第1章 1-13 決戦!獣王ナベリウス-1-
いざ決行の日、僕は商店で身支度を整えていた。
「これ、買い取ってもらえます?」
「スライムか、珍しいな。銀貨三枚でどうだい?」
「ありがとう。」
手にした銀貨で新しい靴を調達する。死ぬほど走るんだ。いや、走らなければ死ぬんだ。今日の相棒よ、頼むぜ。
「よっ!」
森に足を踏み入れると、ヴィネとリタが僕を迎えてくれる。
「行くぞ!」
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「ここを超えればナベリウスの領域だ。一瞬で飛んでくるぜ」
「ああ」
鬱蒼とした森の中、ヴィネが静かに言った。その言葉が空気を引き締める。
「と、その前に。コソコソしてないで出てきたらどうだい」
背後からガサガサ音が聞こえる。
「ジュディ!」
「…………………抜け駆けされたくないだけだよ。ナベリウスを倒すのはボク。それだけさ」
なんだかじ~んと来る。
「魔族と慣れ合う気はないからな」
プイと彼女は視線をそらす。
「仲間か?」
「ああ、友達だ」
「…相当デキるな、こいつ。まぁなんにせよ、戦力大強化だ!やったな!」
背中をバシバシ叩かれる。僕は事前にジュディに作戦を説明した。
「それなら、ボクが走ろう」
「いいのか…?」
「ヤツに借りがあるのは、ボクも一緒だからね」
思わぬ選手交代に、僕の新しい靴が少し悲しげに見える。
いや、でも適材適所。
きっとこれが正しいのだろう。
「じゃあ今度こそ!ジュディ、たのむ!」
ジュディはラインを超えた。
僕たちは離れ、様子をうかがう。
地響きが聞こえる。
「来た」
「ここを超えたな」
その圧倒的な存在感に、空気が凍りつく。
三つの頭のうち、一つの人間の頭だけが、冷徹に告げた。
「脱獄者とみなし、お前を殺す」
「殺せるものなら」
ジュディが駆け出すと、ナベリウスもその後を追う。
「追うぞ!」
森が生き物のように唸り声を上げ、全ての生命がうねりをあげる。
まるで一つの巨大な生物が動き出したかのようだ。
僕たちは走りながら、ヌエやケルピー、数多の魔獣を相手に戦う。
ジュディの足は速い。
ナベリウスに追いつかれないだろうと信じて、リタは魔獣たちに石化の魔法をかける。
「数が多すぎる!」
「とにかく死に物狂いで頑張れ!」
ヴィネが魔獣を倒してくれるが、次々に現れるその数に、心が折れそうになる。
ジュディは無事だろうか…。
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「ちょこまこと…逃げるなァ!」
ナベリウスが走りながら、竜の頭が森を燃やし尽くさんばかりの炎を放つ。
「わるいけど、そういう作戦だからね」
ジュディはひたすらに走る。
「さ、ここが勝負どころ。」
目の前に、監獄の端の壁が見えてきた。
円形の構造を回りながら、魔獣たちの合流を避けるため、大きく迂回しつつ中心に戻る計画だ。
しかし、その軌道には危険が伴う。ナベリウスと接近する瞬間が来る。
「その命、取れそうなら、取らせてもらうよ」
ジュディは立ち止まり、剣を構える。
「ようやく観念したか!」
「閃!!」
ナベリウスは4本の剣で煌めく斬撃を容易く受け止める。
「やっぱり強いですね…!」
ジュディは踵を返し、また一目散に逃げ始めた。
「食料の分際で!!」
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「ジュディ!」
僕はある程度片付いた魔獣をヴィネに任せ、ジュディの後を追うよう足を急がせる。
すでに彼女は折り返しており、遠くにナベリウスが見える。
「風魔法を」
ジュディに風魔法を付与してもらい、僕の体は軽くなる。
「変わるか?」
「いや、大丈夫だよ。それより」
ナベリウスが明らかに《《疲れている》》。
僕たちは、落とし穴を仕掛けた地点まで走り抜け、そこで魔獣を片づけ終えたヴィネと合流した。
「首尾は?」
「上々」
走るのを辞めたナベリウスが、地響きと共に木々をなぎ倒しながら迫ってくる。
「ゴミともが…」
ナベリウスがヴィネを見る。
「お前…」
「よっ、久しぶりだな」
「お前も俺を裏切るのか!!」
怒りに燃えた足が一歩踏み込んだその瞬間、僕は地面に剣を指し『スイッチ』を押した。
「なにィ!?」
ナベリウスの足元に穴が現れ、体勢を崩した彼がそのまま落とし穴にハマった。
「これぞ、スライムの落とし穴ってな」
穴には事前にスライムを仕掛けておいた。
落ち葉や枯れ木を積み、スライムに食わせ、巨大なスライムを作り上げた。
足元に違和感を感じさせないよう、最大限に土を詰め込む。
その上で、ターゲットが乗った瞬間、スライムの核を攻撃し液状化させて足場を崩す。
通常の落とし穴ならば、誘導の段階でバレていたかもしれない。しかし、この方法なら誘導については違和感なくできると考えた結果、見事に成功した。
「たたみかけよう!」
ジュディが声をかける。
「固有魔法、弱点付与」
ジュディがそう告げると、水中で足掻くナベリウスの体に風の渦が発生する。
「そこを狙って!そういう魔法だ!」
説明になってない説明を頼りに僕とヴィネは風の渦を目掛けて攻撃を叩きこむ。
「ぐああああ!!」
――手応えあり!
ナベリウスの絶叫が響く。
が、
次の瞬間、穴の水は蒸発し、枯れ木が燃えた。
「ナメやがって…こんな小賢しい手で俺様を倒せると思ったのか…?」
穴の端に手をかけ、三つの頭が、三人を捉える。
「不死身かこいつ…」
確かに、肉体は切れ、満身創痍には見える。
それでも、獣王ナベリウスは立ち上がった。
不屈の怪物を目の当たりにし、絶望感が僕たちを包み込む。
「「「皆殺しだぁあああ!!!!!!!!!!」」」
爆風と熱波、そして空から、どういうわけかヌエが降ってくる。
「これは…」
「最悪だね…」
獣の王は、我を忘れ怒り狂っていた。




