第1章 1'-6 潜入!アクーティカ王国
夜の闇が街を包み込み、ユリエルはひとり歩き続けた。
足元の石畳は冷たく、風は少しばかり肌寒い。
彼女は心の中で、ヴォルハウス卿の言葉を心で反芻する。
『ユリチャンの求める答え知るきっかけが、アクーティカにはあるヨン』
「そんな事言われなくても、行くつもりでしたわ」と、無意識に口がひらいた。
彼女は王国お抱えの馬小屋から愛馬ベルベットを引き出すと、軽く頭を下げ、馬の鼻を優しく撫でた。
「朝早く起こしちゃってごめんなさい。ベル」
「ぜ~んぜん構わないよぉ」
ヒ・ゲ・オ・ヤ・ジ!
ユリエルの心のイラつきゲージは朝から振り切れそうだ。
「なんでいるんですの」
「ええ~オジさん置いてっちゃうなんてえ、さみしぃ~つらぃ~やむ~」
「ハァ……………………………………………………、ついてきたいなら、どうぞご勝手に」
ヴォルハウス卿は待ってましたとばかりに準備済みの馬にまたがると、ニヤリとした表情を浮かべた。
「ついていくのはオジさんだけじゃないけどねぇ。出てきなよ。長旅になるんだ。走っていくのは辛かろう」
闇の中から、小柄な女性が姿を現した。
「…何時から気づいていた」
「フッフッフ、アハハハ。オジさんはルシウスのオトモダチだよぉ?王国のルールをしってるだけサ」
「カゲ…直接お会いするのは何年ぶりでしょうか」
カゲ、と呼ばれた黒の衣装に身を包んだ彼女は軽く会釈する。
その瞳の奥には、長年の信頼と、王族を守るための覚悟がひしひしと感じられる。
彼女たちは王族に一人ずつあてがわれる。
その役割は第一に、いかなる状況下でも王族の安否を確保するための存在。
そして、第二に、カゲの情報は全て王に集められる。
裏切りを起こさせないための、抑止力。
「さぁ、楽しい旅になりそうだ。両手に花だしねえ~、アレ?あれあれ?恥ずかしがらなくて、いいんだよぉーん!」
ユリエルとカゲはさっさと馬を走らせた。
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3日、馬を走らせ国境へ。
ユリエルたちは商人という身分を使って入国することに成功した。
その後、さらに1週間、馬を走らせてようやく王都へとたどり着く。
「いやぁ~!遠かったね!オジさん腰が爆発しそうだよ!」
「カゲ、わたくし達のことを気づいていそうな人間は周りにいる?」
カゲは首を横に振る。
「オジさんのこと無視しないでほしいナァー」
無視されたくないのであれば、旅の最中の数え切れない破廉恥な行為を反省しろと心で悪態をついた。
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長旅の疲れを癒すため、ユリエルは二人に自由行動を提案し、広場へと散策に出かけた。
アクーティカ王国は、グレイヴィア王国のような豊かな資源を誇るわけではないが、その交易によって発展を遂げた国だ。
ここには様々な種族が行き交い、街のあちこちで異なる文化が交じり合っている。
エルフ、リザードマン、魔族に似ているが、彼らはすべて人間側の仲間だ。
魔族との違いは、心臓があるかどうか。
魔種は心臓ではなく、核で動いているのだから。
あたりまえだが、いくらぼーっと街を見渡しても、魔獣が見つかるわけでも、
ヴォルハウス卿ののたまう「魔種廃滅のヒント」が見つかるわけでもない。
――少しでも情報を集めようと思いましたが…。疲れがたまってますわね。今日は旅の疲れを癒しましょう。
「あら?あらあら?」
突然、可愛らしい声が背後から響く。ユリエルはその声を聞き、すぐに振り返った。
「げっ…クッキー」
「ええ、ええ!クッキー・アクーティカよ!学院以来ね、ユリエル!!!」
元気よく現れたのは、アクーティカ王国の第三王女、クッキー・アクーティカだ。
彼女とは、ユリエルが過去通っていたオルディス学院で同級生だった。
共通点の多いユリエルにやたら絡んでくるのだが、ユリエルは彼女の無邪気さに少し苦手な感情を抱いている。
「いいんですの…?仮にも王女が一人で、こんなところにフラフラと」
「いいのよ!ウチは放任だから!!!」
王家でそんな一般家庭みたいなことがあるんだろうか…と、内心ツッコミをいれる。
おそらく、彼女が勝手に城を飛び出してきただけだろう。
「クッキー、最近あった面白い事でも教えてくれませんか?
あ、あと今日はお忍びできてるんですの。このことは王には内密に。」
「いいわよ!ええ!ええ!面白い事、いっぱいあるわよ!!!」
クッキーは興奮気味に話し出すが、ユリエルは心の中で、少しでも何か役立つ情報があればいいな、と思っていた。
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クッキーの話は、心底どうでもよい話がほとんどであった。
最近城の猫が1匹行方不明になったとか、犬の糞がいつもよりひとまき多かったとか、執事がぎっくり腰になったとか、シャムハザイ王の謁見の時間が少しずつ減っていてサボっているとか…。
「ああ!そういえば!!!」
「最近、勇者ガトー様見たわよ!とってもかっこよかったわぁ~~!!!」
「ガトー様…?彼は武者修行に出てたはずじゃ」
「さぁ?終わったんじゃない?ムシャシュギョー。
結構ウチに出入りしてるし、ウチの宮廷剣士とかなってくれないかしら~!!!」




