81:生まれ変わっても埋まらぬもの
「ずいぶんと無茶をするものじゃあないかッ!?」
怒りに任せての再合一……いや元々別々の意識と機体であるのだから侵略と呼ぶべきか。
ともかく飛行機械生命体の機体に融合するエステリオに遅れて、私も駆けつけたボディと結びつく。
そうして鉄巨人に変じた私の顔面を狙って飛んできた拳を、私は掌で受け止める。
「必要が無い者には分からぬだろうなッ!? 本来の機体を失わずにすんだ、恵まれたお前にはッ!?」
拳と一緒に飛んできた妬み節。それを吐き出す醜悪に歪んだ飛行機械生命体――元の名はエラフロスだったか――の顔に私は目からビームを。
顔面から爆炎を上げて吹き飛ぶアステルマエロル=エラフロスは、コンパクトな小型ジェット機由来の翼とスラスターを駆使して宙返り。反撃のキーナブラスターを。
視界が焼けているがための乱射。狙撃とは真逆に面制圧を狙ったそれは、避けてしまえば部下に害が及ぶ。
故にここはソードウィップ。
伸びてしなり縦横無尽に切り裂く光の刃による結界で膨大な光の弾幕を防ぐ。
それにしても、私が恵まれているときたか。
上役にいるのがほぼほぼろくでなし。そんな奴らに労われるでもなくこき使われた果てに、捨て駒同然にされて顔を潰され首を撥ねられて死んだかつての私がか?
「なるほど。言われてみればたしかに幸運だったようだ。何がどのように巡り合わさったのかは定かでは無いが、今このように収まっていると考えればな」
そのタイミングだったから。倒れたのがその時だったから機体もまた無事に再生完了して再会もできた。
そしてそのように復活したのが利用し、共栄しようと考える私であった事。それが人間には幸いであった。
なるほど。無茶をせずとも今を楽しく生きれている私には、ヤツの無念など想像でしか分からん事だ。
そんな考えが伝わったのか、アステルマエロルを宿したエラフロスは顔に巻きついた煙を振り払うと、燃えるように明滅する目と銃口を私に。
正確な狙いから放たれた妬みの力。これを切り払った光刃は、その勢いに乗って飛行機ロボへ伸びる。
「お前が……! お前さえいなければッ! 腰を据えてオレはオレを……本当のオレの姿を取り戻す試みを重ねられていただろうにッ!!」
発射と同時に飛翔。
そうして我が刃を避けたヤツからまたも的外れな怨み節と弾丸が。これを目からのフラッシュブラストと手繰り振り上げたソードウィップとで打ち消し、捌いていく。
しかしそれにしても私さえいなければ、か。
それだけで本当にすべてが思い通りに行くと思い込んでいると。それがもし本気だとしたらとんだお笑い草だ。
「何がおかしいッ!?」
「何がときたか。できるはずも無い絵空事をできたはずだとほざいているのだ。それはおかしいだろうが」
いきり立ったヤツの降らせた弾丸を真っ向から切り裂き、その奥に飛ぶヤツの翼もろともに断つ。
「何を……ッ!? 何を根拠にそんな、できるはずもないだなどとッ!? オレの機体がお前のように完全復元していないだなどとどうして言えるッ!?」
バランスを失い、墜落するのをかろうじて受け身をとってしのぐアステルマエロル・エラフロス。そうして衝撃を転がり流しながらの言葉とエネルギー弾に、私は光の刃を向ける。
「なるほどたしかに。お前のかつての機体が完全消滅している事。これに私は確証を持っていない。復元の可能性についても同様にだ」
「であればッ!?」
「だがそんなことは問題にならんところでお前には不可能だと言っている。人間から反感を買うことしか出来ないお前にはな」
そう。ヤツのやり口ではこの星のすべてを敵に回す事になる。
当然人間種のすべてを、真に一人残らず心からの味方として率いることなど不可能であろう。
だがアステルマエロル=エラフロスのやり方では、恐怖と打算で従えたものすらいずれ離れていく事だろう。
周りのすべてが敵だらけ。そんな状況で力を取り戻す、蓄えるなど出来るはずもない。
「敵だと? 小さな虫けらのごとき人間ども、それも文明レベルも低い連中ごときがオレの敵足り得るモノか!? オレの敵と呼べるものなど……お前さえいなければッ!?」
「またそれか? そんな考えだから、お前ごときでは私の敵になり得んのだ」
ふりだしから動こうとしないヤツの結論。まったく学習も進歩もない。
たしかに個々の力は弱い。武器も山を崩すレベルの仕込みを果たして、ようやく我々を傷つけられる、そんなところではあるだろう。
だがそれだからこそ、弱く、小さく、しかし無数にいるという厄介さを理解出来ていないとはな。
「直接戦う必要など無い。お前を取り囲む全てが、お前の求めるものをひた隠しにする。それだけでお前は何も手が届かないのだからな」
いくら力があろうが、単独では出来ることもたかが知れている。そしてヤツが多少は道具になると見込んでいる機械生命体らも、従順に従い続ける事はあり得まい。
「そうして一人きり、望むものすべてが手をすり抜けて果てる。それがお前の辿る末路であろうさ」
「バカなッ!? 何をバカなッ!? このオレが、そんな無様を晒して果てるだなどと、バカげた妄言だッ!?」
私の予言を受け、それを振り切ろうとするように強く踏み込むアステルマエロル=エラフロス。スラスターの推力を上乗せした最短距離の突撃に、私はついと体を横にそらしてかわす。
その際に残した光の鞭がヤツの足にかかってその足首から下を切り離す。
「グウッ?! それを言うお前の方こそ、その力を虫けらに食い潰されて朽ち果てるのがオチだぞッ!? 支配者が手温いやり口で消耗するなど本末転倒だッ!!」
「短絡的な理屈だな」
片翼に続いて機体の支えを失い、それでもなおハチャメチャな軌道で飛ぶヤツ。それが落とす戯れ言と光の弾を、私は目からのビームを添えた一言で叩き落とす。
世界を支配し思いのままとする。まあ大きな野心であり欲望である。
ではそれを果たした後をどうするのか。
この大望を抱いた者のうち、それなりの理想理念の実現を求める者も無いではないだろう。が、大半はまともに考えてはいまい。
せいぜいがアステルマエロルの言ったようにただただ食い物とする程度か。
それはある意味では正しいか。
背負うつもりが最初から無い、自他の破滅を理想とするのであればな。
だが私はそうではない。私の元で発展をさせ続け、その恩恵をおいしくいただき続けたいのだ。
ヤツとそのお仲間にとってはバカげたところであろうが、そこは理念の違いというものだな。
「ええい下らん下らん! ならばお前が天塩にかける人間どもの滅びを見てうちひしがれるがいい!!」
「他者を歯牙にもかけていないから、そこに思い至るのが遅れるのだ」
アステルマエロルの叫びに応えるように、瓦礫の中から飛び出すモノが。
しかし私に力を授けるセプターセレンの準備は、すでに余裕を持って完了。ヤツがドッキングを始めた段階で、車になった私が変形を済ませた機体の首元にスライドイン。
そうして翼を取り戻し、我が軍勢に襲いかかるアステルマエロルに拡散のフラッシュブラストを浴びせてやる。が、ヤツの動きは止まらない。
「ふはははッ! この程度で止まるモノかよッ!? さあ己の無力さを思い知るが……ぁあッ!?」
突進の勢い緩めず、勝利を確信しての高笑いは、しかし半ばで詰まる。まあタネや仕掛けなんてほどのものでもない。
フラッシュブラストと同時にソードウィップの網を進路上に仕込んでおいた。それだけの事だ。
「彼らは私の大切な民であり兵なのだ。お前ごときに好きにさせるはずが無いだろう」
「お、おのれぇえッ! ニクスレイアぁーッ!?」