尻をさする。
「あっ、ごめんなさい。大丈夫?」
声が聞こえて前を見ると、こっちに開いたドアと、心配そうな顔の女の人が立っていた。
引く方だったー!
うわ、恥ずかしい。
「だ、ダイジョブ、です……」
へへっと笑ってすぐに立ち上がる。
ドアが開かなくて、助けを求めて、引く方で尻もちついたとか、めっちゃ恥ずかしい。
「その、体調は平気? どこか痛いところ、ない?」
女の人がよそよそしい感じで聞いてきた。
そりゃ他人の子どもだし、おれも恥ずかしくて気まずいけど、それにしては距離があるというか。
「う、うん。ダイジョブです。泊めてくれて、ありがとうございます。あの……ここって誰の家ですか?」
「私の家よ」
それはそうだろうけど。
「その……誰のお母さんですか?」
「誰のって……?」
「えっと、子どもの名前を……」
「私に子どもはいません」
えっ、どういうこと?
学校の友だちの、誰かの家じゃないの?
「なあに? 彼、目を覚ましたの?」
なにも言えなくなって、二人してだまっているとドアの向こうから別の人の声が聞こえた。女の人が横を向いたから、誰かが来たのかも。
「ええ。そうなんだけど……」
「それなら出てきてもらってよ。もうみんな集まってるんだから」
「分かったわ。――ねえ、悪いけどこっちに来てくれない?」
話が終わったのか、女の人はまた顔をおれに向ける。コイコイって小さく手招きされる。
「う、うん」
言われるままにドアの方に歩いて部屋を出る。女の人の後ろについて行って、階段を降りてすぐ横の部屋に入る。
「!?」
大きい部屋で、中にはたくさんの人がいた。みんな、おれを見てる。驚いたような顔をして、みんながおれをじっと見る。
「勇者だ……」
小さい声で誰かが言った。その声に続くように、次々と声が上がる。
みんながおれを見て、ボンヤリとした顔で、「勇者」と言う。
でも、なんだか……変だ。嬉しいでも、悲しいでもない顔。……困ってる?
こういう場合ってどうすればいいんだろ。大人がみんなして、ちょっと怖い。
「あ、あの……」
助けを求めて、おれは家の人を見る。女の人も同じような顔をしてるけど、なにも言ってない。そういえば、最初に見たときも今みたいに困った顔をしてた。
「おれって勇者なの?」
目が合ってから、自分を指して聞いた。
…………絶対、聞くこと間違えた……気がする。
でも他になんて言えばいいかわかんないし、もう言っちゃったし。
女の人は考えるように目を動かしたあと、うんってうなずいた。
なんだ……。
肯定されてガッカリした。おれ、勇者より魔王がよかった。
「……あっ、ま、魔王っているの?」
「魔王? 魔族に王はいません」
「っじゃあ、おれ魔王になれる!?」
よしって手をにぎる。勇者も魔王も、一人だけだから、誰もいないなら、おれでもなれる。
そう思って、言った瞬間、ザワザワしてた声が一気に止んだ。シーンと静かになった大人たちに驚いて見てみると、今度は悲しそうな顔をしてる。
え、なに?
みんなして同じ顔をする。なんか、怖い。
「残念だけど……あなたが魔王になることはありません」
眉を下げた女の人は申し訳なさそうに、それでも確かな事実だと、目を見て言った。




