第1章 1-14 決戦!獣王ナベリウス-2-
「まずい!」
ヌエの固有魔法で視界を奪われる。
世界は一瞬で白黒の無彩色に染まり、耳元では獣の唸り声と、ナベリウスが放つ轟音が交錯する。
その音が、まるで空間そのものを震わせるように響いていた。
「ぐっ!?」
圧倒的な力に、体が押し潰される。
何かに捕まれた感覚、次に襲ったのは、まるで空を飛ばされたかのような衝撃だった。
異常な速度で投げられた体は、木々をなぎ倒しながら飛んで行く。背中に木の枝が突き刺さり、肉を引き裂く痛みが走る。
どれほどの距離を飛ばされたのか、視界が再び色を取り戻すころには、体はボロボロだった。
意識が薄れかける中、目の前に現れるのは、僕を嘲笑うかのような絶望的な存在。
「お前…魔王のなんだ」
「答えろ」
「食料が!」
赤い蒸気を纏って、ナベリウスが迫る。その歩みが恐ろしいほどに重く、地面をひび割らせながら近づいてくる。
「知らねえよ…」
「嘘を」
「つくな!!」
「ゴミが!!!!」
ナベリウスの巨大な足が上から降り注ぎ、僕の上半身を踏みつぶす。
虫を踏み潰すように、何度も、何度も、踏み込まれ、圧倒的な力で体がねじ曲がる。
息も絶え絶え、血と泥にまみれた体を、ナベリウスが無情に引き寄せる。
「死ぬんだよ」
「普通ニンゲンはこれで!」
「なんで死なねえんだよ!!」
視界は真っ赤に染まり、体からは血液や体液が流れ落ち、足元に黒い液体が広がる。
その中、僕の口が勝手に動いた。
〔「〈【死にたいの?〕】」〉
ナベリウスの動きが、突然ピタリと止まった。
〈【〕】」〉【〕】〈【〕】」〉」「〔【〕】」*「【〕】」「【〕*】」〉」「【*【〕】」「〕】」〉〈【〕】」〉
ここは…?
真っ暗な空間に、病的に白い肌の少女が座っている。
まるで首輪のように首には何本もの刃が突き刺さっている。
深紅のドレスをまとう彼女は、まるで異次元の存在のようだった。
〔「〈【トーマス!もー、またボロボロになってる〕】」〉
「ヨルヨルなのか…?」
〔「〈【えへへ、ヨ、かわいい?〕】」〉
「ああ、そ、そうだな」
〔「〈【ヨのつくったオモチャが、ごめんね。壊れちゃったみたい〕】」〉
「作った…?ナベリウスのことか?」
〔「〈【?〕】」〉
彼女はキョトンとしている。
〔「〈【ねえ、トーマス。トーマスはここから出たいの?〕】」〉
「うん…そうだね」
〔「〈【ヨとまた会ってくれるって約束したのに?〕】」〉
「う…ごめん…」
〔「〈【ふふふ!いいヨ。トーマスはいっぱいお外で遊んでみたいんだもね〕】」〉
「うん…この世界にきて、初めて僕は人生が始められたと思ったんだ。目的なんてわからない。でも、外に出て、それを見るけたいんだ。
いろんなものをみて、いろんな体験をして、僕の人生の意味を見つけたい。
ごめん、調子のいいことを言ってるのはわかってる。ヨルヨルともいつか、一緒に旅をしたいって思ってたんだ。だから、迎えに来れるその時まで、待っててほしい。」
〔「〈【いいヨ。ヨは待つのは得意だから〕】」〉
ヨルヨルはトトトとこちらに走り寄り、上目遣いでこちらを見る。
〔「〈【ね、ヨかわいい?〕】」〉
「え…?ああ。かわいいかわいい。」
〔「〈【ちゃんといって〕】」〉
「ああ、かわいいよ」
〔「〈【ふふ!ふふふ!じゃあ、あとかたづけ、手伝ってあげる。トーマスだけにトクベツ、だヨ?〕】」〉
〈【〕】」〉【〕】〈【〕】」〉」「〔【〕】」*「【〕】」「【〕*】」〉」「【*【〕】」「〕】」〉〈【〕】」〉
「やはり」
「お前」
「魔王か!!」
ナベリウスが笑いながら、再び剣を構える。
その笑顔が、まるで僕を試すかのように歪んで見える。
「なんだこれ…」
体は血まみれで、骨はもう折れていない箇所がない。
なのに僕の体は起き上がる。
ありとあらゆる穴から血なのか何なのか、いろんな液体が流れ落ちるのが止まらない。
僕の足元が黒く染まっている。
最初は僕の色んな体液の混ざったナニカかとおもったが、その黒は徐々に広がる。
「ようやく、あの時の無念が」
「魔種の無念が」
「あああ!やっと果たせる!!」
四つの剣を構えたナベリウスがこちらに剣を振りかぶる、しかしその剣は僕に届かない。
ナベリウスの振りかぶった腕を含む、僕の周囲数メートルが、黒い灰に包まれ、風と共に消え去る。
舌打ちと共にナベリウスが距離を取る。
〔「〈【殄殲〕】」〉
言葉が自然に口から零れ落ちる。ヨルヨルの力だろうか。
「今更」
「亡霊が」
「出てくるなァ!!」
剣の投擲。
ナベリウスの剣が、先ほどよりも広い範囲で朽ち消える。
僕が前に進むと、森の木々が枯れ、荒れ果てた大地が広がっていく。
〔「〈【殄滅】」〉
「「「ガア!!」」」
ナベリウスの二本の腕と竜頭が腐り落ちる。
〔「〈【殄…〕】」〉
ふっと、ヨルヨルの気配が消えた。
ここでMP切れかよ!?
「トーマス!無事か!?」
満身創痍のジュディと、生き絶え絶えのリタを抱えるヴィネが追い付いてきた。
ナベリウスの姿を見たジュディは、剣を引き抜き、怒りの表情を浮かべる。
「「クソ共がァ…!!」」
ナベリウスも再び剣を構える。
全員が満身創痍で、次の一撃が最後の一撃となるだろう。
僕は、力を振り絞って剣に魔力を込める。
空の剣と風の剣が、巨体を打ち破った。




