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第1章 1-4 帰還

〔「〈【いっぱいお話できて楽しかった〕】」〉

「そうだね」


僕はヨルヨルと長い長い時間、語り合った。

この空間で眠りについた回数は、もう五回を超えたあたりから数えていない。

一週間以上はここにいる気がする。


話せば話すほど、彼女がただ純粋に魔種の未来を願う少女だということが分かった。

なぜ魔王になったのか――その事だけには触れないように。

幼いころの魔族の友人とのバカ話や、僕の前世での鉄板ネタなどを心ゆくまで語り尽くした。


〔「〈【ふふ、もっと早くお友達になっていたかった〕】」〉

「光栄です、お姫様」


――しまった。

不用意に「姫」などと呼んでしまった。

「魔王」と同義と捉えられたか?


〔「〈【怖がらなくてもいいヨ、わかってるから。ねえ、こっちにきて〕】」〉

「はいはいっと」


腰を上げた途端、まるで袖でも引かれるように彼女に吸い寄せられた。


〔「〈【抱きしめて、くれる?〕】」〉

「お、おう…」


なんで?!とおもったが、人恋しかったのだろう。

僕はまんざらでもない顔をしながら、そっと彼女を抱きしめた。

僕の肉を裂くように、彼女の身体に刺さった槍や剣が僕の腕を傷つける。


〔「〈【はい〕】」〉

「ん?」


彼女がそう言うと、ふっと優しく僕の体が離れていく。


〔「〈【’上’に戻るのが怖いって言ってたから、ちょっとヨをあげたの〕】」〉

「ヨルヨルを…あげた?」

〔「〈【安心して、怖いことはしてないから〕】」〉


足元がぼうっと光る。


〔「〈【またね、トーマス。楽しかったヨ。ぜったい、また会いにきてね〕】」〉

「あ、待――」


言葉が終わる前に、視界がぐにゃりと潰れるように歪む。


――あれ?僕、自己紹介したっけ?


*************************************


「トーマス、トーマス!」

「ん…?」

「何惚けてるんだい?」


後ろからジュディの声がする。


「僕、ここに入ってどれくらいたった?」

「どれくらいって、今君が呼んだんじゃないか」


どうやら精神と時の部屋的なアレだと理解する。


ヨルヨル、また会おう。絶対に。


僕とジュディは横穴を洞穴にし、休息を取った。


*************************************


目を覚ますと、隣で美少女がスゥスゥと寝息を立てていた。


落ち着け。

こいつは大量快楽殺人鬼だ。


……あ、背筋がゾクッとした。


「うう、もるもる…」


そっと洞穴を抜け出し、木の脇でお花を摘む。

ふぅーーー、今日も調子ヨシ!

大きな葉っぱに溜まった水で手を洗い、清々しい気分で伸びをする。

さて、ジュディでも起こして、監獄に戻る作戦を立てるか──。


「グルルルル…」


……。


「僕ってば、このパターンばっかりだよね…」


目の前には、虎のような獣。

滴るヨダレ、ぎらつく牙、狩りの快楽に震える金色の瞳。


「ゴアアアア!」

「どわ!」


咄嗟に横に飛ぶ──


反応できた。

しかも、ちゃんと飛べた!?


獲物に避けられた獣は機嫌が悪そうに低く唸り、

ゆっくりと弧を描くように僕の周りを周回する。


──気を抜けば、死。


僕は腰からリタにもらったナイフを抜き、構えた。

ザザッ、ザザッ。

獣が草木に溶けるように姿を消す。


──音もやむ。


静寂。


「後ろ!!」


反射的にナイフを振るった。

刹那、肉を裂く感触。

振り向けば、獣の瞳と顔の一部が裂けていた。


「ギャッ!」


獣は血を滴らせながら、怯えたように森へと消える。


パチパチパチ。と手を叩く音。


「全然弱くはないじゃないか」


ジュディの声。


「ボクほどじゃないけど」


彼女は獣の皮をポイッと僕に投げてきた。


「ヌエの毛皮は高く売れるんだよ」


鵺?

……ケルピーに続き、またもやイメージ違うけど、まあいいか。


それより、自分の動きに驚く。

明らかに強くなっている。

ヌエが直感的に後ろからくることもわかった。


──これが、ヨルヨルの言っていた“あげる”なのか?


遠くからビィィイー! と警告音が響く。


『規定人数になりました。4時間後に監獄に戻します』


「タイミングがいいね」


ジュディがニヤリと笑い、木の枝をこちらに投げる。


「案外やれるみたいだし、時間まで付き合ってくれない?」


「……剣聖みたいに〇されるのはちょっと…」

「手加減はするよ!」


ジュディはプリプリしていた。かわいい。


僕の戦績は、まあ…お察しの通り全敗。

彼女の強さは尋常ではなく、手も足も出なかった。


気づけば、後半の二時間は剣術指導の時間になってしまっていた。


再度、ビープ音が鳴る。

ジュディが手を振り微笑むと、

僕たちの視界は暗転し──


見覚えのある監獄へと戻っていた。


***********************


「あ、生きてんじゃ〜ん」


自分の独房に戻ると、リタがゴロゴロしていた。


「ん? んんん?」


僕に近寄り、匂いを嗅ぐ。


「なんか、すっごくいい匂いする! おいしそうなような、懐かしいような…」


ひとしきり匂いを嗅ぎ終わった彼女は


「ま、いっか!おかえり、ダーリン♡」


「ちょ、待──」


くたくたに疲れた今は、マズいって!!


「うおおおおおおおおおおおおおおん!」

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