&10.想像力が物を言う
私の触覚は相変わらず触れた感覚しかない。
私の視覚は相変わらず低い目線でしかない。
踏まれてだんだんマシになってきたとしても、それは毛が生えた程度の少しの成長。大きくは変わってくれない。
塵も積もればなんとやら。けど、ホントに塵過ぎて困る。道のり長過ぎ。
まあ何を言いたいかって言うと、私今壁に沿って歩いてるじゃん?
んで、下は元から埋まってた。地面ね。視界の話ね。
それに加えて横も片方埋まった。壁ね。同じく視界の話よ。
元から狭かった視界がさらに狭まった 。
場合によっては視界、地面と壁、で埋まるのよ。場合って言うか向く方向だね。地面と壁が接する角を見た場合。
だから、その逆ももちろん出来るってわけ。壁を背にして水平移動するような感じ。
笑えるでしょ。それで実際は転がってるんだよ。もっと意味分からんよね。
視界は固定されてるんだけどそこから動かせる事が出来る。いやどういう事だよって思うよね。固定されてるのに動くとか矛盾してるし。
なんかねー、うーんと、正面を向いて目線だけ動かす感じ?
例えば、車のタイヤがあります。真ん中に棒を刺して両端をグルっと繋げます。それが視界です。んで、そのタイヤは四方八方に転がれる球体だよって感じ。
その棒を上下すれば見上げ見下ろしが多少は出来るよーってのが今。完全に真上を見るってのは残念ながら出来ない。まあ上を見たってねって感じではあるんだけど。
……蛇足だったかも。余計に分からなくなったわ。
まあそんな感じで、大自然を眺めながら心を無に、壁を背にして横に転がってたらさ、あったのよ。進行方向に別の壁が。
コンッて当たって動きが止まったの。どうせまた崖かなんかだろうって思ったさ。最初は。
何回もあってその度に気分を上げて倍落とされてるから。もういいよってなってたの。
でもね。違うの。今回は違ったの。
いつもと同じように壁に沿って転がっていたら、それには角があったの。角張った鋭利な角。直角っぽいそれが、私にはどうにも人工物のように感じた。
だから、一旦距離を離して遠目に見てみた。そしたらさ、それはピラミッドっぽい形をしていたんだ。
うん。ピラミッド。
ピラミッドってあれだよね。四角の……なんか四角いやつ。お墓、なんだっけ?
てかそれって完全に人工物じゃん。人の手で作ったやつじゃん。人いるけど。
えっと、ピラミッドってエジプトだっけ?
エジプトってどこだっけ?
やーばい、バカがバレるー。
それ以前に、ピラミッドって砂漠だよね。ここ荒野だよね。砂漠って荒野?
ま、まあ、どっちでもいいや。そんな事は今重要じゃない。
重要なのは今目の前にある人工物、ピラミッドさ。
ピラミッド。その中には金銀財宝、お宝が眠っている。そのお宝を守るのがスフィンクスって犬。スフィンクスに噛まれた人は体を奪われミイラになってしまう。だからミイラは体を探してピラミッドの中を彷徨うのだ。
あれ、私ってミイラ?
ミイラってあれでしょ。仮装でお馴染み全身包帯ぐるぐる巻き。中身って透明人間なんだっけ。透明ってか、魂だけの存在? 幽霊的な。
じゃなきゃ体を探すって辻褄が合わないよね。
むーん。でもおとぎ話に現実論を言ったところでって言うのはあるよね。そもそもミイラが実在するのかってのもあるし。
えーっと、ピラミッドの話って誰に教えてもらったんだっけ……。うー、思い出せない。
んでもって意外な事に私、内容覚えてるもんだな。ちょっと感動。私の頭の良さにね。
話にじゃないよ。ここ重要。
さてそれじゃあ、私もピラミッドに入りたいなー。
入口どこかなー。
なんか忘れてる気がするけど……まあ、いっか。
忘れてるって事は重要じゃないって事だもんね。
入口、入口ー!
…………ないんだけど。
ぐるっと一周、は回れなかった。一面は壁に接してるっぽいから行けなかった。けど入口はなさそうだよね。ないであってくれ。
ピラミッドに入る入口はなし。
なんでー!!??
入らないと何も始まらないよ。
ただの模型かよ。
だったら泣くぜ!?
大泣きしてやんよ。
期待させといてそれはないって。面白くも何ともないから。やめな? そういうの。
正直に入口を提示しなよ。今だったら許してあげる。
まだ拳一発で許してやるよ。いやーん、私ってなんて優しいのかしら。誰もが平伏しちゃうね。崇め讃えても何も出ないよ。声も出ないから。
うえー、ホントに入口ないじゃん。どういう事ー。他のピラミッドもなさそうだし……うん。これだけだ。この辺りには。
もう一回遠目で見てみるか。うーわー、行ったり来たりとかめっちゃ怪しい人じゃん。生首だけど。
大丈夫? スフィンクス来ない?
むーん。入口……入口……どーこーだー。
うーーーーん? あれ? あれか……?
くっそ、目が悪いってホント分かりづらいな。色もぼやけてるのマジ鬱陶しい。
でも、あそこ……半分の半分下のとこ、他に比べて黒っぽい。空洞って暗いもんね。あそこが入口かな。
……ってことはー、これ登らないと入れない?
ウソだろ!? ここまで来てそんな事ってある!?
そりゃないぜピラミッド。卑怯だよ。ズルだよ。
えーっと、つまり……私の体がピラミッドにあるかもしれない。探すためにも中にはぜひ入りたい。
そうじゃなくても、ここがどこか知ってる人がいるかもしれないからね。そろそろなんか情報くれてもいいんだよ。
それで、入口はどうやら少し登った場所にある。登ろうにも転がる身では行けない。体が必要だ。
ムリじゃね?
いやだって、体を探してるってのに、行くのに体が必要っておかしいじゃん。なんだよそれ。
代替を調達するのも難しいんだって!
てかムリだったの!
うおーいマジかよー。萎えるわー。
飛び跳ねても全然届かないしよー。
悲しい。てか悲惨だ。
空を飛べたらなーって、願っても無意味なの、に………………いや。いやいやいや。行けるかも……?
そうだよ。私、ミイラなんだよ。包帯ないけど。ミイラだよ。
だから見えない体が、いや、宙を浮く事だって出来るんだよ。
こういうのって想像力が物を言うんだろう。前は飛ぶってだけしか思ってなかったから、落下しちゃったんだ。もっと、細かく考えて思い描かないとダメなんだ。
ふわっと浮かんでスーッと滑る。
よし。行ける!
むむむぅーーー!
ぬぅううううん!
………………。
ダーメだー。ですよねー。
うん。知ってた。分かってた。
だから気落ちしてなんかない。ないったらない。
エジプトは室内にありますか?
A.いいえ。




