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第1章 1-2 ジュディ

そうだ!脱獄しよう!


「もう無理!無理無理無理無理!毎日毎日、毎日毎日毎日毎日…!」

リタが来る頻度が「毎日」になってから数週間経った。


「このままじゃ干からびて死んじゃうよ!」

「でもニンゲンにとって、ここはそういう罰を受ける場所でしょ?」

「でも僕、悪いことしてないのに!」

「でもトーマスはデブの頭をカチ割ってるじゃない」

「そうでしたああああああああああああ!!」


鬱だ。


「トーマスってサイコーに美味しいし。何回でも食べれるし。ホントに脱獄する気ならアタシもついて行こうかな~」

「脱獄したい理由、リタさんがほとんどなんだけどね!?」


リタがしょんぼりし、少し笑う。

いやいや、冷静に。騙されてはいけない。


だって、彼女に「食事」されると、全力疾走でフルマラソンを走り切らされたかのような疲労感が襲ってくるんだ。

何を言ってるかわからないって?僕だってしたことないからわからないよ。

とにかく、それくらいしんどいのだ。


「脱獄って言っても。まずは中央の森を突破して、管理者を倒して、人間の監視網を抜けなきゃいけない。

ケルピーだってアタシなしじゃ無理なトーマスには無理無理」

リタはケタケタと笑う。


「やけに詳しいな」

「貴族様に呼ばれて通った道だからね」


なるほど、そうだったな。彼女は、ある意味脱獄の成功者だ。


その瞬間、突然、けたたましいビープ音が響き渡る。


「なんだ!?」

「おお、久しぶりだね、これ」


ビープ音が止まると、冷静に告げられた。


『収監者の数が規定人数を超えました。結界を解除します』


「じゃ、生きてたら、また食べに来るわ。アンタ楽しかったわよ、それなりに」

「おい!」


リタは手を振る。


*************************************


その瞬間、目の前の景色がガラリと変わった。


「ここは…?」


木々が並ぶ森、聞き覚えのある鳥の鳴き声…


ケルピーの群れ!?


「は、はは」


「「「キシャアアアアアアア!!!」」」


冗談じゃない!どうやら僕はケルピーの巣の真ん中にワープしてしまったらしい。


行け!脱兎のごとく!

考えるより前に足を動かせ!

逃げろ!逃げろ!ケルピーは速いだろうけど、気にするな!

空を仰いで鳴く個体、慌てて走る個体、こちらを追いかける個体…ケルピーも混乱しているみたいだ。


巣を走り抜け、ついに端にたどり着く。だが、飛び降りるには、端が盛り上がっていてその先が見えない…。

一旦、ブレーキ!

振り返ると、目の前にケルピーの鋭いくちばしが迫っていた。


―――やられる!


「《せん》」


凛とした声とともに、虹色の閃光が走る。


瞬間、血の雨が降る。内臓やら何やらもボトボトと。


「うわ、うわ…」

「大丈夫か、キミ?」

「ああ…誰か知らないけど、ありがとう。助かったよ…」


フードを深くかぶったすこし小柄な人物が現れる。その姿に、男女の区別がつかない。


「アンタも囚人なのか?」

「え…?ああ、そうだよ。ボクはさっき収監されたんだけど、すぐにこんな状況さ」


彼の言葉に、すこし疑問が湧く。


「これって何だ?急に知らない場所に飛ばされたんだけど」

「ああ、放送にもあった通り、人数調整だね。規定人数をオーバーすると、こうやって囚人を転移させて魔種に食べさせるんだよ」


「え?じゃあアンタが人数オーバーさせたのか?」

「ふふ、そうなるね。あ、失礼、フードを脱いでなかったね」


彼はフードを脱ぐと、その姿に驚愕した。


金髪、肩までの長さで、ウェーブがかかっていて、上品ささえ感じる。

けれど、その顔には僕と同じ焼き印が押されていて、痛々しい。


「いや、こっちこそすまない。男だと思ってた」

「随分とハッキリ言うんだね」

「正直なことだけが取り柄で…。ところで、悪人には見えないけど、なんで捕まったんだ?」

「あー、うーんと…その…。」


彼女は言いづらそうにモジモジしている。

頬を染めながら彼女は言う。


「ボクは剣技を極めることを目指して生きてるんだけど、先日王国の剣聖に決闘を申し込まれてね」


「ふむふむ」


「試合が楽しくて、ヒートアップして…気づいたら殺しちゃって、そのあと衛兵も敵だと思って…」


「oh…」


「ち、違うんだよ?スイッチが入っちゃうと、ちょっとね」


「…」


乙女の恥じらい!みたいな表情をしているが、滅茶苦茶凶悪犯じゃないか!!!


「じゃあ、ボクはこれで」


そんなドン引きの雰囲気を察したのか彼女は立ち去ろうとする。

近寄らない方がいいか…と思ったが、この「人数調整」を乗り切るためには心強い戦力になりそうだ。


「あ、待って!」


彼女の手をつかむ。


「恥を承知で頼む。僕、滅茶苦茶弱いんだ。情けない話だけど、この『人数調整』の間、助けてくれないか?」

「えぇ…?でも君だって犯罪者なんだろう?ボクの剣は弱きを守るためのものだから、犯罪者はちょっと…」

「いやいや!僕は、」


かくかくしかじか〜と投獄の経緯を語る。

かくかく…………

しかじか………

たんたん……

……


「う、うええええぇぇん。そんなむごい事が…トーマス、うえっ…うええ。キミ苦労していたんだね」

「あ、ああ…そうなんだよ」


ここまで同情してくれるとは思わなかった。

リタのことは「女の子」と説明したけど、嘘ではないよな、うん。


「わかった。ボクがキミを守るよ。君の行為は褒められたものじゃないかもしれない。

でもボクはそれが正しかったと思う。弱き者を助ける男の子は立派だ。」


「おお、ありがとう!」


彼女は枯れ木の盛り上がりに乗って、僕をなでる。お姉さんぶりたいのだろうか。


「長話がすぎたね。ひとまずここは離れよう。ケルピーの血の匂いにつられて…って、もう来てるみたいだね」


ゴリラより一回り大きな獣が森の奥から地響きを立てて近づいてくる。


「逃げないと!」

「え?」


彼女はきょとんとした顔をしている。

問題ないよ。と言い、彼女は駆け出す。


「自己紹介がまだだったね。ボクはジュディ」


虹色の輝く剣戟はまるで閃光のようだった。


「この国最強の戦士さ」


振り返ると、ゴリラの化け物は自己紹介の暇なく無惨に散っていった。


「つ、つえええーー!!」


************************************


「いやぁ!ジュディがいれば百人力だよ!」

「ふふ。ありがとう」


ジュディと話しながら森を歩き、休むのにちょうどよさそうな洞穴を見つけた。


「今日はここで休もう」

「そうだね」


洞穴の奥に、ぼんやりと光る何かが…。


―――うーん、学習したヲタクの勘が働く。罠だ、絶対に。


「なあ、ジュディ。奥になにかある。何かが…」


また見たことのない世界が広がる。


「落ち、落ち、落ちてるうーーーーーーーーーー!」


我、絶賛落下中ナリ。救援求ム。

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