&12.バリアフリー
私は今、大変悩ましい問題に直面している。
目の前には左右に分かれた通路。
どちらも少し進めば下へと続く階段があった。
私生首、階段は登れないの。
これが俗に言う運命の分かれ道というやつか。
うん。大変悩ましい。
ピラミッドの中に入ってすぐにこれだ。設計者誰だよ出てこいよ。生首にも優しい構造にしろ?
階段とかダメだって。なだらかで優しい坂にしないと。バリアフリーって知ってる?
右……左……右……左……。
クッソ、道路じゃねーよ。今から横断歩道渡るんじゃないから。ああ、頭が現実逃避していく。重大な選択を避けようとしている。
でも悲しいかな。どっちかには進まないと行けない。入口からここまでまっすぐ一本道。当然、他に進む通路もなく。隠し通路があったとしても今の状態では隅々まで確認するのもムリ。
行きはよいよい帰りは怖い。いや怖いってか地獄よ。絶望。終わり。
行った先に体がなかったら帰れないもん。その後、生首さんの姿を見たものはいないという……って怪談ネタのよくあるオチにされちゃうよ。全然笑えないよ。
うー、私には決めれない。右か左か、はたまた怖気ついてピラミッドから出るか。
むーん。ここまで来て引き返すってのはダサい。せっかくミイラさんが入口まで運んでくれたし。ありがたい事に二回も。
しかし、軟弱者の私には左右のどちらを選ぶか、決めかねる……。
よし。ここは泣いても笑っても運次第にしよう。そしたら神様のせいに出来るし。
通路の真ん中に立つように微調整して……ここかな。
思いっきり壁に突進して跳ね返った先、寄った方に行く。うん。
さあ、運命の分かれ道。右に寄るか左に寄るか。それは全て天に委ねられた。
そして今、運命の片道切符が切られましたー!
…………ゴッ。
…………えーっと。あーのー…………うん。
そうなるかーっ。
説明しよう。
私は運任せにしようと転がった。壁に突進した。止まった。
以上。
うん。ピタリと止まったよ。跳ね返りもしなかったよ。接着剤でもついてるの? ってぐらいピッタリくっついてる。
私生首、ちょっと重たいの。
え〜、結局自分で選ばないといけないの?
こういうのダメなんだよ。迷って決められないんだよ。悩んじゃうんだよ。
うー、あー、むーん。
どうしようどうしようと悶々と悩む。うんうんと唸るように悩む。
ヘドバンするみたいに壁にゴツゴツと頭を打ちつける。物理的にね。痛くないし。
頭打ってばかりだと頭が悪くなるって聞いたことがある。だから、ケンカでも脳がある目から上は攻撃を受けないように気をつけてるって言ってた。
そのすぐ後に頭突きしてたけど。自分からはいいのか。
いや、あれはもうダメだ。手遅れだ。頭が悪くなってる。元からか。
あれ見て気をつけようって思ったもん。叱られる時、頭叩かれるから。
今? 今は仕方ないよ。だって頭しかない生首だもん。痛くないからダメージないもん。あたまわるくないもん。……ホントだもん。
はあー、行くかー。もう、諦めて進むかー。
ぐるぐる視界回して三秒数えた先に進むもう。うん。
それじゃあ…………あ?
最後の一突き、と壁に突進した。ぶつかって、その先に進んだ。壁だった場所の先に、進んでいる。
は……えっ……な、なに!?
のぉおおおおお!!!!
壁の先は坂になっていた。滑り台のような急勾配。
お察しの通り、私はスライダーも満足する滑りをしたのだった。
わわわっ……!
滑り台の先に壁がある。行き止まりだと行く手を塞ぐ壁がある。それなのに、斜面の角度は全然ゆるやかにならない。スピードはぐんぐんと増していく一方だ。
ぶつかるっと思った時にはもうぶつかっていた。
ビタンッともゴツンッともとれる、まさに叩きつけられたような感覚がした。
と、止まった?
そう思ったのがいけなかったのだろう。
私の思いを叩き折るように、真下に落下していく。
あ、落ちてるー。
……え、軽いって? 滑り台との温度差が激しい?
いやだって、ねぇ。
これまで何度もアイキャンフライしてるから。
落ちる感覚は慣れたもんですよ。……嫌な慣れだな。
これ……あれだね。ダストシュートってこんな感じなのかね。ゴミの気持ちなんて知りたくもなかったけど。
え、なにっ、ピラミッドってゴミ捨て場だったの?
焼却処分?
お宝って燃えカス?
……あ、燃え残った金属って事?
えー、臭そう。ゴミと焦げた匂いとか最悪のダブルパンチじゃん。汚そうだし。鼻ないけど。
………………あれ?
それじゃあ体なくね?
燃えちゃってなくね?
骨だけになってね?
うそん。
うっそぉーん!
てか、落ちるの長くね?
そう思った次の瞬間、ゴベシャッと地面に衝突した。
すっごい高い所から落ちたんだなー。
そう思ったのは私が落下の衝撃で潰れたから。
ちょっとの事じゃあ変形しない私の体(頭)が、潰れたのだ。いや痛くないけどね。すぐに形戻るからいいけどね。
真上に見上げる事が出来ないから、来た道を確認する事も出来ない。例え見上げれたとしても、目が悪いから見えなかったと思うけど。
はあー、ゴミ溜めって出口ないよね。
汚物は焼却、封印が基本だもんね。
私はここで焼かれて死ぬんだ。
熱さ感じないけど。死ねるか分からないけど。
視界良好。体感良好。異常ありません。
はて? 燃やしてない?
…………むーん。何もない広い空間だ。
ごめん。うそ。
何もなくはない。てか全然あった。
中央には人が横たわってて、あちらこちらには骨が置いてある。
なにこれどういう場所?
とりあえず、まずは中央に行ってみる。体だったら、使えるかもしれない。私の体が手に入るかもしれない。
そう思うと足が軽くなる。足ないけど。転がってるだけだけど。
これで頭がなければ万事オッケーなんだよねー。
さあーって、頭はあるかなーっと。
……お、おお、おぉおおおお!?!?
天は、私に、味方した!!
ヒャッホーイ!
頭ないぜーコイツ!
わーいやったぁー!!
まじまじとその体を見る。目ないけど。
ゴクリと唾を飲み込む。口ないけど。
ぷるぷると体が震える。これはホント。
うん……うん。見間違いじゃない。幻覚でもない。
触れる感覚がある。求めていた頭だけがない体。
お宝はここにあった。
金銀財宝より遥かに嬉しい私の宝。
ピラミッド、ロマンをありがとう。
さ、さあ! あ、緊張で体が……。
落ち着けー私ー。深呼吸だ。スッハッ! よし。
ふう。ひとまず崇めとく?
手を合わせておこう。手ないけど。なーむー。
早くしろって? 分かってるわ!
でもさ、いざってなると緊張するじゃん。
ドキドキしちゃうじゃん。心臓ないけど。
では……いざ、合体!
パチッと目を開ける。手を動かして床につき、押して上体を起こす。ケツで座って、目の前に手を持っていく。グーパー動かして、ギュッと握る。
ふるふると震える拳を天に突き上げる。
「私の、体ー!!!」
バンザイして、喜び叫ぶ。あぁ、声もちゃんと出る。
念願だった体を手に入れた。これほど嬉しい事はない。
「良かったね」と言う別の声とともに、パチパチと拍手が聞こえる。
「ありがとう!」
嬉しくて、反射的に声が聞こえた方に振り向きながらお礼を言う。
言ってから気付いた。
私以外の声が聞こえる事の異常性に。そして、目を開けた先には誰も居なかった。
「えっ」
私の漏れ出た声に反応した拍手の主もまた、私と同じように「え?」と声を出して、手を止めた。
シーンと静まり返った場所で、私はバンザイをしたまま、固まった。




